2018年度の宅配便取扱個数は43億701万個、前年度から5,568万個(1.3%)の増加

国土交通省は10月1日、2018年度の宅配便取扱実績を発表しました。2018年度の宅配便取扱個数は43億701万個で、前年度と比較して5,568万個(1.3%)の増加です。

宅配便取扱個数は順調に増加しているものの、ECが拡大しているイメージからすると、増加率は低いです。宅配便取扱個数の増加率が低いことについては、大手物流企業による運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制とも関係しています。

ECは物流がなければ成立しないため、宅配便取扱個数の動向はEC企業にとっても重要です。ただ、ECの市場規模の増加率と比較すると、宅配便取扱個数の増加率は低く、ECの成長は物流の影響をさほど受けていないと見ることもできます。

2018年度の宅配便取扱個数は43億701万個(前年度比1.3%増)

国土交通省は10月1日、2018年度の宅配便取扱実績を発表しています。2018年度の宅配便取扱個数は43億701万個で、前年度と比較して5,568万個(1.3%)の増加です。

配送方法の内訳は、トラックが42億6,061万個(前年度比1.2%増)、航空便などを利用した運送が4,640万個(前年度比16.9%増)です。2018年度のメール便の取扱冊数は50億2,111万冊で、前年度と比較して2万5,487冊(4.8%)減少しています。

2018年度の宅配便取扱個数(トラック)は、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配大手三社で全体の93.7%を占めています。各社の構成比は、ヤマト運輸は42.3%、佐川急便は29.3%、日本郵便は22.1%です。

大手三社の中でもヤマト運輸の構成比が大きく、ヤマト運輸が宅配業界の中心的存在です。今後、大手三社の構成比が急激に変化したり、別の企業が大きな構成比を持つというようなことは起こりにくいです。

大手三社の前年度比は、ヤマト運輸は1.8%減、佐川急便は1.2%減、日本郵便は7.6%増です。佐川急便は決算期の変更で集計期間が短くなっており、従来の決算期通りに集計すると1.9%増になるとのことです。

ヤマト運輸の減った荷物が、佐川急便、日本郵便に振り分けられた形です。ヤマト運輸は運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制を実施しています。ヤマト運輸は労働環境の改善に取り組んでおり、宅配便取扱個数の減少はある程度計画通りだと考えられます。

2018年度の宅配便取扱個数の増加率は1.3%でした。過去三年間の宅配便取扱個数の増加率は、2015年度は3.6%、2016年度は7.3%、2017年度は5.8%でした。過去三年と比較すると、2018年度は増加率が大きく低下しています。

新聞やインターネットを見ると、ECの市場規模が拡大しているというニュースをよく見ます。一方で、2018年度の宅配便取扱個数の増加率は1.3%とそれほど高くはありません。物流業界では「物流クライシス」と呼ばれる様々な問題が起こっており、物流クライシスが宅配便取扱個数を抑制している可能性はあります。

ECの拡大が引き起こした物流クライシスとはどのような問題か

物流クライシスとは、物流業界に起きている混乱を表現した言葉です。トラックドライバーが足りない、労働時間が長い、荷物を計画通りに届けられない、再配達が多い、収益性が低いなどの問題をまとめたものが物流クライシスです。

物流クライシスの原因として挙げられるのがECの市場規模の拡大です。ECの市場規模の拡大は、宅配便取扱個数の増加に繋がります。ECの荷物は再配達になる割合も大きく、労働時間の長時間化、収益性の悪化を引き起こします。

物流業界ではトラックドライバーが不足していると言われています。宅配便取扱個数の増加に合わせて、トラックドライバーを増員できれば良いですが、増員できない企業は労働環境が悪化します。また、トラックドライバーを増員するにあたっては、人手不足の状況にあるため、賃金上昇の圧力は大きいです。

物流企業がEC企業に対して、価格交渉力が弱いことも物流クライシスの原因です。物流企業は宅配便取扱個数の増加、再配達の増加に合わせて、運賃の値上げを行う必要がありますが、実際に値上げすることは簡単ではありません。

2017年10月には、ヤマト運輸が運賃の値上げを実施しました。ヤマト運輸に続いて、佐川急便は2017年11月、日本郵便は2018年3月に、それぞれ運賃の値上げを行いました。物流企業はECの荷物の増加により物流クライシスが起こりましたが、物流企業大手三社は揃って運賃の値上げを行い、労働環境・収益性を改善しようとしています。

物流クライシスが解決されるためには、トラックドライバーの労働時間、荷物の運賃が適切でなければなりません。トラックドライバーが無理をしない状況で働いて、配送した荷物で十分な利益を確保できることが望ましいです。

EC企業は物流企業への依存を減らすため、自社の物流網への投資が加速しています。小規模の出店者が多い楽天は、物流企業の運賃の値上げの影響が大きいです。楽天は出店者の物流コストを抑えるため、自社の物流網に2,000億円の投資をする計画です。

ヤマトHDは物流クライシスへの対応で営業損失を記録

ヤマトグループの持株会社であるヤマトHDは、2019年第一四半期の決算で61億円の営業損失を記録しました。2018年第一四半期は95億円の営業利益であったため、営業利益を大きく減らしています。ヤマトHDが営業損失を記録したことは、ヤマト運輸の物流クライシスへの対応がうまく行かなかったと見ることができます。

ヤマト運輸は物流クライシスへ対応するため、運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制、トラックドライバーの増員の三つの施策を実施しています。運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制により、荷物一個あたりの単価の上昇が見込めます。トラックドライバーの増員により、トラックドライバー一人あたりの荷物の減少が見込めます。

運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制、トラックドライバーの増員の三つの施策がうまく噛み合えが、物流クライシスが解消される計画でした。しかし、ヤマトHDの営業利益は一年間で大きく減少することとなりました。現在までのところ、ヤマト運輸の物流クライシスへの対応はうまく機能していないと評価できます。

ヤマト運輸の物流クライシスへの対応が失敗した理由は、運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制によって、ECの荷物を失ったことが考えられます。

ヤマト運輸の運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制は、Amazon、楽天などのEC企業が自社物流網への投資を進める契機になりました。Amazonは「デリバリープロバイダ」と呼ばれる、地域の物流企業との提携を進めています。楽天は自社の物流網を強化するため、物流分野に2,000億円の投資をすることを発表しています。

EC企業はヤマト運輸など物流企業が運賃の値上げを行ったことで、ECサイトの送料を引き上げています。ECサイトの送料が上がると、お客さんは買い物を控えるようになるため、宅配便取扱個数の減少に繋がります。

ヤマト運輸は運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制により、荷物個数を減らし、荷物一個あたりの単価を高める計画でした。しかし、宅配便取扱個数の減少数は想定よりも多く、想定していた売上を獲得できなかったと考えられます。

トラックドライバーの増員による人件費の増加を吸収できず、ヤマトHDは2019年第一四半期の決算で61億円の営業損失を記録することとなりました。

ヤマト運輸の物流クライシスへの対応は、現在のところうまく機能していません。しかし、人手不足、ECの拡大が続く状況を考慮すると、ヤマト運輸の物流クライシスへの対応は必要なものだと思います。適切なトラックドライバー数、宅配個数、運賃で収益を確保しなければ、企業そのものが存続できなくなります。

ECの市場規模と宅配便取扱個数の関係はどうなっているか

ECで売買された商品は、物流企業によってお客さんへと配送されます。ECと物流は密接に関係しており、「ECの市場規模」と「宅配便取扱個数」は重要な指標です。

2018年度の宅配便取扱個数は43億701万個で、前年から1.3%増加しています。ECの市場規模の拡大が続いている状況を考えると、宅配便取扱個数の増加率はイメージほど高くはなく、少し意外な感じもします。

経済産業省が発表した「電子商取引に関する市場調査」によると、2018年度のBtoCにおける物販系分野のECの市場規模は9兆2,292億円(前年対比8.12%増)でした。8.12%増という数字をどう評価するかですが、多くの小売業の売上が低迷している状況を見ると、8.12%増は十分に高いと言えます。

2018年度の宅配便取扱個数の増加率は1.3%であるのに対して、ECの市場規模の増加率は8.12%で、両者には大きな差があります。ECの市場規模の増加率は十分に高いですが、物流クライシスがなければ、もっと高かったのではないかとも考えられます。

2017年度のBtoCにおける物販系分野のECの市場規模の増加率は7.5%となっています。2017年、2018年のECの市場規模と宅配便取扱個数の増加率をまとめると、ECの市場規模は7.5%、8.12%、宅配便取扱個数は5.8%、1.3%です。

2017年度から2018年度への変化を見ると、ECの市場規模の増加率は上昇している一方で、宅配便取扱個数の増加率は低下しています。ECと物流が密接に関係していることは確かですが、ECの市場規模と宅配便取扱個数の増加率はそれほど密接に関係しているようには見えず、評価が難しいです。

物流クライシスがあっても、ECの市場規模は安定的に拡大が続いています。ただ、物流クライシスがなければ、ECの市場規模の増加率はもっと高かったはずです。ECが今後も成長を続けるためにも、物流クライシスは解決されることが望ましいです。

運賃の値上げで低価格の商品をECで販売することが難しくなる

ヤマト運輸は2017年10月、佐川急便は2017年11月、日本郵便は2018年3月に運賃の値上げを行っています。物流企業の運賃の値上げにより、ECでは低価格の商品の販売が難しくなりました。ECで低価格の商品を販売が難しくなれば、ECの成長の抑制、お客さんの利便性の低下などの問題を引き起こします。

物流企業の運賃の値上げは、EC企業の利益の減少とセットです。物流企業が運賃を100円値上げすれば、EC企業の利益は100円減少します。

物流企業が運賃の値上げを行うと、EC企業は低価格の商品の販売が難しくなります。EC企業が利益を確保するためには、より高価格の商品を販売しなければならないためです。商品が5,000円、運賃が300円の場合、利益は4,700円です。運賃が500円になると、4,700円の利益を確保するためには、5,200円の商品を売る必要があります。

高価格の商品の販売は簡単ではないので、EC企業は送料無料の金額を引き上げることで対応します。送料無料の金額を引き上げれば、お客さんは送料無料の金額を越えようとするので、注文金額を引き上げる効果があります。

ただ、送料無料の金額を引き上げることにはデメリットもあります。送料無料の金額を越えることが難しい場合、お客さんは買い物そのものを止めてしまうかもしれません。

物流企業の運賃の値上げは、EC企業、ECサイトで買い物をするお客さんの両方に不利益をもたらします。EC企業は商品が売りにくくなり、ECサイトで買い物をするお客さんは買い物がしにくくなります。

ECで低価格の商品の販売が難しくなることは、ECにとって大きな損失ではないかと思います。EC企業が低価格の商品の品揃えを増やさなくなったり、送料無料の金額を引き上げれば、お客さんの利便性は低下します。

低価格の商品は近所の店舗で買えばいいという考え方もできますが、近所の店舗には売っていない低価格の商品はたくさんあります。日本全国にある知らなかった商品、価値のある商品を見つけることは、ECの醍醐味の一つです。

物流企業の運賃の値上げは、ECの市場規模の拡大を抑制するという金銭的なものよりも、ECの利便性、魅力を損なうことの方が問題ではないでしょうか。

ECが成長を続けるためには低価格の商品が不可欠

物流企業の運賃の値上げにより、ECでは低価格の商品の販売が難しくなります。しかし、ECの成長のためには低価格の商品が不可欠で、実際にECでは低価格の商品が増えています。ECで低価格の商品が増えているというデータはあまりありませんが、ZOZOが発表している、平均商品単価・平均出荷単価は参考になります。

ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」の近年の平均商品単価、平均出荷単価を見ると、低下する傾向にあります。

平均商品単価は2017年3月期第三四半期は5,236円、2019年3月期第三四半期は4,759円です。平均出荷単価は2017年3月期第三四半期は10,143円、2019年3月期第三四半期は9,560円です。平均商品単価、平均出荷単価の比較に第三四半期を選んだ理由は、第三四半期が最も平均商品単価が高い期間であるためです。

2017年3月期第三四半期と2019年3月期第三四半期を比較すると、平均商品単価は477円(9.1%)の減少、平均出荷単価は583円(5.7%)の減少です。平均商品単価が低下すると、引っ張られる形で平均出荷単価も低下することになります。

ZOZOTOWNで買い物をするお客さんは、クーポンを利用して、低価格の衣料品を購入することを好んでいます。ZOZOTOWNは低価格志向のお客さんに対応するため、低価格の商品を充実させることになります。ZOZOTOWNの平均商品単価、平均出荷単価が低下する傾向にあるのは、お客さんのニーズに対応した結果です。

低価格の商品を増やすことは、ZOZOTOWNだけではなく、すべてのECサイトに不可欠なものです。お客さんは低価格の商品を求めていて、低価格の商品が少ないECサイトでは買い物をしたくありません。

物流企業の運賃の値上げがECに与える影響は大きいです。お客さんは低価格の商品を求めており、低価格の商品を販売できないECサイトは客離れが起きるかもしれません。

宅配便取扱個数を増やさないためには荷物の集約が効果的

ECの市場規模の拡大に合わせて、宅配便取扱個数が増加することは順当です。ただ、物流クライシスの解消、ECの継続的な成長のためには、何らかの方法で宅配便取扱個数は抑制されることが望ましいです。

宅配便取扱個数の増加を抑制するためには、荷物を集約することが効果的です。複数の荷物をまとめて効率良く配送すれば、宅配便取扱個数を減らせます。

荷物を集約する方法の一つは、EC企業による物流センターの運営です。物流センターに多くの在庫があれば、複数の商品をまとめて配送できます。

物流センターを運営しているEC企業には、Amazon、楽天、ZOZO、アスクル、ロコンド、CROOZ SHOPLIST、オイシックス・ラ・大地、ファーストリテイリング、ニトリ、ビックカメラ、ヨドバシカメラなどがあります。

Amazonは物流センターで荷物の集約を進めている代表的な企業です。Amazonでは、書籍、CD、ゲーム、雑貨、衣料品、食品、家具、家電など、幅広いカテゴリの商品を販売しています。Amazonは複数のカテゴリの商品をできるだけまとめて配送するようにしていて、購入点数が増えても宅配個数は増えにくいです。

物流センターで集約した荷物を、店舗・宅配ロッカーでお客さんに受け取ってもらうことが最善です。店舗・宅配ロッカーでの受け取りは、再配達の減少を含め、トラックドライバーの労働時間の削減にも効果的です。

宅配便取扱個数に対する考え方は、物流企業とEC企業で異なります。物流企業は物流クライシスが起こるほどに宅配便取扱個数を増やしたくはないが、減りすぎるのも困るという立場です。一方、EC企業は、配送は効率化すればするほど良いという立場です。

ヤマト運輸が運賃の値上げ、宅配便取扱個数の抑制を実施したことで、EC企業は宅配便取扱個数を減らす方向へと進んで行くと予想されます。

物流はECの市場規模拡大のボトルネックにはらないのではないか

物流がECの市場規模拡大のボトルネックになるのではないかという意見があります。しかし、ECの市場規模と宅配便取扱個数の関係、EC企業の物流投資への積極性を見ると、物流がECの市場規模拡大のボトルネックになる可能性は大きくないのかもしれません。

ネットショッピングのアンケート調査を見ると、Amazonの人気が突出しています。Amazonは品揃えが豊富で、複数のカテゴリの商品をまとめて買え、一回の配達で届くので便利です。お客さんがAmazonで買い物をしなくなる理由はなく、今後もますますAmazonで買い物をする金額が増えると考えられます。

Amazonは物流センターで荷物の集約を進めており、購入点数が増えても、宅配個数が増えないように努力しています。Amazonで買い物をする人が増えることは、宅配便取扱個数の抑制にも繋がります。

ECの市場規模の拡大は続くと考えられますが、物流が重要になることで、大手EC企業の寡占が進行する可能性はあります。低価格の商品を販売する企業は、物流費用の負担が大変になれば、大手EC企業の物流網に組み込まれることになります。

1個1,000円の商品を一つだけECで販売すると物流費用の負担が大きいですが、Amazonの5個購入された中の1個1,000円になれば、物流費用の負担は小さくなります。運賃の上昇でECでの販売が難しくなった低価格の商品は、Amazon、楽天など、物流センターを運営する大手EC企業しか販売できなくなるのではないでしょうか。

大手EC企業が市場を寡占することについては、良い点と悪い点があります。物流を効率化するという目的においては、大手EC企業の物流センターに商品が集約されることが望ましいです。結果的に、大手EC企業が市場を寡占することになったとしても、物流を効率化することのメリットは大きいです。

ECの市場規模の拡大が続くかどうかと、大手企業の寡占が進むことは切り離すべきではないかと思います。大手企業の寡占が進んだとしても、物流の効率化によるものであり、ECの市場規模の拡大が続くのであればポジティブなことです。