消費税増税前の駆け込み需要、大手小売業の2019年9月の売上はどうなったか

2019年10月1日より、消費税が2%引き上げられ、8%から10%へと変更されました。消費税増税前の9月には、節約のための駆け込み需要が起こるため、小売業の9月の売上は大きく増加しています。

小売業の9月の売上を見ると、お客さんが普段から店舗をどのように評価しているのかが分かります。消費税増税前の9月に売上が大きく増加した企業は、お客さんに普段から信頼され、評価されていると言えます。

ドラッグストア、ホームセンターにおいては、企業によって売上の増加率にバラツキがあります。売上の増加率の差は、消費税増税前の買い物をするにあたって、お客さんに真っ先に選ばれた店舗と、そうでない店舗の差だと考えることができます。

ファーストリテイリング – 衣料品専門店

ファーストリテイリングは、国内ユニクロの売上情報を発表しています。ファーストリテイリングが発表している売上情報は、既存店(734店舗)+Eコマースの集計です。既存店(734店舗)は直営店舗で、フランチャイズ店舗は含まれていません。

2019年9月の既存店(734店舗)+Eコマースは前年同月と比較して、売上高は4.2%減、客数は0.4%増、客単価は4.6%減でした。国内のユニクロ直営店においては、消費税増税前の駆け込み需要は起こらず、逆に売上高が減少する結果となっています。

国内のユニクロ直営店で消費税増税前の駆け込み需要が起こらなった理由には、他の商品よりも優先順位が低かったことが考えられます。

お客さんは消費税増税後の消費税の支払いを節約するために、消費税増税前に高額の商品を買っておこうとします。ユニクロが販売する衣料品は高額ではないため、お客さんはより高額価の商品を優先したのではないでしょうか。

消費税増税前の駆け込み需要が起こる商品は、価格が高く、お客さんが長い間購入を悩んでいた商品が多いです。消費税の増税がきっかけとなり、お客さんは長い間購入を悩んでいた商品を買います。

ユニクロが販売する衣料品は、お客さんが長い間購入を悩むタイプの商品ではないので、消費税の増税が購入のきっかけになるというのは期待しにくいです。

多くの小売業では、既存店は客数が減り、客単価が増加する傾向にあります。国内のユニクロ直営店の2019年9月の売上情報では、既存店の客単価が減少しており、消費税増税前の駆け込み需要の影響があったのではないかと考えられます。お客さんは他の高額商品への支出を増やすため、ユニクロので支出を減らしたのではないかと推測できます。

国内のユニクロ直営店では、消費税増税前の駆け込み需要が起こりませんでしたが、ユニクロにとってはネガティブなものではないと思います。ユニクロの商品には確かな価値があり、消費税増税の駆け込み需要においては、購入を優先する商品にはならなかったということです。

ニトリホールディングス – インテリア・家具専門店

ニトリホールディングスは、ニトリの全店、既存店の売上情報を発表しています。

2019年9月の既存店は前年同月と比較して、売上は19.5%増、客数は7.0%増、客単価は11.7%増でした。1月から8月までと比べると、9月の売上の増加率は高く、ニトリでは消費税増税前の駆け込み需要が起こっています。

ニトリで消費税増税前の駆け込み需要が起こる理由は、インテリア・家具は単価が高く、購入の優先順位が高いためだと考えられます。消費税増税前の駆け込み需要は、消費税の支払いを節約するためのものなので、価格が高いインテリア・家具は対象商品になります。

ニトリはインテリア・家具の専門店として圧倒的な人気を集めており、既存店の売上は堅調に推移しています。2019年においても、天候不順があった7月を除けば、それ以外の月はすべて前年同月比で売上が伸びています。

ニトリでは消費税増税前の駆け込み需要が起きていますが、以前から人気の専門店であり、消費税の増税で9月は一層商品が売れたと見ることができます。

ニトリが販売するインテリア・家具には季節商品があり、消費税増税前の駆け込み需要により、買い物が先取りされたことになります。コタツ、ランドセル、学習机などの商品が売れるのは秋冬以降ですが、こうした商品も9月に多く売れたと推測されます。

消費税増税前の駆け込み需要は、消費を先取りしたものなので、小売業にとっても売上を先取りしたものであると言えます。ニトリにおいても、後日売れるであろう商品が9月に売れたため、秋冬以降は売上の減少が見込まれます。

消費税増税前の駆け込み需要が起きたことは、ニトリにとってはポジティブです。インテリア・家具の駆け込み需要の店舗として、お客さんに選ばれたことになり、ニトリの人気が確かなものであることの証明になっています。

良品計画 – 生活雑貨・生活用品専門店

無印良品を展開する良品計画は、直営店、L.S(西友含)の売上情報を発表しています。L.S(西友含)とは、ファミリーマート・comKIOSK以外の商品卸売先の店舗です。

2019年9月の直営店+L.S(西友含)の既存店の売上は前年同月と比較して、22.9%増となっています。1月から8月までと比べると、9月の売上の増加率は高く、良品計画では消費税増税前の駆け込み需要が起こっています。

良品計画で消費税増税前の駆け込み需要が起こる理由は、無印良品がロイヤルカスタマーを多数抱えているためだと考えられます。無印良品は幅広い品揃えの生活雑貨・生活用品を販売していて、ロイヤルカスタマーは無印良品で多くの商品を購入します。

無印良品のロイヤルカスタマーは、日頃から何度も店舗を訪れ、気になる商品をチェックしています。消費税増税がきっかけとなり、以前から欲しかった商品を多数購入したのではないでしょうか。

無印良品が生活雑貨・生活用品で、幅広い商品を販売していることは、消費税増税前の駆け込み需要で有利に働いたと考えられます。消費税増税前の駆け込み需要では、お客さんの購買意欲は高いです。店舗に幅広い品揃えがあれば、お客さんの購入点数は増え、客単価のアップに繋がります。

無印良品の商品の中には、インテリア、家具、家電など、高額の商品もあります。高額の商品は、消費税増税前の駆け込み需要として選ばれやすいです。無印良品でも、インテリア、家具、家電など、高額の商品がよく売れたのではないかと思います。

消費税増税で起こる駆け込み需要と、小売業の人気は関係しています。無印良品はロイヤルカスタマーを多数抱える人気チェーンであり、消費税の増税が起これば、駆け込み需要の店舗として選ばれやすいです。

良品計画においても、ニトリと同様に、消費税増税前の駆け込み需要が起きたことが、人気チェーンであることの証明になっています。

三越伊勢丹ホールディングス – 百貨店

三越伊勢丹ホールディングスは、国内グループ百貨店の売上情報を発表しています。

2019年9月の国内グループ百貨店の売上は前年同月と比較して、19.0%増となっています。4月~9月累計の売上の増加率は1.0%で、9月の売上の増加率は非常に高く、三越伊勢丹ホールディングスでは消費税増税前の駆け込み需要が起こっています。

三越伊勢丹ホールディングスによると、首都圏の基幹店舗で行われたリフレッシュオープンと、消費税増税前の駆け込み需要が同時に起こったことで、2019年9月の売上が大きく伸びたとのことです。売上が大きく伸びたカテゴリーは、時計、宝飾、美術、ハンドバッグ、財布、婦人靴などです。

百貨店全体の動向については、日本百貨店協会が発表している「全国百貨店売上高概況」が参考になります。「全国百貨店売上高概況」の調査対象百貨店は78社・212店舗です。

「全国百貨店売上高概況」によると、2019年9月の売上高は、前年同月と比較して23.1%増でした。三越伊勢丹ホールディングスの19.0%と大きな差はなく、消費税増税前の駆け込み需要は、百貨店全体で起こったものだと言えます。

「全国百貨店売上高概況」では、地域を10都市と10都市以外の地区に区別しています。10都市の売上高の増加率は24.5%、10都市以外の地区の売上高の増加率は19.9%増です。10都市以外の地区の売上高の増加率は、10都市よりも低く、消費税増税前の駆け込み需要でも地方はやや弱いです。

カテゴリ別に売上高の増加率を見ると、カテゴリによって売上高の増加率には大きな差があります。

売上高の増加率が大きいカテゴリには、美術・宝飾・貴金属(102.9%増)、家電(82.8%増)、その他衣料品(48.7%増)、家具(46.3%増)、化粧品(34.1%増)などがあります。

美術・宝飾・貴金属、家電、家具といった高額の商品の売上高が伸びており、消費税増税前の駆け込み需要は、高額の商品で起きていることが分かります。

生鮮食品(2.3%減)、菓子(2.6%増)、惣菜(1.6%増)、食堂・喫茶(4.8%増)などは変化が小さく、消費税増税の影響はあまりないようです。

消費税増税前の駆け込み需要と聞くと、高額の商品の購入をイメージします。高額の商品が多い、百貨店の売上が大きく伸びるのはイメージ通りです。ただ、消費税増税前の駆け込み需要は消費の先取りでもあるので、今後の売上の減少が心配ではあります。

ケーズホールディングス – 家電量販店

ケーズホールディングスは、グループ全体の売上情報(全店)を発表しています。ケーズホールディングスのグループ企業には、デンコードー、ギガス、関西ケーズデンキ、ビッグ・エス、北越ケーズ、九州ケーズデンキなどがあります。

2019年9月のグループ全体の売上高は前年同月と比較して、60.5%増となっています。1月から8月までと比べると、9月の売上の増加率は高く、ケーズホールディングスでは消費税増税前の駆け込み需要が起こっています。

ケーズホールディングスはカテゴリ別の売上高を発表しており、2019年9月はすべてのカテゴリの売上高が大きく増加しています。

売上高の増加率が特に高いカテゴリは、冷蔵庫(116.1%増)とテレビ(108.1%増)で、前年の2倍以上の売上高を記録しています。冷蔵庫とテレビは家電の中でも人気の高い商品であり、価格も高いです。消費税増税前の駆け込み需要の商品として、冷蔵庫とテレビを購入した人が多かったことが分かります。

冷蔵庫とテレビ以外にも、パソコン・情報機器(93.6%増)、エアコン(88.8%増)、洗濯機(82.6%増)、クリーナー(79.6%増)なども、売上高が大きく伸びています。

消費税増税前の駆け込み需要のニュースがメディアで紹介されるときは、家電量販店の映像が使われることが多いです。家電は多くの人が関心を持つ、高価格の商品であるため、消費税増税前の駆け込み需要では、購入の優先順位が高い商品です。

家電量販店全体の消費税増税前の駆け込み需要の動向については、経済産業省が発表している「商業動態統計速報」が参考になります。

「商業動態統計速報」によると、2019年9月の家電大型専門店の売上高は5,154億円(前年同月比52.4%増)となっています。この数字はケーズホールディングスの60.5%増と大きな差はなく、消費税増税前の駆け込み需要は家電量販店全体で起こっています。

消費税増税前の駆け込み需要は消費の先取りでもあるので、売上高が伸びることよりも、競合他社よりも大きく伸びたかどうかが重要です。家電のような高額の商品では、消費税増税前の駆け込み需要が必ず発生します。競合他社よりも売上高の増加率が高い家電量販店は、競合他社に先んじて、お客さんに選ばれたということになります。

ツルハホールディングス – ドラッグストア

ツルハホールディングスは、グループの全店、既存店の売上情報を発表しています。

2019年9月の既存店は前年同月と比較して、売上は5.3%増、客数は0.6%増、客単価は4.7%増となっています。1月から8月までと比べると、9月の売上の増加率は高く、ツルハホールディングスでは消費税増税前の駆け込み需要が起こっています。

ツルハホールディングスのドラッグストアで販売している商品は、医薬品、化粧品、日用雑貨、食品などです。医薬品の中には高額の商品もありますが、全体的には低価格の商品が多いです。

売上の増加分は客単価の増加によるもので、客数は大きく増えていません。ツルハホールディングスのドラッグストアでいつも買い物をしているお客さんが、消費税増税前にまとめ買いをした結果、客単価が高くなったと考えられます。

ツルハホールディングスの既存店の2019年9月の売上は、前年同月と比較して伸びているものの、競合他社と比較すると増加率は低いです。

ドラッグストア各社の2019年9月の既存店の売上増加率は、ウエルシアホールディングスは19.4%増、マツモトキヨシホールディングスは21.7%増、サンドラッグは29.0%増、コスモス薬品は16.5%増などとなっています。

消費税増税前の駆け込み需要で売上を多く伸ばしたドラッグストアの中には、客単価だけではなく、客数も大きく増やしている企業もあります。

経済産業省が発表している「商業動態統計速報」では、2019年9月のドラッグストアの売上高は6,265億円(前年同月比21.8%増)と高い増加率になっています。

ドラッグストア各社が消費税増税前の駆け込み需要で、既存店の売上を大きく伸ばす中で、業界最大手のツルハホールディングスの売上の増加率が低いことは不思議です。ツルハホールディングスの売上の増加率が低いことついて、特に原因が見当たりません。

ツルハホールディングスの売上の増加率が低いことをネガティブに評価すると、競合他社よりも既存店が弱いのかもしれません。ただ、ツルハホールディングスは大量の新規出店で売上を拡大しており、既存店が弱いというのは考えにくいです。

ドラッグストアという業種の中でも、各チェーンは独自性を発揮して、差別化を行っています。消費税増税前の駆け込み需要においても、売上の増加率にはバラツキがあることは、ドラッグストアの差別化が進んでいるとも言えます。

DCMホールディングス – ホームセンター

DCMホールディングスは、グループの全店、既存店の売上情報を発表しています。

2019年9月の既存店は前年同月と比較して、売上高は8.9%増、客数は0.6%減、客単価は9.6%増となっています。1月から8月までと比べると、9月の売上高の増加率は高く、DCMホールディングスでは消費税増税前の駆け込み需要が起こっています。

DCMホールディングスのホームセンターでは、園芸・エクステリア、ホームインプルーブメント、ホームレジャー・ペット、ハウスキーピング、ホームファニシング、ホームエレクトロニクスなどのカテゴリを販売しています。

工具、エクステリア、リフォーム、家具、家電などの高額の商品は、消費税増税前の駆け込み需要の商品として選ばれやすいです。また、日用品・生活用品は価格が安く、消耗品が多いため、既存顧客によるまとめ買いが起きやすいです。

売上高の増加分は客単価の増加によるもので、客数は前年同月から減少しています。消費税増税前の駆け込み需要でお客さんが増えたのではなく、既存店のお客さんが多く買い物をしたことで、売上高が大きく伸びています。

DCMホールディングスの既存店の2019年9月の売上は、前年同月と比較して伸びているものの、競合他社と比較すると増加率は低いです。

ホームセンター各社の2019年9月の既存店の売上増加率は、コメリは18.8%増、コーナン商事は9.8%増、ナフコは17.9%増、ジョイフル本田は11.3%増などです。

消費税増税前の駆け込み需要で売上を多く伸ばしたホームセンターの中には、客単価だけではなく、客数も大きく増やしている企業もあります。

経済産業省が発表している「商業動態統計速報」では、2019年9月のホームセンターの売上高は3,026億円(前年同月比16.8%増)と高い増加率になっています。

ホームセンターにおいても、ドラッグストアと同様に、消費税増税前の駆け込み需要では、各社で売上高の増加率にバラツキがあります。

消費税増税前の駆け込み需要で、各社の売上高の増加率にバラツキがある理由には、ロイヤルカスタマーの数、商圏における競合状況などが関係していると考えられます。消費税増税前の駆け込み需要により、売上高の増加率が高かった企業は、ロイヤルカスタマーが多く、商圏での競合が激しくないのではないかと推測できます。

売上高が減少している既存店であっても、ロイヤルカスタマーが多く、商圏に競合が少なければ、消費税増税前の駆け込み需要を取り込んで、売上高を大きく伸ばせます。

セリア – 100円ショップ

セリアは全店、既存店の売上情報を発表しています。

2019年9月の既存店は前年同月と比較して、売上高は2.2%増、客数は1.7%増、客単価は0.5%増となっています。1月から8月まではすべて売上高が前年割れしており、セリアの既存店は厳しい状況にあります。9月は売上高が増加に転じていて、セリアでは消費税増税前の駆け込み需要が起こっています。

セリアの商品の大部分は100円なので、消費税増税によるお客さんの負担は大きいとは言えません。お客さんの関心は家具、家電などの高額の商品に向かうため、セリアの商品は、消費税増税前の駆け込み需要の対象にはなりにくいです。

セリアの消費税増税前の駆け込み需要では、客単価の増加よりも、客数の増加の方が貢献しています。セリアの商品は100円と安いため、消費税増税前の駆け込み需要では、ロイヤルカスタマーがまとめ買いをするイメージがあります。しかし、客単価はほとんどアップしておらず、ロイヤルカスタマーによるまとめ買いは起きていないようです。

セリアの売上高の増加率はそれほど高くはありませんが、それでもポジティブなものではないかと思います。

消費税増税前の駆け込み需要では、お客さんの関心は家具、家電などの高額の商品に向かいます。100円の商品が大部分のセリアでは、お客さんの支出が高額の商品に向かうことで、売上高が減少しても不思議ではありませんでした。

消費税増税前の駆け込み需要により、セリアは売上高、客数、客単価のすべてが増加しています。売上高の増加率が低いと評価するのではなく、お客さんの関心を引き付け、消費税増税前の駆け込み需要をうまく乗り切ったと評価するべきではないでしょうか。