西友と楽天は「楽天西友ネットスーパー」の物流センターを神奈川県横浜市に新設

1月15日、西友は楽天と共同運営する「楽天西友ネットスーパー」の物流センターの新設を発表しました。新しい物流センターの所在地は神奈川県横浜市で、2020年秋頃より稼働を開始する予定です。

西友によると、楽天西友ネットスーパーの売上は前年比1.3倍と順調に拡大しています。物流センターの新設により、品揃えの増加、配送エリア・配送時間帯の拡大が実現すれば、さらに売上を伸ばせそうです。

西友にとって、楽天西友ネットスーパーは商品を販売するだけでなく、お客さんとの関係強化の点でも重要なものです。将来的に、実店舗の数が減るようなことがあったとしても、楽天西友ネットスーパーでお客さんとの関係を維持できます。

楽天西友ネットスーパーの新しい物流センター

1月15日、西友は楽天と共同運営する「楽天西友ネットスーパー」の物流センターの新設を発表しました。三井不動産が開発する大型物流施設「三井不動産ロジスティクスパーク横浜港北」(神奈川県横浜市都筑区川和町)の全フロアを賃借します。新しい物流センターは、2020年秋頃より稼働を開始する予定です。

楽天西友ネットスーパーは2018年10月25日よりサービスが始まった、西友と楽天が共同で運営するネットスーパーです。楽天西友ネットスーパーは、楽天が持つ1億を超える会員ID、ECのノウハウと、西友が持つ生鮮食品、スーパーマーケットのノウハウを活用することで、事業の拡大を狙うものです。

西友の発表によると、楽天西友ネットスーパーの売上は前年比1.3倍(2019年10月25日(金)~2019年12月31日(火)の前年同期比)と順調に伸びているとのことです。

楽天西友ネットスーパーの商品は、西友の実店舗、千葉県柏市のネットスーパー専用物流センター、および、都内に設置した配送拠点より、お客さん宅へ配送されています。

新設する物流センターでは、数万点のアイテムを取り扱う予定です。常温・冷蔵・冷凍の3温度帯で商品の保管ができるよう冷蔵・冷凍庫を完備し、倉庫内作業を効率化する、搬送設備などの自動化設備が導入されます。同規模の通常オペレーションと比較して、60%程度の省人化が見込まれています。

楽天西友ネットスーパーは物流センターの新設により、配送エリアの拡大、受注可能件数の増大を図ります。

前年比1.3倍の売上増加率をどのように評価するか

西友によると、楽天西友ネットスーパーの売上増加率は前年比1.3倍(2019年10月25日(金)~2019年12月31日(火)の前年同期比)です。1億を超える会員IDを持つ、楽天からの送客があることを考えると、売上増加率は期待ほど高くはありません。

経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2018年のBtoC物販系分野のEC市場規模は9兆2,292億円(前年比8.12%増)でした。食品・飲料・酒類のEC市場規模は1兆6,961億円(前年比8.60%増)でした。

楽天西友ネットスーパーと2018年のBtoC物販系分野のEC市場規模を比較すると、楽天西友ネットスーパーの増加率は約3.7倍です。ただ、楽天からの送客への期待が大きかっただけに、前年比1.3倍の売上増加率は低く感じます。

楽天西友ネットスーパーの売上増加率は前年比1.3倍で、それほど高いわけではありません。楽天西友ネットスーパーに問題があるというよりは、ネットスーパーの需要がまだ小さいと見るのが適切ではないでしょうか。

食品はコンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケットが近所にあるため、ネットスーパーを利用する動機は弱いです。また、生鮮食品は自分の目で見て、確認して、家に持って帰りたい人が多いです。

楽天は1億を超える会員IDを持ち、多くの楽天会員が楽天西友ネットスーパーを訪問したはずです。しかし、楽天西友ネットスーパーで実際に買い物をする楽天会員は多くはなく、短期間で売上が2倍、3倍になるようなことは起こりませんでした。

物流センターの新設で売上は伸びるか

楽天西友ネットスーパーは物流センターの新設により、品揃えの増加、配送サービスの品質向上が見込めます。楽天西友ネットスーパーは総合的な買い物体験が改善されることで、売上を増やせるのではないかと思います。

お客さんはネットスーパーに対して、自分が必要とする商品が常に品揃えされていて、安く買えることを期待しています。品揃えが多ければ多いほど、お客さんの多様なニーズに対応できるので、売上アップに繋がります。

ECではお客さんに商品の比較、検討をしてもらうために、品揃えを増やしています。ネットスーパーの場合、お客さんに商品の比較、検討をしてもらうというよりは、お客さん一人一人の多様なニーズに対応するために、豊富な品揃えが必要です。

配送サービスの品質向上は売上アップに繋がります。

楽天西友ネットスーパーのサービス提供エリアは限定的で、拡大の余地があります。サービス提供エリアが拡大すれば、新規顧客が獲得でき、売上が増えます。

楽天西友ネットスーパーの配送は6つの時間帯(10時~12時、12時~14時、14時~16時、16時~18時、18時~20時、20時~22時)を指定でき、午後3時までの注文で、一部エリアを除き当日配送されます。

お客さんは注文をするタイミングによっては、希望する時間帯を指定できないこともあります。希望の時間帯を指定できないお客さんの中には、買い物を止めてしまう人もいるので、楽天西友ネットスーパーには機会損失が生まれます。

物流センターの新設により、希望する時間帯の指定がしやすくなれば、これまで逃していた売上を獲得できます。

物流スーパーの新設は楽天西友ネットスーパーの総合的な買い物体験を向上させるもので、売上が増える可能性が高いです。

実店舗とネットスーパーは競合するか

西友は実店舗を保有しており、楽天西友ネットスーパーは実店舗と競合するのではないかという懸念もあります。ただ、楽天西友ネットスーパーにはポジティブな要素が多く、実店舗との競合によるデメリットは小さいのではないかと思います。

楽天西友ネットスーパーのメリットは、ロイヤルティの高い顧客を育てられること、新規顧客が獲得できること、実店舗がなくても顧客との関係を持てることです。

実店舗とECの両方で買い物をするお客さんは、実店舗だけ、ECだけで買い物をするお客さんよりも、買い物回数、買い物金額が多いことが報告されています。実店舗とECの両方で買い物をするお客さんは、ロイヤルティが高く、売上に貢献しています。

西友においても、実店舗と楽天西友ネットスーパーの両方で買い物をするお客さんは、ロイヤルティが高く、売上に貢献すると考えられます。

実店舗とECは商圏、ニーズが異なるため、買い物をするお客さんも異なります。

楽天西友ネットスーパーは、これまで西友の実店舗で買い物をしなかったお客さんを取り込むことができます。西友の実店舗の商圏から、さらに少し広がった範囲に住む人たちは、楽天西友ネットスーパーの潜在顧客です。

西友は実店舗を保有していますが、将来的には、店舗数が減少する可能性はあります。実店舗が閉店したとしても、楽天西友ネットスーパーがあれば、お客さんとの関係を継続することができます。

西友にとって、楽天西友ネットスーパーは実店舗との競合を心配するものではありません。実店舗と楽天西友ネットスーパーがあることで、お客さんとの関係が強化され、スーパーマーケットとしての価値を高められます。

スーパーマーケットは協業するIT企業を見つけられない

現在のところ、ネットスーパーの需要は小さいものの、将来的には市場規模が拡大すると予想されています。スーパーマーケットは実店舗だけではなく、ネットスーパーも強化するのが好ましいです。

スーパーマーケットはネットスーパーを強化するにあたって、パートナーとなるIT企業を見つけられない問題があります。

西友は2018年10月25日により、楽天と共同で楽天西友ネットスーパーの運営を開始しました。楽天西友ネットスーパーの売上は順調に拡大を続け、2020年秋頃には新しい物流センターが稼働する計画です。

西友が楽天西友ネットスーパーの売上を伸ばせるのは、1億を超える会員ID、ECのノウハウを持つ、楽天の支援があるからです。

スーパーマーケットがIT企業と協業でネットスーパーを運営することが増えています。

スーパーマーケットとIT企業の協業には、西友と楽天、セブン&アイ・ホールディングスとアスクル(IYフレッシュは2019年11月末でサービス終了)、ライフコーポレーションとAmazon、イオンとオカド(ネットスーパー運営のシステム、ノウハウを保有する英国企業)などがあります。

スーパーマーケットがIT企業と協業する理由は、自社単独ではネットスーパーの売上を増やすことが難しいためです。

有力なIT企業はすでにスーパーマーケットと協業しており、ネットスーパーを支援できそうなIT企業はそれほどありません。カカクコム、クックパッド、メルカリは巨大な会員基盤、テクノロジーはありますが、物流がありません。

西友、ライフコーポレーション、イオンはネットスーパーの機能を強化して、これから売上を伸ばすと考えられます。協業するIT企業が見つからないスーパーマーケットは、西友、ライフコーポレーション、イオンに差を開けられてしまいます。