商品情報を表示する「電子棚札」、なぜ家電量販店で導入が増えているのか

家電量販店では、デジタル画面で商品情報を表示する「電子棚札」の導入が進んでいます。ノジマは10月18日に、全184店舗に電子棚札を導入したと発表しています。また、ビックカメラは今後、本格的に電子棚札を導入して行く計画があります。

家電量販店が電子棚札の導入を進める目的は、価格変更業務のスピードアップ・コスト削減、接客の時間の増加、商品レビューの活用などの効果を得るためです。

家電量販店はECとの競争が激しく、ECは頻繁に商品の価格変更を行っています。家電量販店はECの価格変更に対応しなければなりませんが、価格変更に時間が掛かる、コストが掛かる、ミスがあるなどの問題があります。電子棚札の導入により、価格変更業務が抱えている問題の解消が期待されます。

電子棚札は紙の値札の代替となる新しいテクノロジー

電子棚札とは、価格などの商品情報を表示する小型のディスプレイのことです。紙の値札のように商品棚に設置して、価格など、買い物の参考になる情報を表示します。小売業の店舗では紙の値札が使われていますが、電子棚札は紙の値札の問題を解消し、店舗の生産性向上に貢献すると見込まれています。

電子棚札を販売している企業には、パナソニック、凸版印刷、イシダ、寺岡精工、フジテックス、フォーバルなどがあります。

電子棚札の特徴は、ネットワークを通じて情報の変更ができることです。店舗にある電子棚札の情報を、本部から変更することができます。また、一つの操作で、複数の店舗にある電子棚札の情報を一括で変更すことができます。電子棚札には、基幹システムやPOSと連動するものもあります。

小売業の店舗で利用されている紙の値札は、コスト的にも問題です。

商品の価格を変更するためには、その都度、紙の値札を新しく作り、張り替える必要があります。小売業の従業員はこのような作業を毎日繰り返していて、価格の変更には人件費が固定的に掛かっています。また、価格が変わると以前の値札は意味がなくなるので、紙のコストも掛かっています。

紙の値札で発生している、従業員の人件費、紙の値札のコストは、小売業にとって削減したいコストです。これまでは紙の値札を使うことが当たり前でしたが、電子棚札が登場したことにより、小売業は紙の値札に関連するコストを削減する機会を得ました。

電子棚札は新しく登場したテクノロジーであるため、小売業での導入はまだ進んでいません。普段、店舗で買い物をしていても、電子棚札を見ることは、まだほとんどないのではないでしょうか。

小売業は店舗の生産性を向上する必要があり、電子棚札は店舗の生産性の向上に貢献するテクノロジーです。電子棚札が持つメリットは、小売業のすべての業種にとって価値があるものです。今後、多くの店舗で電子棚札の導入が始まると考えられます。

家電量販店では電子棚札の導入が進む

電子棚札は新しく登場したテクノロジーであるため、小売業ではまだ導入があまり進んでいません。小売業の中でも、電子棚札の導入に積極的なのは家電量販店で、大手チェーンでは電子棚札を導入する店舗が増えています。

電子棚札を積極的に導入している家電量販店は、ビックカメラとノジマです。

ビックカメラは2018年12月にオープンした「ビックカメラセレクト京都四条河原町店」で、電子棚札を実験的に導入しました。2019年2月にオープンした「ビックカメラ町田店」では、電子棚札が全面的に導入されています。

ビックカメラの2019年8月期の決算説明会資料には、「電子棚札の本格導入を開始」との記述があります。ビックカメラは電子棚札の導入により、価格変更の業務を減らし、接客の時間を増やすことを目的としています。また、電子棚札とECサイト、スマホアプリを連携させることで、オムニチャネル化を進める構想もあります。

ノジマはビックカメラよりもさらに取り組みが進んでいて、10月18日には、パナソニックの「電子棚札システム」を全184店舗に導入したと発表しています。

ノジマが電子棚札を導入する狙いは、業務の効率化、価格変更のスピードアップ、ミスの削減といったものです。2019年10月1日の消費税率10%への対応では、システムで価格変更を一括で行い、店舗における切替作業時間をほぼゼロにしたとのことです。

小売業の中でも、家電量販店が電子棚札の導入に積極的なことには、いくつかの理由があると考えられます。

価格変更の回数が多い、価格変更に掛かるコストが大きい、接客の時間を増やしたい、ECサイトの商品レビューを活用したいなどは、家電量販店が電子棚札を導入する理由です。

家電量販店が電子棚札を導入する理由 – 価格変更業務の改善

家電量販店で電子棚札の導入が進む理由は、家電量販店にとって、価格の変更が重要なものだからです。家電量販店では、特に価格変更のスピード・コストが重要です。

家電量販店がビジネスで最も重視したいことは、商品の価格が安いかどうかです。商品を販売する家電量販店、商品を購入するお客さんの両者ともに、価格が安いかどうかに強い関心を持っています。

家電量販店の価格競争は落ち着いた印象もありますが、以前は近隣の競合店舗の価格を調査して、頻繁に価格を変更する店舗もありました。近年はECとの価格競争もあるため、家電量販店の価格変更の回数は増えていると考えられます。

家電を購入するお客さんは、ほぼ確実に価格の比較を行っています。価格比較サイト、ECサイト、実店舗の価格を調べた後、最も購入にふさわしい店舗を選択します。

家電量販店としては、常に競争力のある価格を提示したいです。価格は常に最安値である必要はありませんが、相場から離れていると、それだけ売れにくくなります。

家電の購入頻度は低く、家電を購入するお客さんは、その瞬間瞬間の価格しかチェックしません。家電の購入を検討しているそれぞれのお客さんに対して、購入する瞬間に競争力のある価格を提示しなければ、家電量販店は販売のチャンスを逃してしまいます。

家電量販店は常に競争力のある価格を提示するため、頻繁に価格の変更作業を行っています。価格の変更作業には、多くの人件費、紙の値札のコストが掛かるうえ、スピードが早いこと、ミスがないことも重要です。

電子棚札は価格の変更業務において、家電量販店に必要な機能を多数備えています。家電量販店で電子棚札の導入が進むことは順当です。

家電量販店は電子棚札の導入で、価格変更のスピードを向上させるとともに、人件費、紙のコストの削減により、長期的には価格競争力の強化にも繋がります。

家電量販店が電子棚札を導入する理由 – 接客時間の増加

家電量販店で電子棚札の導入が進む理由は、価格の変更に掛かる時間を削減することで、接客の時間を増やせるためです。ビックカメラとノジマは電子棚札の導入にあたって、接客の時間が増やせることをメリットに挙げています。

お客さんが家電量販店に期待していることは、商品の価格の安さです。家電量販店はお客さんの期待に応えるため、激しい価格競争を行って来ました。現在も価格の安さは重要ですが、以前と比べると、接客の重要性が高まっていると考えられます。

家電量販店で接客が重要になる理由は、高齢化社会の進行です。

人間は歳を取ると考え方が保守的になり、リスクを嫌うようになります。若い頃は価格を最重要視してきたお客さんも、歳を取れば、価格が安いことよりも、買い物で失敗しないことを重視するようになります。

家電の購入においては、自分に適切な商品かどうか、故障・トラブル時のサポートは十分かといったことへの関心が強まります。また、家電の高機能化が進んでおり、家電の機能を理解して、適切なものを選ぶことも難しくなっています。

高齢化社会の進行に合わせて、家電量販店が接客の時間を増やそうとすることは順当です。高齢者のお客さんが増えれば、それだけ接客に掛かる時間も増えるため、接客のリソースを強化しなければなりません。

家電量販店だけではなく、すべての小売業に当てはまることですが、接客の時間を増やせば増やすほど、売上が増えると考えてよいと思います。

接客の時間を増やす方法の一つとして、電子棚札の導入は効果的なものです。家電量販店は価格の変更業務が多く、価格の変更に多くの労働力を費やしています。電子棚札の導入により、価格の変更業務を削減して、接客の時間を増やすことは、労働力の有効活用という点でも優れています。

家電量販店が電子棚札を導入する理由 – 商品レビューの活用

家電量販店が電子棚札を導入する理由は、価格変更のスピードアップ、ミスの削減、業務量の削減、紙の値札のコスト削減といったものです。これらのメリット以外にも、電子棚札はデジタルマーケティングを強化できる可能性を持っています。

ECサイトの商品レビューを表示することは、電子棚札の活用方法の一つです。

8月28日にオープンした「ビックカメライトーヨーカドーたまプラーザ店」では、電子棚札、ECサイト、スマホアプリが連携した施策が導入されています。電子棚札には、ECサイト「ビックカメラ・ドットコム」の星数と商品レビューの件数が表示されています。

お客さんは電子棚札にスマホアプリのスキャンをかざすことで、「ビックカメラ・ドットコム」の商品ページを表示できます。お客さんは目の前にある商品について、「ビックカメラ・ドットコム」の商品レビューをすぐに見ることができます。

ビックカメラは「ビックカメラ・ドットコム」の商品レビューを実店舗で活用することにより、接客の幅を広げられます。

お客さんに気なる商品のレビューをスマホアプリで見てもらえれば、より多くの商品情報に触れてもらえ、店舗の滞在時間も長くなります。多くの商品を見てもらい、店舗の滞在時間が長くなるほど、商品が売れる確率が高まります。

接客の質を高めるという意味でも、商品レビューの活用は効果的です。

お客さんは商品レビューを読むことで、その商品の良い点、悪い点についての理解を深めます。商品レビューを読み、商品への理解を深めることは、商品の機能にフォーカスした、質の高い接客へと繋がります。

商品レビューはECサイトとともに登場したもので、従来の小売業にはないものでした。従来の小売業もどうにかして商品レビューを活用したいところでしたが、ECサイト、スマホアプリ、電子棚札の連携により、実店舗でも可能になりました。

実店舗で商品レビューを活用することは、ECサイトとの機能の差を埋めるという点でも、意義のあるものです。

電子棚札は家電量販店がECに対抗するために必要なテクノロジー

家電量販店は電子棚札を導入することにより、価格変更業務のスピードアップ・コスト削減、接客の時間の増加、商品レビューの活用などの効果が得られます。こうした店舗の生産性の向上は、ECへの対抗策として不可欠なものです。

お客さんがECで家電を購入する理由は価格が安いためです。家電量販店がECと価格競争をすることは簡単ではありませんが、家電量販店はECよりも高いというイメージが定着してしまうことは防ぎたいです。

電子棚札の導入はECとの価格競争に必要な施策です。電子棚札を使うことで、ECの価格変更にスピーディーに対応できるようになります。家電量販店が売上を増やすためには、ECよりも価格が高い時間をなるべく少なくしたいです。

お客さんが家電量販店の価格を調べた時に、ECの価格と大きな差があれば、商品が売れる確率が低くなってしまいます。

電子棚札の導入により、価格変更に費やす時間が減り、接客の時間を増やせるようになります。接客の時間を増やすことも、ECへの対抗策として必要なものです。

お客さんはECの家電に何の問題もなければ、家電量販店に行くことなく、ECで買い物を済ませます。家電量販店にやってくるお客さんは、ECでは購入の決断をできず、何かを確認するために店舗に来ています。

接客は店舗で購入してもらえるチャンスであるため、家電量販店はできるだけ多くの労力を接客に確保したいところです。店舗までやってきたお客さんは、ECで注文することも面倒なので、店舗で注文するというのはあり得ます。

商品レビューの活用については、実店舗とECの買い物体験の差を埋める施策です。

家電量販店で電子棚札の導入が進む理由は、ECの脅威が大きいからだと見ることができます。家電量販店にとって、電子棚札はECへの対抗策として効果が大きく、店舗の生産性の向上にも繋がるため、投資価値のあるものです。