セブン&アイ・ホールディングスがグループ企業の店舗の閉鎖、従業員の削減を発表

セブン&アイ・ホールディングスは10月10日、事業構造改革を発表しています。事業構造改革には、イトーヨーカ堂、そごう・西武の店舗の閉鎖、従業員の削減が盛り込まれていて、従業員の削減数は両社合計で3,000人と大規模です。

セブン&アイ・ホールディングスは営業利益の約6割を国内コンビニエンスストア事業で稼いでいますが、今年に入ってから、コンビニ業界全体で加盟店の問題が噴出しています。セブン&アイ・ホールディングスはセブン-イレブンを最優先で守る必要があり、それ以外の事業への投資は削減されることになりそうです。

セブン&アイ・ホールディングスはグループでのシナジーを追求して、ライフタイムバリューを最大化することを戦略としています。営業利益の中心である、国内コンビニエンスストア事業が問題に直面したことで、グループでのシナジーの追求も難しくなります。

セブン&アイHDが発表した事業構造改革の内容

セブン&アイ・ホールディングスは10月10日、「グループ戦略と事業構造改革について」というリリースを出しています。

セブン&アイ・ホールディングスはグループでのシナジーを追求して、ライフタイムバリューを最大化するグループ戦略を持っています。今回発表された事業構造改革は、セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、そごう・西武の三社についてです。事業構造改革の内容は、店舗の閉鎖、従業員の削減を含む、厳しい内容です。

セブン-イレブン・ジャパンでは、2020年3月より、チャージの減額が適用される計画です。チャージの減額には基準があり、24時間営業をしているかどうか、月間の売上総利益が550万円を超えているかどうかで、減額される金額が変わります。

チャージの減額により、加盟店一店舗当たりの利益は、年間で平均約50万円改善する見込みであるとのことです。一方、セブン&アイ・ホールディングスはチャージを減額することで、100億円ほど利益が減少する計算です。セブン&アイ・ホールディングスの2019年2月期の営業利益は411,596百万円なので、100億円は営業利益の約2.4%相当します。

100億円の利益を埋め合わせる施策として、不採算店の閉店加速速(2019年下期以降、約1,000店舗の閉鎖・立地移転を実施)、本部人員の適正化、新レイアウトの展開が挙げられています。加盟店の利益を増やすため、本部のコストカット、加盟店のさらなる売上アップを目指す内容です。

イトーヨーカ堂では、店舗の閉鎖と従業員の削減を実施する計画です。

店舗の閉鎖については、33店舗をグループ内外企業との連携、閉店を検討する計画です。従業員の削減については、2022年度末の従業員数を2018年度末に対し、労使協議のうえ、自然減も含めて、約1,700名を減らす計画です。

そごう・西武では、店舗の閉鎖と従業員の削減を実施する計画です。

店舗の閉鎖については、2020年8月から2021年2月までに、「西武岡崎店」、「そごう川口店 」など、5店舗を閉鎖する計画です。また、2021年2月には、「西武秋田店」、「西武福井店」の2店舗の面積が縮小される計画です。

セブン&アイ・ホールディングスの事業構造改革の内容は、セブン-イレブン・ジャパンはチャージの減額、イトーヨーカ堂とそごう・西武は店舗の閉鎖、従業員の削減となっています。セブン&アイ・ホールディングス全体で見ると、利益、店舗、従業員が減少するため、事業を縮小する厳しい内容であると評価できます。

セブン&アイHDの状況 – コンビニ事業に営業利益を依存

セブン&アイ・ホールディングスは、イトーヨーカ堂、そごう・西武において、店舗の閉鎖と従業員の削減を発表しました。セブン&アイ・ホールディングスの事業の縮小は、営業利益の多くをコンビニ事業に依存していることと関係していると考えられます。

セブン&アイ・ホールディングスの2019年2月期の営業利益は411,596百万円で、セグメント別営業利益は次のようになっています。

2019年2月期のセグメント別営業利益(構成比)
  • 国内コンビニエンスストア事業 – 246,721百万円(59.9%)
  • 海外コンビニエンスストア事業 – 92,266百万円(22.4%)
  • 金融関連事業 – 52,874百万円(12.8%)
  • スーパーストア事業 – 21,173百万円(5.1%)
  • 専門店事業 – 6,680百万円(1.6%)
  • 百貨店事業 – 3,737百万円(0.9%)
  • その他の事業 – 2,659百万円(0.6%)

セブン&アイ・ホールディングスは営業利益の59.9%を国内コンビニエンスストア事業で稼いでいて、海外コンビニエンスストア事業も22.4%あります。両者を合わせると8割を超え、国内外のコンビニ事業がセブン&アイ・ホールディングスの中心です。

金融関連事業はセブン-イレブンの店舗に設置されているATMによるもので、国内コンビニエンスストア事業とのシナジーがあります。セブン-イレブンの店舗が増えるほど、ATMの台数も増え、金融関連事業の営業利益は増加します。

イトーヨーカ堂を含むスーパーストア事業は5.0%しかなく、そごう・西武の百貨店事業も0.9%しかありません。両事業の収益性は低く、セブン&アイ・ホールディングス全体の営業利益への貢献度は低いです。

セブン&アイ・ホールディングスはグループでのシナジーを追求しており、グループ内には様々な小売事業があります。国内コンビニエンスストア事業で稼いだ営業利益が、他の事業へ投資されることもあるはずです。

国内コンビニエンスストア事業の収益が不確実になったことにより、グループでシナジーを追求する戦略も変化を迫られます。イトーヨーカ堂、そごう・西武に経営資源を掛けることが難しくなり、店舗の閉鎖と従業員の削減が加速したのではないでしょうか。

セブン-イレブンの課題 – 加盟店の強化・維持

セブン-イレブンの今後の課題は、加盟店の強化・維持だと考えられます。今回、チャージの減額で、加盟店一店舗当たりの利益は年間で平均約50万円改善する見込みです。加盟店は利益の確保が難しくなっており、コンビニ事業が成長を続けるためには、加盟店の収益性を改善させる取り組みが不可欠です。

セブン-イレブンを含め、コンビニ加盟店の利益確保が難しくなった理由は、売上の減少と人件費の増加が同時に起こっているためです。

売上が減少する理由は、コンビニの店舗数の増加です。地域のコンビニの店舗数が増えれば、商圏の人口を奪い合うことになり、一店舗あたりの売上は減少します。また、近年はドラッグストアがコンビニと競合するようになり、地域にドラッグストアが出店してくれば、周辺のコンビニの売上は減少します。

人口の減少もコンビニの売上が減少する理由の一つです。コンビニは小型店舗・小商圏でビジネスを行っており、商圏の拡大が難しく、人口減少の影響は大きいです。

人口の減少により、最低賃金の上昇が加速していて、コンビニの人件費は継続的に増加しています。各加盟店は競争の激化・人口の減少で売上の増加が難しいなかで、人件費の増加が続くため、利益は圧迫されています。

セブン-イレブンは加盟店の利益を増やすため、チャージの減額を決定しました。コンビニの厳しい競争環境を考えると、チャージの減額は一時的なものではなく、今後、何度も実施しなければならない可能性もあります。

セブン-イレブンの加盟店の強化・維持の施策には、高単価のセブンプレミアムの強化、冷凍食品・惣菜の強化、コスト削減のための省力化などがあります。

各種施策により、加盟店の売上アップ、コスト削減の余地はありますが、継続的な人件費の増加を吸収できるかどうかは分かりません。

各種施策で加盟店の利益が増えない場合は、さらなるチャージの減額、または店舗の大量閉鎖が起こります。セブン-イレブンとしては、さらなるチャージの減額はしたくないので、いかにして加盟店の利益を確保するかが重要な課題です。

イトーヨーカ堂の課題 – 総合スーパーの構造改革

イトーヨーカ堂は総合スーパーの構造改革を進めています。今回発表された施策には、33店舗をグループ内外企業との連携、閉店の検討、ライフスタイル事業(衣料・住居関連商品)のMD改廃、売り場面積の縮小、従業員の削減などがあります。

衣食住の商品を大型店舗で販売する、総合スーパーが時代に合わなくなっています。総合スーパーが運営コストに見合った売上を獲得することは難しく、コストの削減、または店舗の閉鎖が現実的な施策になるのではないかと考えられます。

総合スーパーは食品は売れるものの、衣料品、住居関連商品が売れない状況です。衣料品、住居関連商品は専門店が強く、お客さんは総合スーパーでは買わなくなっています。

衣料品、住居関連商品をどうするかというのは、イトーヨーカ堂においても重要な課題です。人気の専門店をテナントとして誘致することは、効果的な方法の一つです。

総合スーパーは店舗が遠方にあり、売り場面積も広く、食品を買うためだけに行くことは億劫です。お客さんの労力に見合った価値を提供する必要があり、食品だけではなく、衣料品、住居関連商品でも、魅力的な商品を揃えなければなりません。

立地の良い店舗では、マンションとして再開発する構造改革が実施されています。

イトーヨーカ堂は11月28日、埼玉県川越市に「イトーヨーカドー食品館川越店」をオープンする予定です。「イトーヨーカドー食品館川越店」は、1967年から2016年まで48年間営業した「イトーヨーカドー川越店」の跡地を、商業施設とマンションの複合物件として再開発したものです。

再開発により、衣料品、住居関連商品を削減して、総合スーパーから食品スーパーに転換することができています。立地の良い店舗については、外部企業と提携して物件の再開発を行い、食品スーパーに転換する方法が最適ではないかと思います。

現在の社会環境を見ると、総合スーパーが大型店で存続することは難しそうです。

高齢者は総合スーパーの重要な顧客ですが、子供は独立しており、食品以外の商品への需要は小さいです。若い世代は総合スーパーの重要な顧客ではあるものの、高齢者と比べて人口は少なく、結婚をしない人も増えています。高齢者は人数は多いものの客単価は低く、若い世代の底上げも弱く、総合スーパーは大きな売上の増加を見込めません。

立地の悪い店舗は閉鎖、立地の良い店舗は再開発で食品スーパーとして存続というのが、イトーヨーカ堂の構造改革の成功シナリオではないでしょうか。

そごう・西武の課題 – 百貨店の構造改革

そごう・西武は百貨店の構造改革を進めています。今回発表された施策には、店舗の閉鎖、店舗面積の縮小、従業員の削減のほかに、基幹店へのプロパティマネジメントの導入、成長領域(コスメ、ラグジュアリー、食品など)の強化があります。

百貨店も総合スーパーと同様に、時代に合わなくなっています。立地の良い、インバウンドの来店が見込める都市部の店舗は存続できると考えられますが、インバウンドの来店がない、地方の店舗は構造改革が難しそうです。

百貨店の構造改革として注目されているのが、物販ではなく、賃料で収益を上げるというものです。丸井グループは賃料、金融で収益を上げることに成功しており、今後、多くの百貨店が丸井グループの成功モデルを目指すことになるのではないかと思います。

高齢化社会の進行、所得に二極化、シェアリングエコノミーの普及などにより、百貨店の高価格の商品は売れにくくなっています。一部の高所得者は百貨店で買い物しますが、若年層の底上げは弱く、百貨店の物販の売上が大きく伸びることは期待しにくいです。

百貨店の物販は難しいですが、アクセスの良い立地には価値があります。そごう・西武においても、不動産関連事業で収益を上げるチャンスはあります。

そごう・西武は成長領域として、コスメ、ラグジュアリー、食品などを挙げています。

コスメ、ラグジュアリーは主に中国のお客さんに人気のカテゴリで、中国の人口が多いことを考えると、今後も成長が期待できます。食品は昔から百貨店の人気カテゴリの一つで、衝動買いも起きやすいことから、依然としてチャンスがあります。

そごう・西武はプロパティマネジメントと成長領域の強化で成長する計画ですが、どちらかと言えば、プロパティマネジメントへの期待が大きいです。

立地の悪い店舗は閉鎖、立地の良い店舗はプロパティマネジメントで収益を上げるというのが、そごう・西武の構造改革の成功シナリオではないでしょうか。

店舗の閉鎖、従業員の削減でグループでのシナジーは縮小

セブン&アイ・ホールディングスはグループに様々な小売業を持ち、シナジーを追求していますが、うまく機能しているとは言えない状況です。今後、グループ内の企業で店舗の閉鎖、従業員の削減が続くと、シナジーはさらに縮小します。

今回、イトーヨーカ堂とそごう・西武の店舗の閉鎖が発表されましたが、セブン&アイ・ホールディングスの主力商品である、セブンプレミアムに影響がありそうです。

セブンプレミアムはセブン&アイ・ホールディングスのPB商品で、高品質・高価格が特徴です。セブンプレミアムの2019年2月期の売上は1兆4,130億円(前年同期比7.0%増)となっていて、売上の増加、競合との差別化に不可欠なものです。

セブンプレミアムはセブン-イレブンだけでなく、イトーヨーカ堂、そごう・西武の店舗でも販売しています。イトーヨーカ堂、そごう・西武の店舗が閉鎖すれば、セブンプレミアムの売上も減少することになります。

セブン-イレブンでは買い物をしないけど、イトーヨーカ堂、そごう・西武の店舗で買い物をするという高齢者はいると思います。店舗の閉鎖により、こうしたお客さんとの接点がなくなることは、セブンプレミアムの拡販にはマイナスです。

セブン&アイ・ホールディングスのECサイト「オムニ7」においても、シナジーが小さくなりそうです。「オムニ7」はセブン&アイ・ホールディングスグループの商品が便利に買えることが特徴ですが、当初の期待ほど売上は伸びていませせん。

売上の大部分を占める実店舗でシナジーの追求が弱まるなか、売上への貢献が小さい「オムニ7」でシナジーを追求するというのは考えにくいです。

コンビニ加盟店の問題が噴出したことで、セブン&アイ・ホールディングスでは、セブン-イレブンの加盟店支援が最重要課題になりました。国内コンビニエンスストア事業はセブン&アイ・ホールディングスの営業利益の約6割を占めており、国内コンビニエンスストア事業の収益性の悪化はグループ全体に影響します。

国内コンビニエンスストア事業のために、他の事業が縮小されることは、今後も起こると思います。グループでのシナジーの追求はますます難しくなりますが、仕方がないことなのかもしれません。