Eコマースの拡大によってショッピングモールは閉店に追い込まれるか

Eコマースの拡大によってショッピングモールは閉店に追い込まれるか

アメリカの小売業のニュースを見ていると、Eコマースの拡大とともに、多くの小売業が店舗を閉店するようになっています。特にショッピングモールの閉店が増えているとのことで、日本でも将来的に同じことが起こるかどうかは気になるところです。日本とアメリカを比較すると、アメリカはショッピングモールの数が多く、Amazonプライムの会員数も多いです。日本でもAmazonの脅威は大きいものの、アメリカのようなショッピングモールの閉店が起こる可能位は低そうです。日本のショッピングモールにとっては、Eコマースの拡大よりも、ライフスタイルの変化、自動車離れへの不安が大きいです。

ショッピングモールは恋人、友人、家族で来店してもらうことを期待していますが、恋愛をしない人、結婚をしない人、子供を持たない人が増えていることは不安材料です。また、ショッピングモールは自動車での来店を期待していますが、自動車を運転しない人が高齢者、若者に増えていることも心配です。ショッピングモールは買い物をするだけでなく、体験をする店舗でもあり、買い物だけでEコマースと競合するのは好ましくありません。ショッピングモールの業績が急激に悪化しているといったデータはありませんが、Eコマースの拡大、ライフスタイルの変化、自動車離れと、心配な点は少なくありません。

アメリカではAmazonの影響でショッピングモールの閉店が増える

日本は様々な分野でアメリカを参考にしていて、小売業もアメリカからノウハウを学ぶことで成長して来ました。日本の小売業はチェーンストア理論で業績を拡大して来ましたが、チェーンストア理論はアメリカから学んだものです。チェンーストア理論とは、本部に権限を集中させ、店舗はオペレーションに集中することで、経営効率を高め、利益を増やす小売業の経営手法です。小売業では従来の販売チャネルである実店舗に加え、Eコマースが新しいチャネルとして重要になっています。日本の小売業はEコマースにおいても、アメリカ、アメリカの企業であるAmazonを参考にしています。

アメリカの小売業のニュースを見ていると、実店舗対Eコマースについての情報が多いです。アメリカの消費者がどのようなECサイトで買い物をしているのか、詳しいことは分かりませんが、Eコマースの主役はAmazonです。アメリカではAmazonの業績が拡大するに連れて、多くの小売業が実店舗を閉店するようになっていて、実店舗対Eコマースは注目トピックの一つです。アメリカの小売業の閉店では、トイザらスの破産が日本でも大きな注目を集めました。トイザらスはAmazonの影響だけで破産したわけではありませんが、有名な小売業が破産したことは、Eコマースの拡大を感じさせる出来事でした。

アメリカでは、様々な業種の小売業が店舗の大量閉店を発表しており、ショッピングモールの閉店が特に増えているとのことです。「アメリカ、ショッピングモール、閉店」で検索すると、閉店したショッピングモールに関する記事・写真が出てきます。ショッピングモールは店舗面積が大きく、多くのテナントがあり、楽しく買い物ができる店舗です。エンターテイメント性があるショッピングモールが、次々に閉店するのは残念なことです。日本でもEコマースの拡大がショッピングモールの売上高を減らしていると考えられますが、閉店に追い込まれるといった悲壮感はまだありません。

アメリカでショッピングモールの閉店が続く背景には、オーバーストアとEコマースの拡大の二つがあるようです。Eコマースが登場する前から店舗同士で競合しており、小売業はお客さんを奪い合いながら成長して来ました。もともと実店舗の競争が激しかったところに、Eコマースが登場したことで、小売業の競争環境はさらに厳しくなりました。全世界で実店舗対Eコマースは起こっていますが、実店舗の状況は各国で違います。近年、アメリカでショッピングモールの閉店が増えていることは、アメリカのショッピングモールがオーバーストアであり、さらにEコマースの影響も大きいと推測できます。

Amazonは配送料無料、納期短縮、ビデオ・音楽・書籍などのコンテンツがセットになった、Amazonプライムという有料会員サービスを提供しています。アメリカの調査会社によると、2018年10~12月のアメリカのAmazonプライムの会員数は1億100万人で、初めて1億人を突破したとのことです。アメリカのAmazonプライムの年間費は119ドルで、Amazonの利用者の約62%がAmazonプライムの会員であるとされています。Amazonプライム会員の年間平均購入金額は1,400ドルとなっていて、Amazonプライム非会員の600ドルと比べると、2.3倍も多く買い物をしています。

年間119ドルのAmazonプライム会員が1億人いるというのは、衝撃的な事実ではないでしょうか。アメリカの人口が約3.2億人ですから、アメリカ人の3人に一人がAmazonプライムの会員になっていることになります。日本のAmazonプライムの会員数は不明ですが、アメリカは日本よりも遥かにAmazonの存在感が大きいです。Amazonの利用者がプライム会員になる目的は、配送料を節約する、納期を短縮するためで、Amazonで買い物をする意欲が高いです。Amazonの便利な買い物体験に慣れた人は、徐々にAmazonで買い物をするカテゴリを増やして行くので、実店舗で買い物をする機会が減ります。

日本ではショッピングモールの閉店が増える可能性は低い

日本の小売業にはアメリカの小売業から学んできた歴史があり、Eコマースでもアメリカから学んでいます。アメリカのEコマース企業のAmazonは日本でも事業を行っており、多くの小売業から意識される存在です。現在、アメリカではAmazonがショッピングモールを閉店に追い込んでいるとされていて、同じことが日本でも起こるかどうかというのは興味があるところです。日本のショッピングモールでもアメリカと同じように閉店が発生するかどうかは、日本のショッピングモールの競争環境に関係していて、イオンモール、日本ショッピングセンター協会が出している資料が参考になります。

イオンモールの2018年2月期の決算では、営業収益は288,111百万円(前期比6.8%増)、営業利益は49,211百万円(前期比9.5%増)、営業利益率は17.1%(前期比0.4ポイントアップ)となっています。イオンモールは日本、アジアで事業を行っており、日本セグメントの数字を見ると、営業収益は255,499百万円(前期比4.7%増)、利益は50,074百万円(前期比2.8%増)、利益率は19.6%(前期比0.4ポイントダウン)です。最も古い2003年2月期の決算と比較すると、営業収益は8.3倍、営業利益は4.4倍まで増えており、Eコマースの拡大で成長が鈍化しているような印象はありません。

イオンモールは2018年2月期の決算説明会資料の中で、日本とアメリカのショッピングモールの競争環境の違いを説明しています。イオンモールの資料によると、日本の大型ショッピングモールの数は190店舗(2017年12月末現在)、人口は12,693百万人です。一方、アメリカの大型ショッピングモールの数は1,222店舗(2016年12月末現在)、人口は32,330百万人です。大型ショッピングモールと人口の数から計算した、大型ショッピングモール1店舗あたりの人口は、日本は66万人、アメリカは26万人となります。日本の方が1店舗あたりの人口が多く、アメリカよりも競争は激しくないと言えます。

日本ショッピングセンター協会は毎年、年間総売上高を発表しており、ショッピングモールの競争環境を考えるうえで参考になります。2018年の年間総売上高(推計)は32兆6,344億円となり、前年比で1.9%増加しています。日本ショッピングセンター協会は2000年から年間総売上高を発表していて、全体のトレンドとして、売上高は減少傾向にあります。百貨店、総合スーパーと同様に、店舗面積が大きいショッピングモールも客離れが起こっています。ただ、近年は訪日観光客の増加が大型店の集客に繋がっており、ショッピングモールにおいても、一部の地域で売上高が増えているところがあります。

日本ショッピングセンター協会の2000年から2018年までの売上高の増減を見ると、売上高が前年を下回った年度が11、売上高が前年を上回った年度が8です。直近の5年間を見ると、売上が前年を下回った年度が1、売上高が前年を上回った年度が4となっていて、売上高が増加傾向にあります。これは訪日観光客の増加によって、ショッピングモールで買い物をする外国人のお客さんが増加したためであると考えられます。ショッピングモールも他の小売業と同様に、Eコマースに売上高を奪われています。しかし、全体の売上高は堅調で、訪日観光客の増加がEコマースによる売上高の減少を補っています。

イオンモールと日本ショッピングセンター協会の資料を見ると、日本のショッピングモールの業績は堅調であると言えます。アメリカではAmazonの業績拡大によって、ショッピングモールの閉鎖が増えていますが、同じことが日本でも起こるかというと、すぐには起こらないのではないでしょうか。日本はアメリカと比較してショッピングモール1店舗当たりの人口が多く、Eコマースによる売上高の減少に耐えられる体力があります。また、訪日観光客の増加がショッピングモールの売上高を押し上げており、Eコマースの脅威よりも、訪日観光客をさらに取り込むことへの期待が大きいです。

衣料品をECサイトで買う人が増えていることは不安材料

ネットショッピングの利用者が増えていますが、いろいろなアンケート調査から、お客さんがネットショッピングに期待するものは分かっています。お客さんがネットショッピングを利用する理由には、外出しなくても買い物ができる、価格が安い、商品比較がしやすい、時間を気にせずに買い物ができる、といったものがあります。お客さんは実店舗とECサイトを比較して、これらの点が優れているため、ECサイトで買い物をしているということになります。ショッピングモールのカテゴリ別の売上高は、どのカテゴリがECサイトに売上高を奪われているのかを考える、参考資料になります。

イオンモールの2018年2月期の決算説明会資料の中に、カテゴリ別売上高の増減率があります。イオンモールの2018年2月期のカテゴリ別売上高の増減率は、衣料品は1.0%減、服飾品は1.2%減、雑貨は6.8%増、ホビーは3.6%増、食品は9.4%増です。衣料品・服飾品は売上高が減少していますが、それ以外のカテゴリは売上高の増加率が大きいです。ショッピングモールでは衣料品・服飾品の売上高構成比が大きいので、衣料品・服飾品の売上高減少はイオンモールにとっては問題です。衣料品はもともと売上高が下落傾向にあるところに、Eコマースの拡大も加わり、競争が激しくなっています。

ECサイトで衣料品を買う人が増えていることは、各種データからも見て取れます。経済産業省が発表している「電子商取引に関する市場調査」によると、2017年度の衣類、服装雑貨等のEC市場規模は1兆6,454億円(前期比7.56%増)、EC化率は11.54%(前期比0.61ポイントアップ)です。BtoC全体のEC化率5.79%と比較すると、衣類、服装雑貨等のEC化率は約2倍です。また、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの成長率は依然として高いです。ZOZOの2018年3月期の商品取扱高は2,629億円(前年比28.3%増)となっていて、ECサイトで洋服を買う人は増加を続けています。

お客さんがECサイトで洋服を買う理由には、価格が安い、商品の比較がしやすい、品揃えが豊富、ポイントが貯まるなどが考えられます。ZOZOはお客さんのこれらのニーズを満たしているため、高い成長率を維持することができています。洋服は百貨店、総合スーパー、ショッピングモールで買うことが多いですが、近くに店舗がない、店舗が閉店したといった理由で、欲しい洋服を買えない人もいます。近くの店舗で洋服を買えないお客さんは、ECサイトで洋服を買うようになります。ECサイトでの買い物体験に満足すると、実店舗では買い物をしなくなり、ECサイトのリピーターになることが多いです。

ショッピングモールはEコマースによって、深刻な状況に追い込まれているとは考えにくいです。しかし、洋服をECサイトで買う人が増えているため、ショッピングモールはお客さん奪われています。ショッピングモールがEコマースから衣料品を守るためには、衣料品単体で競争するのではなく、ショッピングモール全体の買い物体験を強化するべきではないかと思います。欲しい洋服を安く、便利に買いたいというニーズに対しては、Eコマースがベストな店舗です。ショッピングモールは、洋服を買って、雑貨を買って、食品を買って、食事をして、今日は楽しかったというような方向性を目指すべきです。

お客さんがネットショッピングをする理由、ショッピングモールのカテゴリを考えると、ショッピングモールがEコマースから受ける影響は大きくはないと思います。ショッピングモールは衣料品、雑貨、食品の品揃えが豊富にあり、テナントも多くで、買い物だけが来店の目的ではありません。ショッピングモールのテナントの商品には独自性があり、ECサイトと価格比較されることも少ないです。ただ、ショッピングモールの主力商品である衣料品が、ECサイトに流出しているのは問題です。ECサイトで衣料品を買う人が増えることは、長期的にはショッピングモールの客離れに繋がります。

Eコマースよりもライフスタイルの変化・自動車離れが不安

日本の小売業はアメリカを参考に成長して来たため、アメリカで起こっていることは日本でも起こるという見方が強いです。しかし、アメリカで起こっているショッピングモールの閉店については、すぐに日本で起こる可能性は低いです。日本はアメリカと比較すると、ショッピングモールの店舗数が少なく、1店舗あたりの人口が多いです。また、Amazonは日本にもありますが、Amazonプライムの会員数はアメリカほど多くはありません。将来的に日本のショッピングモールの問題になりそうなのは、Eコマースの拡大よりも、ライフスタイルの変化、自動車離れではないでしょうか。

現在、恋愛をしない人、結婚をしない人、子供を持たない人が増えています。ショッピングモールはお客さんにデート、友人、家族での買い物で来店してもらうことを期待しているため、こうした傾向は客数の減少に繋がります。ショッピングモールは買い物だけではなく、レストラン、映画館、アミューズメント施設など、買い物を含む総合的な買い物体験が強みです。デートをする人が減り、家族で買い物をする人が減ると、ショッピングモールの買い物体験の価値も下がってしまいます。一人で買い物をするだけであれば、遠くのショッピングモールに行かなくても、近くの店舗やECサイトで十分です。

恋愛をしない人、結婚をしない人、子供を持たない人が増えていることは、小売業の問題だけではなく、すべての企業、日本全体の問題です。少子化の問題は広く一般に知られるようになり、日常会話でも話題になることがあります。今後も少子化が続くという見通しになっていますが、どこかで反転する可能性もあるのではないでしょうか。若い世代は夫婦共働きの家庭を想定して、家事・仕事のスキルアップに励む人が増えているという変化もあります。今後、恋愛をする人、結婚をする人、子供を持つ人が増えるのか、減るかは、ショッピングモールの業績に大きな影響を与えます。

自動車での来店を想定しているショッピングモールとしては、自動車離れは重大な問題です。高齢者は体力的な理由から自動車の運転を控え、若者は経済的な理由から自動車を所有しなくなっています。高齢者は子供が独立してしまうと、生活に必要なものが減るため、遠くに買い物に出掛けるモチベーションが低下します。一方、若者は自動車を持たないだけでなく、恋愛・結婚をする人が減ってい若者と関係を構築することが難しくなり、ショッピングモールを使わずに生活をする人が増えることになります。

高齢者、若者を中心とした自動車離れは、小売業の出店戦略にも影響を与えています。これまでロードサイドに大型店を出店していた小売業も、都市部の商業施設の中へ小型店の出店を増やしています。専門店を運営する小売業は小型店を出店することができますが、ショッピングモールが小型店を出店することは難しいです。小売業の出店が都市部に集中するようになると、ショッピングモールが郊外で孤立してしまう可能性はあります。ショッピングモールの周辺には家電量販店、ホームセンター、ディスカウントストアなど、大型店があることが多く、地域の集客力アップに貢献しています。

お客さんのライフスタイルの変化、自動車離れに対して、ショッピングモールの具体的な施策はすぐには思い付きません。お客さんの立場からすると、ショッピングモールは自動車で行く店舗、時間を掛けて行く店舗です。お客さんはショッピングモールに出掛けるために時間と労力を使っており、それに見合った満足感を求めています。商品を安く、便利に買いたいというニーズに対しては、ECサイトが優れた買い物体験を提供しています。品揃え、利便性でショッピングモールがECサイトに勝つことは難しいため、買い物に加え、実店舗ならではの体験にチャンスがあるのではないかと思います。