小売業が男女平等を実現するためにはどのような取り組みが必要か

小売業が男女平等を実現するためにはどのような取り組みが必要か

男女平等はグローバルな問題で、女性の管理職が少ないこと、女性議員が少ないことは、国力を弱めると全世界で考えられています。小売業では少数の男性正社員と多数の女性アルバイト・パートで店舗を運営しており、男性と女性の役割・待遇に差があります。日本全体で男女平等を実現しようという機運が高まる中、小売業でも男女の差を解消しなければならなくなります。小売業は多数の非正規社員に店舗運営を依存して来ましたが、人手不足により、従来の方法では店舗を運営できなくなっています。小売業が男女平等を実現するためには、非正規社員に依存した店舗運営を改革しなければなりません。

小売業が男女平等を実現するための具体的な施策は、店舗の省人化、ドミナント化の二つです。小売業では単純労働であるレジ業務・商品補充業務に多くの人員を割り当てており、省人化によって作業量の削減、店舗の収益性アップの余地があります。店舗から単純労働が減れば、女性のアルバイト・パートが減り、正社員を増やす余力が生まれます。小売業はこれまでもドミナント出店を行って来ましたが、店舗をさらに狭い地域に密集させることが好ましいです。狭い地域に店舗が近接していれば、転勤の負担が小さくなり、結婚・出産を考えている若い女性も正社員で働きやすくなります。

男女平等を実現することが世界的な目標になっている

日本社会には解決すべき様々な問題がありますが、男女平等は関心が高まっている問題です。政治に参加する権利、教育を受ける権利、仕事をする権利など、昔は男性だけに与えられていた権利が多く、女性は長い時間を掛けて、権利を勝ち取って来た歴史があります。男女平等は昔から存在している問題ですが、ここ数年目にすることが多くなったのは、男女平等がグローバルな問題であるためです。社会には男性と女性の権利が平等ではないと考えられる部分が依然として存在していて、性別による不平等を減らすことで、男性と女性で権利の差がない社会を実現しようというのが男女平等です。

日本社会に存在している問題は、世界にも存在しているものが多く、海外のニュースを見ることで、日本の問題に気付かされることがあります。男女平等以外にも、食品ロス、ビニール袋、プラスチック、キャッシュレス、格差社会、子供の貧困などは、世界共通の問題です。これらの問題は日本でも認知度が高まり、解決への取り組みが活発になっています。世界共通の問題を解決するにあたって、日本だけが異なる対応をすることは考えにくいです。男女平等を実現する取り組みは世界的に行われているため、日本においても、男女平等を実現しなければならないというプレッシャーが強くなって行きます。

世界経済フォーラム(WEF)は各国のジェンダー不平等状況を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)」というものを発表していて、毎年ニュースで目にします。2018年の日本の順位は110位になっていて、ランキングの上位にはヨーロッパの国がランクインしています。「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)」が評価しているのは、ジェンダー間の経済的参加度および機会、教育達成度、健康と生存、政治的エンパワーメントの四つで、日本はジェンダー間の経済的参加度および機会、政治的エンパワーメントの二つのランクが低いです。

ジェンダー間の経済的参加度および機会については、結婚・出産で退職する女性が多く、非正規雇用の大部分が女性であることが関係しています。結婚・出産で一度退職すると、以前のように正社員で働くことが難しく、給料が大幅に減少してしまいます。また、若い女性は将来結婚、出産で退職する可能性が高いと見られるため、男性よりも正社員で採用されにくいという不利もあります。政治的エンパワーメントについては、女性の議員が少ないことが問題です。議員が少ないということは、立候補する人が少ないということであり、ここにも結婚・出産による不利が関係していると考えられます。

男女平等の問題を考える時、日本の人口の男女比を考えるとイメージしやすいのではないかと思います。日本の人口は女性の方が寿命が長いため、高齢者は女性が多いものの、ほぼ男女半々です。男性と女性が同じ人数暮らしている社会で、重要な意思決定を行う経営層、議員に女性が少ないことは問題ではないでしょうか。女性の議員が少ないと、女性の問題が議題になること機会が減り、女性の問題を解決する取り組みが遅れてしまいます。また、企業の商品・サービスを購入するお客さんの半数も女性ですが、経営層に女性が少ないと、女性向けのマーケティングがうまく機能しません。

男女平等が実現されると、国のGDPが伸び、出生数も増えるという意見があります。育児休暇が取りやすく、育児休暇後も女性が正社員で働ける環境があれば、GDP、出生数は伸びるかもしれません。ただ、すべての企業が育児休暇を設けることは難しく、一部の大企業だけが育児休暇を設けても効果は限定的です。男女平等の前に格差の問題があり、男女平等を実現するためには、格差の問題も解決しなければなりません。現在の日本の状況を見ると、若い世代では女性の正社員が増えています。女性の正社員が増えることはポジティブですが、育児休暇がなければ、少子化に繋がってしまうという問題があります。

小売業では正社員・非正規社員の男女比が偏っていることが問題

小売業の店舗は少数の男性正社員、多数の女性アルバイト・パートで運営されています。アルバイト・パートには大学生、主婦、高齢者などがいますが、性別で見ると女性が圧倒的に多いです。日本チェーンストア協会が発表しているデータの中に、正社員、パートの男女別のデータがあります。会員企業58社の2019年1月末時点での正社員数は110,306人で、男性は84,236人、女性は26,070人、男女比は76:24です。パート数は367,259人で、男性は58,962人、女性は308,297人、男女比は 16:84です。男女平等の観点からすると、待遇の良い正社員は男性、待遇の悪いパートは女性の割合が高いです。

なぜ小売業では正社員は男性、アルバイト・パートは女性というように、性別によって雇用形態に大きな違いがあるのか、これまで深く考えることはなかったと思います。日本では子育て中、子育て後の女性がアルバイト・パートで働くことが当たり前だと考えられて来たため、アルバイト・パートに女性が多いことがまったく問題にされて来ませんでした。小売業では5年、10年と長く働いているアルバイト・パートの女性が多く、店舗への貢献は小さくはありません。しかし、何年働いても、どれだけ売上に貢献しても待遇が改善されることはなく、それが当たり前のこととして今日まで続いて来ています。

小売業の正社員は男性の割合が高いのですが、年収が高いかと言えば、他の業種と比較すると低いです。東京商工リサーチが2018年5月21日発表した「上場2,681社の平均年間給与調査(2017年決算)」によると、小売業の平均年間給与は475万円でした。全体の平均年間給与は599万円で、小売業は全業種の中で7年連続で最下位になっています。小売業は仕入れた商品を加工せずに販売しており、商品を流通させることが小売業の付加価値であるため、収益性は低いです。一部の製造小売業は収益性が高く、社員の平均給与も高いものの、小売業全体の平均年間給与が低くなってしまうのは仕方がないところです。

小売業の正社員の給料は多くのアルバイト・パートに支えられていますが、業種別では最下位というのはショッキングなデータです。小売業のアルバイト・パートは付加価値の小さい単純労働を担っていて、主な業務はレジ業務・商品補充業務です。小売業の単純労働を低賃金でやってくれるアルバイト・パートがいなければ、正社員の給料は低くなりますし、店舗自体が運営できません。小売業ではアルバイト・パートの女性の割合が高く、男女平等の点からも問題です。ただ、男女平等を実現するためには、付加価値のない単純労働を多く抱える、小売業の店舗運営そのものを変えなければなりません。

小売業では少数の男性正社員が多数の女性アルバイト・パートに指示を出すことが多いですが、若い男性正社員は業務経験が少なく、中高年の女性アルバイト・パートは業務経験が豊富といった場面がよくあります。若い男性正社員は業務経験が少ないにもかかわらず、性別、雇用形態で重用されていて、業務経験が豊富な中高年の女性アルバイト・パートは不満を抱えています。小売業ではこうした場面が多々発生していて、今日までそのままで来ています。若い男性正社員の方が中高年の女性アルバイト・パートよりも価値があるという固定観念は強く、男女平等を実現するための大きな壁です。

昔と比較すると女性が正社員として採用されやすくなっていて、小売業でも女性の新卒採用人数が増加しています。女性の新卒採用が増えること自体はポジティブですが、中高年の女性アルバイト・パートとの関係をどうするかという新しい問題が生まれます。これまでは店舗で働く女性はほとんどがアルバイト・パートでしたが、ここに同性の若い正社員が入って来ます。同性の若い正社員が重用されることに対して、中高年の女性アルバイト・パートは不満を抱えるようになります。小売業が男女平等を実現するためには、男女の差だけではなく、女性従業員の雇用形態による差の解消も必要です。

男女平等の実現のためには単純労働の削減・転勤の負担軽減が必要

小売業では正社員は男性が多く、アルバイト・パートは女性が多く、男女間で差がある状態です。男女平等という点では、正社員、アルバイト・パートの男女比を同程度にすることが好ましいですが、それだけは不十分ではないかと思います。現在、雇用形態に男女で偏りがあることは問題ですが、正社員と非正規社員で待遇に差があることも問題です。正社員、アルバイト・パートの男女比が同程度になったとしても、正社員と非正規社員の待遇の差は解消されません。小売業で働くすべての人の幸せを考えると、男女の差だけではなく、正社員と非正規社員の差も解消しなければなりません。

小売業の非正規社員が担当している業務は単純労働がほとんどで、商品の補充とレジの二つが主要業務です。これまではアルバイト・パートを低賃金で雇用できることが当たり前であったため、小売業は単純労働が多く、生産性が悪いことについて、それほど問題視されて来ませんでした。しかし、男女平等を実現して、正社員と非正規社員の待遇の差を解消しようとすると、単純労働、生産性の低さを解決しなければなりません。また、小売業は正社員の転勤が多く、結婚・出産がある女性は働きにくいです。小売業が男女平等を実現するためには、単純労働、転勤を減らす取り組みが必要ではないかと思います。

レジ業務は店舗において非常に重要な業務ではあるものの、単純労働であり、小売業はレジに多くの人員を割り当てています。小売業ではレジ業務の改善の動きが出ていて、セルフレジ、セミセルフレジ、無人レジなどにより、レジ業務の効率化が進んでいます。レジ業務は直接売上の増加に貢献しているわけではないので、レジに掛かるコストを減らせば、利益が増えます。レジ業務が効率化すると、レジ担当者の仕事が奪われるという心配もあります。しかし、現在は人手不足であり、店舗の生産性が高まり、収益性が改善することを考えると、デメリットよりもメリットの方が大きいです。

商品の補充はレジと同様に、小売業が多くの人員を割り当てている業務で、ここも改善したいところです。まだこれといったソリューションは登場していませんが、自動運転ロボット(自動運転台車)が、商品が入ったダンボール、オリコンを商品棚の前まで運ぶような構想があります。人間が商品を補充する場合、バックヤードからダンボール、オリコンを台車で売り場まで持って来て、商品を取り出しながら補充します。自動運転ロボットがうまく機能すれば、人間が商品を補充している間に、自動運転ロボットが次々にバックヤードからダンボール、オリコンを運んで来ることが可能になるかもしれません。

小売業では転勤が多いため、結婚・出産のある女性は正社員を続けにくいです。男性が転勤することは当たり前のように考えられていますが、男性にとっても転勤の負担は大きいです。小売業は一般的に不人気な職種ですが、他の業種よりも平均年収が低いこと、転勤が多いことが大きな理由です。小売業が転勤を減らすことは、男女平等の点からだけではなく、優秀な人材を採用するという点でも重要です。女性だけ転勤をしないというのは男女平等ではないので、男性も女性も転勤を減らしたいです。ただ、新規出店、閉店は頻繁に起こるため、転勤を減らすことは簡単ではありません。

小売業が転勤を減らすための施策として効果的なのは、ドミナント出店を一層強化することです。業種の垣根を超えた競争、少子化、高齢化社会、人口減少、所得の二極化、ネット通販の拡大などを考えると、小売業が大型店を出店したり、日本全国に店舗網を拡大することのリスクは大きくなっています。小型店を狭い地域にドミナント出店することは、相対的にリスクが小さく、これから多くの小売業が採用する出店戦略になるのではないかと予想しています。自動車、交通機関で通勤できる範囲内に複数の店舗があれば、正社員が転勤する範囲も狭くなるため、男性も女性も働きやすい環境になります。

国・企業を維持するためには女性を採用しなければならない状況

グローバリゼーションという言葉は数十年前から見聞きしていますが、いよいよ身近なものになっています。日本に住んでいていもグローバリゼーションを感じるようになったのは、インターネットで海外の情報を取得するようになったこと、日本に観光、留学、仕事でやって来る外国人が増えたためです。小売業でも外国語のPOPを作成したり、中国人の利用者が多いスマホ決済を導入するなど、国際化が進んでいます。男女平等も様々あるグローバルな問題の一つで、日本の国際化が進むに連れて問題視されるようになり、解決しなければならないというプレッシャーも年々強くなっています。

男女平等がグローバルな問題になる一つの理由に、男女平等ではないことが、国の経済を停滞させ、少子化に繋がるとの考えがあります。日本でも少子化が進んでいますが、その理由には経済力がない、育児休暇がない、転勤が多いなど、男女平等に関係するものがいくつかあります。もし、女性が正社員で働くことによって、国の経済力が高まれば、子供を産んで育てやすくなります。また、女性が専業主婦でいると、何らかの問題で男性が働けなくなった場合、家庭が破綻してしまいます。国という大きな視点ではなく、家庭という小さな視点で見ても、女性が正社員で長く働ける環境が好ましいです。

小売業は業種の垣根を超えた競争、少子化、高齢化社会、人口減少、所得の二極化、ネット通販の拡大など、厳しい競争環境にあり、店舗の省人化を進めています。小売業が店舗の省人化を進める理由は、人手不足でアルバイト・パートの採用が困難になったためです。小売業の店舗は多くの女性アルバイト・パートにより運営されていますが、人手不足に陥ったため、従来の方法で店舗を維持することが難しくなっています。小売業のレジ業務・商品補充業務には省人化の余地があり、店舗の省人化がうまく進めば、店舗運営に必要な人数は減り、店舗の収益性が高まることが期待できます。

小売業が省人化を進める理由は、人手不足によるものですが、省人化は男女平等を進めるためにも重要なものです。小売業の店舗は少数の正社員と多数の非正規社員で運営されていて、給料の低い非正規社員を使うことで、店舗の生産性の低さをカバーして来ました。この店舗運営の方法が正社員と非正規社員の差、男女の差を生み出しています。小売業が男女平等を実現するためには、多数の非正規社員に依存した店舗運営方法を変えなければなりません。省人化によって店舗の収益性を改善できれば、女性の雇用形態をアルバイト・パートから正社員へと、少しづつシフトして行くことが可能になります。

企業は定年退職による従業員の減少を新入社員で補いますが、少子高齢化が進んでいるため、退職者の世代よりも新入社員の世代の方が人口が少ないです。2015年時点での男性の人口を見ると、60~64歳が4,151,119人であるのに対して、20~24歳は3,046,392人と73.4%しかいません。企業が従業員数を増やす、あるいは維持するためには、女性の採用を増やさなければなりません。小売業はもともと不人気の職種なので、女性の採用でも苦戦することが予想されます。小売業が他の業種と待遇で競うことは難しいですが、省人化、店舗の収益改善がうまく行けば、他の業種との差を詰めることができます。

若い女性は結婚・出産を考えて就職活動をしているとされていて、小売業も女性が結婚・出産をしやすい労働環境を提供したいです。女性が結婚・出産をしやすい労働環境とはどのようなものかと考えると、給料が高い、残業が少ない、休日が多い、転勤が少ない、育児休暇が取れるといったものでしょうか。小売業はITのように常に勉強が必要というわけではなく、育児休暇のブランクの影響は他の業界よりも小さいのではないかと思います。小売業は転勤が減れば、同じ店舗で安定的に長く働けることができるため、地元で仕事をしたい、子育てをしたいと考える女性にアピールできます。