完全キャッシュレスの飲食店は生産性が高まるが店舗数を急速に増やすことは難しい

完全キャッシュレスの飲食店は生産性が高まるが店舗数を急速に増やすことは難しい

飲食チェーン店を展開するロイヤルホールディングスは、2017年11月6日、次世代の働き方を研究する店舗「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」をオープンしました。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスであることが特徴の一つで、オープンから一年が経ち、完全キャッシュレスの店舗運営がどのようなものなのかを紹介する記事があります。完全キャッシュレスのメリットは、現金関連の業務を大きく減らせることです。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」では、従来は40分程度掛かっていた売上管理・報告業務を、ほぼゼロに削減することができています。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」の運営により、完全キャッシュレスで店舗の生産性が向上することが確認されましたが、急速に多店舗展開することは難しそうです。既存の店舗を完全キャッシュレスにすることは難しく、ロイヤルホールディングスでは既存の店舗を完全キャッシュレスにする計画は今のところありません。今後、飲食チェーン店が完全キャッシュレスの店舗を増やす場合は、新しい業態の店舗を開発することになりそうです。完全キャッシュレスの新業態の店舗を増やして行くことで、飲食チェーン店全体に占める、完全キャッシュレスの店舗の割合が徐々に高まります。

ロイヤルHDは完全キャッシュレスの実証実験店舗で効率化を研究

ロイヤルホスト、てんや、カウボーイ家族など、飲食チェーン店を展開するロイヤルホールディングスは、2017年11月6日、「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」をオープンしています。ロイヤルホールディングスが「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」をオープンした目的は、ロイヤルグループの生産性向上、働き方改革を目指し、次世代の店舗運営を研究開発して行くためです。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は店舗の生産性を高める仕組みが多数導入されていますが、現金が使えない完全キャッシュレス店舗であったため、オープン時には大きな話題になりました。

人手不足でアルバイト・パートの採用が難しくなっており、飲食チェーン店では人手不足、採用コスト・時給の上昇が問題になっています。人手不足によって飲食チェーン店の労働環境は悪化しており、労働環境の改善が不可欠です。ロイヤルホールディングスは飲食チェーン店の中でも労働環境の改善に積極的で、2017年までにすべての店舗で24時間営業を廃止しています。労働環境の改善に関心がある飲食チェーン店、キャッシュレスに関心のある企業は、ロイヤルホールディングスの実証実験店舗「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」がどのような成果を上げるのか注目しています。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」で食事をするお客さんは、入店後に現金が使えないことを店員に説明されます。現金以外の支払い方法を持っていないお客さんはここでストップが掛かり、食事をすることができません。テーブルに座るとタブレットを渡され、お客さんはタブレットを操作して料理を注文すると、注文内容がキッチンに届き、料理が運ばれてきます。お客さんは食事が終わると再びタブレットを操作して、支払いをするために店員を呼び出します。店員は決済用の端末を持っており、お客さんはクレジットカード、電子マネー、スマートフォン決済のいずれかの方法で決済を行います。

飲食チェーン店では昔から現金以外の支払い方法が導入されていて、クレジットカードに加え、電子マネー、スマートフォン決済が利用できる店舗が増えています。飲食チェーン店が複数の支払い方法を導入する理由は、支払い方法が多いほど、売上が増えるからです。これはネット通販サイトにも当てはまるロジックで、ネット通販サイトも支払い方法が多いほど、売上が増えるというデータがあります。飲食チェーン店は現金とキャッシュレスが混在する状況ですが、「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスにすることで、どのような店舗運営になるのか検証しています。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は2017年11月にオープンしましたが、オープン時はインターネットでも話題になりました。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」のオープンから1年ほど経ち、「キャッシュレス」という言葉を目にする機会が増えて来ています。経済産業省は2018年4月11日に「キャッシュレス・ビジョン」を策定し、現在20%程度のキャッシュレス決済比率を、2025年までに40%程度に引き上げることを目標にしています。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は先進的な店舗ですが、今後は多くの飲食チェーン店がキャッシュレスに注力するはずです。

2018年はスマートフォン決済サービスの話題が多く、後から振り返ると、キャッシュレス元年と呼べるかもしれません。2018年10月には、ソフトバンクとヤフーの合弁会社であるPayPay株式会社が、スマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の提供を開始しました。「PayPay(ペイペイ)」はサービス開始以降、利用できる店舗数を急速に増やしています。また、2018年12月4日より、「PayPay(ペイペイ)」の利用でキャッシュバックが受けられる「100億円あげちゃうキャンペーン」を行いました。この大規模キャンペーンがメディアで話題になり、キャッシュレスの認知度が高まりました。

完全キャッシュレスは労働時間短縮・生産性アップの効果がある

ロイヤルホールディングスは人手不足、人手不足から引き起こされる労働現場の疲弊を重要な問題だと考え、労働環境の改善に意欲的です。2017年11月6日にオープンした「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は、次世代の働きやすい店舗の研究開発を行うためのものです。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスに加え、最新の調理器具、システムを導入しています。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスにすることにより、現金を扱うことがなくなり、現金を扱う業務の大幅な削減、あるいは、ゼロにすることが期待されています。

商品の購入、サービス提供の対価として現金を受け取り、お釣りを返すことは店舗の運営に不可欠な業務です。店舗では定期的にレジの現金の確認が行われていて、閉店後は一日の売上とレジの現金を集計して本部へ報告しています。現金を扱うことは店舗運営の一部に組み込まれていて、現金を店舗から無くそうというような発想はこれまでありませんでした。テクノロジーが進歩したことによって、現金を扱わない店舗運営が可能になっています。現金を扱うことは店舗の運営に不可欠であったため、コストとして考えられることもありませんでしたが、現金を扱わない店舗には生産性アップのチャンスがあります。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスにすることで、従来は40分程度掛かっていた、売上管理・報告業務の時間がほぼゼロになっています。売上管理・報告業務は閉店後に行うため、完全キャッシュレスの店舗では、店長は早い時間に帰宅することができるようになります。釣り銭の用意、レジの現金チェックもなくなり、完全キャッシュレスによる生産性向上の効果は大きいです。現金を扱う従業員には、お金を無くしたらどうしようというプレッシャーが常にあります。現金がない店舗では現金を無くす心配がなくなるので、現金を使う従来の店舗よりも働きやすいと言えます。

飲食チェーン店の店長が1日10~12時間近く働いていることを考えると、売上管理・報告業務の40分の労働時間削減効果は大きいです。売上管理・報告業務は売上とは関係のない間接業務であるため、労働時間が削減された分だけ、従業員の生産性が高まることになります。現金を取り扱う業務が減る、無くなることで、従業員は時間と精神的なゆとりを持て、コア業務である接客に集中することができます。現在、モンスタークレーマーが増えているとされていて、店舗の仕事も難しくなっています。従業員に時間と精神的なゆとりを持ってもらうことで、接客のトラブルも減らせるのではないかと思います。

飲食業は小売業、サービス業とともに非正規のアルバイト・パートを多数雇用していて、店舗運営をアルバイト・パートに依存しています。これまでは非正規のアルバイト・パートを簡単に採用することができましたが、人手不足により採用が難しくなっています。飲食チェーン店は労働時間が長い、給料が安いといったイメージを持たれていて、正社員の採用も簡単ではありません。従業員が仕事をしやすい店舗を作ることは、新規従業員の採用、既存従業員の定着の両方に効果があります。完全キャッシュレスの店舗に生産性向上の効果が認められた点は、飲食チェーン店にとってポジティブなものです。

アルバイト・パートの採用が難しくなっており、今後は女性、高齢者、外国人の従業員を増やして行くことになります。女性は柔軟なシフトで働きたい、高齢者は体力的・心理的に負担のない環境で働きたい、外国人は日本が話せなくても問題にならない環境で働きたいなど、希望する条件を持っています。完全キャッシュレスですべてを解決できるわけではありませんが、現金を無くす心配がない点、お釣りを間違える心配がない点は、労働環境を改善していると言えます。昔と比べ、現金を扱うことを嫌う人が増えており、アルバイト・パートを採用するためにも、完全キャッシュレスにはプラスの効果があります。

冷凍食品を火と油を一切使わずに調理して食品ロス・人手不足へ対応

ロイヤルホールディングスが2017年11月6日にオープンした「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は、完全キャッシュレスの店舗として注目されています。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスだけではなく、店舗の生産性を高めるための取り組みが行われていて、調理方法にも従来の店舗と違いがあります。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」では冷凍食品を使っていて、火と油を一切使わずに簡単な調理を行い、料理を提供しています。ロイヤルホストは店長が店舗で丁寧に調理をすることを強みにしており、従来の調理方法とは大きな違いがあります。

ロイヤルホールディングスが運営するロイヤルホストは、ファミリーレストランの中でも高価格のメニューを提供しており、客単価も競合の飲食チェーン店よりも高くなります。消費者の節約志向が強まっていること、人材の採用・教育コストが高まっていることを考えると、今後も高価格のメニューを提供し続けることは難しいように思います。メニューの価格が高くなりすぎると、お客さんは飲食チェーン店ではなく、各料理の専門店の方を選択します。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」の取り組みを見ると、ロイヤルホールディングスが低価格の飲食チェーン店を展開する可能性はありそうです。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレス、冷凍食品を使った効率の良い調理を導入しており、従来の店舗よりも生産性が高いです。調査会社が発表している予想データ、小売業の販売データを見ると、冷凍食品市場は拡大しています。冷凍食品市場が拡大する背景には、冷凍食品の品質改善、女性の社会進出、単身世帯の増加などがあります。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」で提供されるメニューも、冷凍食品とは思えない品質であるとのことです。冷凍食品の品質が劇的に改善されていることは、飲食チェーン店が店舗の生産性を高めるチャンスになっています。

現在、食品ロスを重要な問題だと考える動きが世界的に起こっていて、日本でも食品ロスを減らさなければならないとする意見が広がっています。商品ロスを減らすという立場では、飲食チェーン店が消費期限の長い冷凍食品を使うことは良いアイデアです。冷凍食品を使えば、需要予測が外れたり、予約が急にキャンセルになっても、食品を廃棄する必要はなくなります。店舗の生産性を高める意味では、飲食チェーン店は冷凍食品を積極的に使うべきであるとも言えます。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」のインターネットのレビューを見ても、冷凍食品を使うことのデメリットはないようです。

日本では労働生産性が諸外国と比べて低いことが指摘されていて、多くの企業が労働生産性を高める取り組みを始めています。例えば、料理でも長い時間を掛けて作った方が美味しいと考えてしまいがちですが、味と価格が同じであれば、調理時間が短い料理の方が生産性が高く、価値があります。飲食チェーン店が提供する料理にも、生産性の概念が必要ではないかと思います。お客さんは味と価格が優れていれば、調理方法、調理時間を気にしないのではないでしょうか。多くのお客さんがお金と時間の節約を望んでおり、飲食チェーン店は冷凍食品を使うことで、お客さんのニーズに応えられます。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」では、セントラルキッチンで調理済みの冷凍食品を店舗で調理して、お客さんに提供しています。具体的にどのように調理をするのか詳しい説明はありませんが、ボタン一つで調理でき、火と油を一切使わないとのことです。調理方法は個人の知識や経験に依存していないので、誰がやっても同じ品質の料理ができあがることになります。人手不足で人材の採用・教育が難しい状況であるため、人に依存しない店舗運営が必要です。人手不足の状況は社会に広く知られており、冷凍食品を簡単に調理したメニューであっても、お客さんは受け入れてくれるはずです。

完全キャッシュレスの店舗を短期間で増やすことは難しい

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスにすることで、現金管理業務が減る、あるいはゼロになり、労働環境・生産性が改善されることが分かりました。一方、完全キャッシュレスにすることには、現金のお客さんが利用できないデメリットがあります。キャッシュレスに関するアンケート調査を見ると、クレジットカード、電子マネー、スマートフォン決済など、現金以外の支払い方法を利用している人は多いとは言えません。飲食チェーン店のように、お客さん一人あたりの売上高が小さいビジネスでは客数が重要で、完全キャッシュレスにより、客数が減ることの損失は大きいです。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」の運営により、完全キャッシュレスによる生産性アップは認められましたが、ロイヤルホストを完全キャッシュレスにする計画はないとのことです。ロイヤルホストでは支払いの8割が現金で行われているため、完全キャッシュレスにすると売上が下がるためです。これまで現金での決済が当たり前だった店舗を、企業側の都合で完全キャッシュレスにすることは難しいです。完全キャッシュレスにより、店舗の生産性向上が実現できることが分かっても、既存の店舗を完全キャッシュレスにすることが難しいため、既存の店舗の生産性を高めることができません。

店舗の生産性を高める新しいソリューションが次々に登場していますが、従来のお客さんの買い物行動を大きく変えるものについては、既存店になじませることが難しいです。小売業では昔からセルフレジを導入していましたが、最近は人手不足がさらに厳しくなったため、お客さんにセルフレジの利用を促すようになりました。高齢者のお客さんはセルフレジを使うことに不安があり、買い物ができないといった意見を目にすることもあります。キャッシュレスもセルフレジもそうですが、完全キャッシュレス、完全セルフレジの状態を作らなければ、企業が期待している生産性向上のメリットを得られません。

今後、企業がデジタル化した店舗を増やして行くためには、「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」のように、新しい業態の店舗を作って行くことになると思います。デジタル化した店舗に対応できないお客さんを拒否することになりますが、店舗の生産性を高めるためには、客数の減少を受け入れなければなりません。従来の店舗とデジタル化した店舗では、品揃え・価格・サービスにも違いが出ます。現在、スマートフォン決済を導入する店舗が増えていて、スマートフォン決済で買い物をするとキャッシュバックが受けられるキャンペーンもあり、現金で買い物をするお客さんよりも優遇されています。

ロイヤルホールディングスがどのように完全キャッシュレス店舗を増やして行くかは、飲食チェーン店のキャッシュレス化を考えるうえで重要です。ロイヤルホールディングスは既存の店舗を完全キャッシュレスにする計画はなく、「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」を早急に多店舗展開する計画もありません。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」の2店舗目の計画はあり、冷凍食品のさらなる活用、テイクアウトなどの構想があります。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は完全キャッシュレスが注目されていますが、冷凍食品の活用も重要なテーマになっているようです。

小売チェーン店、飲食チェーン店は完全キャッシュレスの店舗を実現したいと考えているはずですが、実現のハードルは高いです。高齢者の人口が若者の人口よりも多く、店舗の売上への貢献が大きいのは高齢者のお客さんです。高齢者のお客さんに変化をお願いすることは難しく、既存の店舗を完全キャッシュレスにできない最大の理由です。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」のように新しい業態を出せば、完全キャッシュレスの店舗を実現できます。ただ、高齢者のお客さんの利用が少ないため、従来の店舗よりも客数が少なく、商圏の設定・売上予測も難しいといった問題もあります。