小売業は少子高齢化・人口減少による社会の変化にどのように対応すればよいか

小売業は少子化・人口減少による社会の変化にどのように対応すればよいか

厚生労働省が2018年12月21日に発表した「平成30年の人口動態統計の年間推計」によると、出生数は過去最少、死亡者数は過去最多、人口の自然減も過去最多となっています。2005年に初めて人口の自然減が起こり、2007年以降は12年連続で人口の自然減が続いていて、今後も継続する見込みです。少子化・人口減少は日々の生活でも実感できるようになり、小売業でも既存店の客数減少、アルバイト・パートの採用難といった形で現れています。小売業の店舗では多くの店員が働き、多くのお客さんが買い物をして来ましたが、今後は人口の減少に合わせて、小売業のビジネスも縮小して行くことになります。

少子化高齢化・人口減少が始まったことで、昔と比べてお客さん一人一人の価値が高まっています。小売業は客数を増やして売上を伸ばすことが難しくなったため、お客さん一人あたりの来店回数、購入点数を増やさなければ成長できません。小売業の店舗で買い物をするお客さんは店舗周辺に住んでいるリピーターであり、地域のニーズに合った店舗作りが必要になります。小売業のお客さんは中高年者が多いですが、若い世代のお客さんの取り込みも重要です。若い世代のお客さんはスマートフォンを使った、デジタルの買い物体験を好んでおり、今後は小売業の店舗にはデジタル化が不可欠になります。

死亡者数から出生数を引いた人口の自然減の増加が続いている

厚生労働省が2018年12月21日に発表した「平成30年の人口動態統計の年間推計」によると、出生数は92万1,000人となっています。これは過去最少であった前年の94万6,065人(確定数)を下回っていて、少子化の流れが反転することは期待しにくいです。初めて出生数が100万人を割ったのは2016年で、2016年の出生数は97万6,979人でした。近年は毎年3万人近く出生数が減少しており、3万人の減少が10年続くと30万人も減少することになります。少子化は毎年ゆっくりと進行しているため、普段の生活で何かが劇的に変わるような実感はありませんが、毎年の減少数を合計すると大きな数字になります。

少子化が進行する要因には様々なものがありますが、最も大きな理由は、子供を出産できる適齢期の女性の人口が減少していることです。平成27年の国勢調査によると、20~39歳の女性の人口は1,379万3,716人です。20~39歳の一回り上の世代(30歳上)である50~69歳の女性の人口は1,703万5,804となっており、現在の20~39歳の女性の人口は30年前の80%ほどです。子供を出産できる適齢期の女性の人口が減少しているため、生まれてくる子供の数も減少します。現在の少子化の原因は過去の少子化にあり、今後、出生数を増やして行くためには、長期的な施策が必要だとされています。

2018年の死亡者数の推計は136万9,000人となっていて、前年の134万397人を上回り、戦後最多の人数を記録しています。出生数と同様に死亡者数も過去の出生数と関連しており、死亡者数が多いことは、過去の出生数が多いことを意味しています。終戦直後の1947~1949年は第一次ベビーブームと呼ばれ、各年の出生数は250万人を超えていて、1949年の出生数269万6,638人は戦後の統計において過去最多です。過去に出生数が多い期間があれば、将来に死亡者数が多い期間ができるのは順当です。過去の出生数の数値を見れば、将来の死亡者数をほぼ確実に予測することができます。

ニュースを見ていると、高齢者の自動車事故、高齢者の消費者トラブルなど、高齢者に関する事案が増えているような印象があります。これは高齢者は運転に不安がある、高齢者は騙されやすいといった見方とは別に、高齢者の人口が多いからだと考えることができます。日本の全人口に占める高齢者の割合が多いため、ニュースでも、高齢者の事案の割合が多いというのは順当です。少子高齢化がゆっくりと進んでいますが、日常生活でも少子高齢化を少しずつ実感するようになっています。日本は諸外国と比べてネット通販の拡大スピードが遅いですが、実店舗で買い物をする高齢者が多いことも関係しています。

死亡者数から出生数を引いた人口の自然減は44万8,000人となり、前年の39万4,332人を超える戦後最多の人数を記録しています。出生数は最少、死亡数は最多ですから、人口の自然減も最多になります。人口が初めて自然減になったのは2005年で、2006年には自然増に盛り返したものの、2007年以降は12年連続で自然減が続いています。人口の自然減は大きな社会問題ですが、2005年にはそれほど話題にならなかったように思います。日本の少子高齢化の進行、人口の自然減はかなり以前から始まっていたのですが、少子高齢化が世界共通の社会問題になったことで、日本でも広く認識されるようになりました。

2018年の人口の自然減は44万8,000人と推計されていて、これは死亡の数を出生の数で補うことができていないということを意味しています。人口が減少すればすべての活動が縮小してしまうため、最終的には日本そのものが縮小してしまう危機的な状況です。現在、人手不足の問題が大きくなっていますが、定年で退職する人よりも、新規に就職する人の方が少なく、人口の自然減と同じ状況です。退職した人員を新人で補充できない企業は、事業を縮小せざるを得なくなります。人口の自然減の人数は年々増加しているため、人手不足についても、影響を大きく感じるようになるはずです。

人口が減少すれば店舗で買い物をする人・仕事をする人も減少する

2007年以降人口の自然減が続いているため、日本のあらゆる場面で縮小が起こっていることになります。小売業でも人口の減少による縮小が見られるようになっていて、アルバイト・パートの人手不足、既存店の客数の減少の大きく二つの形です。小売業には新規アルバイト・パートの採用コストの増加、既存アルバイト・パートの時給による人件費の増加が起きています。また、小売業では既存店の客数が前年割れする企業が増えていて、競争激化と人口減少によるものだと考えられています。若い世代の人口は昔よりも少なくなっているため、少子化の進行に合わせて、既存店の客数も減少することになります。

人口の減少が続く状況においては、新規出店で売上・客数を増やす、小売業の従来の成長戦略を続けることが難しくなります。小売業の決算書を見ると、新規出店数が多いのはドラッグストアと一部の人気チェーン店だけで、全体的に新規出店数が減り、退店数が増えているような印象です。新規出店による成長が難しくなった小売業は、好調な既存店へ投資をすることで、既存店の売上を伸ばそうとしています。これまでは小売業の成長のバロメータとして、新規出店数が重視されてきましたが、これからは売上原価率、販売費及び一般管理費が改善され、営業利益率が改善されているかどうかが重要になります。

人口の減少により、買い物をするお客さん、仕事をするアルバイト・パートの両方が減ることになり、店舗で人間が行うアクティビティが縮小します。店舗で人間が行うアクティビティが縮小すると、店舗の収益性が悪化する問題が顕在化して来ます。百貨店、総合スーパーには、人口が多い時代に建てられた大型店が多く、人口の減少によって収益性が悪化しています。百貨店、総合スーパーは専門店、ネット通販にお客さんを奪われていると考えられていますが、人口減少の影響もあります。現在、百貨店、総合スーパーに起こっている収益性の悪化は、他の業種でも見られるようになると思います。

小売業には様々な規模の店舗がありますが、人口が減少する状況においては、小型店の方が運営しやすいのではないかと思います。小型店は商圏が狭く、売上規模が小さいことがデメリットですが、スクラップアンドビルドがしやすいです。また、高齢者、若者ともに自動車を運転しなくなっており、行動範囲が狭くなっている問題もあります。小型店は徒歩や自転車でもアクセスがよく、買い物をするお客さん、仕事をするアルバイト・パートの両方から好まれます。商圏・立地と言えば、主にお客さんの来店を考えて来ましたが、アルバイト・パートの採用が難しいため、従業員の通勤も考えなければなりません。

小売業は店舗数を増やすことでスケールメリットを生み出し、売上高・営業利益を増やして来ました。人口の減少により、従来の規模を拡大して売上高・営業利益を増やすことが難しくなり、小売業には停滞感があります。人口の減少、客数の減少、売上の減少が続くことは残念ですが、一方で、店舗の収益性を改善する新しいテクノロジーが登場しています。売上、客数、店舗数が右肩上がりに増やせなくても、店舗の収益性を改善して、営業利益を増やすことは可能です。小売業は規模の拡大に注力して来たため、店舗の収益性への関心は低く、改善できる余地は多いのではないかと思います。

アルバイト・パートの採用が難しいことは、店舗の収益性を高め、従業員の待遇を改善するチャンスでもあります。小売業は低賃金のアルバイト・パートを多数雇用しており、正社員の給料も他の業種と比較すると少ないです。小売業は新しいテクノロジーを導入して、店舗の収益性を高め、従業員の待遇を改善したいところです。アルバイト・パートは時給の高い職場へと移って行くため、待遇の改善は人員の確保に不可欠です。また、店舗の収益性が高まれば、さらに商品を安く販売することができるようになるので、お客さんに喜んでもらえ、来店回数、購入点数の増加にも繋がります。

少子化高齢化・人口減少でお客さん一人一人の価値が高まる

小売業では業種の垣根を超えた競争が激しくなっており、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピング、ZOZOTOWNなど、ネット通販の拡大もあります。既存の小売業同士の競争、ネット通販との競争が小売業の主な関心事でしたが、少子高齢化・人口減少が新たなテーマとして急浮上しています。小売業の既存店の客数が減少するのは、小売業同士の競争、ネット通販との競争が激しいからだと考えられて来ましたが、少子高齢化・人口減少の影響もあります。小売業は高齢者のお客さんの減少を若い世代のお客さんで補充しなければなりませんが、若い世代の人口は相対的に少なく、完全に補充することはできません。

業種の垣根を超えた競争、ネット通販との競争、少子化高齢化・人口減少といった競争環境の変化が組み合わさったことで、お客さん一人一人の価値が以前よりも高まっています。既存店の客数減少が当たり前になったことで、お客さんを増やすことの難しさを実感するようになっています。今後、小売業が売上を伸ばして行くためには、お客さん一人あたりの来店回数を増やす、購入点数を増やすなど、お客さん一人一人との関係性を強化することが重要になります。若い世代の人口は年々減少しており、店舗数を増やして規模を拡大して行く戦略は、少数の人気チェーン店以外は不可能になります。

小売業はPOSデータを使って商品を管理していて、商品のデータをベースにして店舗の運営を行なっています。販売数量が多い商品は良い商品、販売数量が少ない商品は悪い商品というような評価をします。小売業が商品のデータを活用する理由は、商品のデータは取得しやすく、活用しやすいためです。よく売れている商品の陳列数量を増やせば、さらに売れる確率が高く、経験のない店員でも効率よく売上を伸ばせます。小売業は商品の購入者のデータを取得することが難しかったのですが、スマートフォンにポイントカード・決済の機能を持たせ、購入者のデータを取得しようとする動きが出始めています。

少子化高齢化・人口減少の時代においては、小売業はこれまでにようにPOSデータだけを見ていては安心できません。多くの店舗で既存店の客数が減少するようになれば、商品の販売する量も減ります。POSデータを見ればどの商品の販売数量が減っているのかが分かりますが、それ以上の分析はできません。少子化高齢化・人口減少の時代において、小売業が欲しいデータは、いつものお客さんが変わらずに買い物をしてくれているかどうかを確認するためのデータです。お客さんが増えないことよりも、お客さんが減ることの損失が大きく、小売業にはお客さんとの関係を強化するソリューションが必要です。

小売業では地域密着の店舗作りを掲げる企業が増えていますが、地域密着型店舗とは、お客さんの過去の購買履歴をもとに、品揃えを行なっている店舗だと定義できるのではないかと思います。大型店を除けば店舗の商圏は狭く、店舗に買い物に来ているお客さんはほとんどがリピーターです。リピーターのお客さんが購入する商品もリピートが多く、お客さんは同じ商品を何度も買っています。お客さんにとって最高の店舗とは、リピート購入する商品の在庫が常にあり、定期的にセールがあるというものです。小売業はスマートフォンを使ってお客さんの購買データを取得できれば、地域密着の店作りが可能です。

少子化高齢化・人口減少の時代において、小売業が最も避けたい失敗は、リピーターのお客さんが購入する商品を在庫切れにしてしまうことです。昔から小売業には在庫切れによる機会損失が発生していましたが、現在は在庫切れによる機会損失の影響が大きくなっています。お客さんはネット通販でも買い物ができるので、実店舗に在庫がなければ、すぐにネット通販で買い物をされてしまいます。在庫切れを何度も繰り返してしまうと、お客さんは店舗にやって来なくなります。既存店の客数が減少する中で、お客さんを失ってしまうことの損失は大きく、在庫切れは小売業にとって優先順位の高い問題です。

若い世代のお客さんを取り込むためには優れた買い物体験が必要

経済産業省が発表している「電子商取引に関する市場調査」によると、2017年の日本国内のBtoC-ECの市場規模は16兆5,054億円(前年比9.1%増)、EC化率は5.79%(前年比0.36ポイント増)です。アメリカのEC化率は約10%、中国のEC化率は約15%とされていて、日本のEC化率は諸外国よりも低いです。日本のEC化率が諸外国よりも低い理由については、日本の小売業の買い物体験が優れているためです。また、日本では全人口に占める中高年者の割合が大きいことも、EC化率の低さと関係しています。中高年者は実店舗での買い物に不便を感じておらず、実店舗での買い物を続けています。

実店舗で商品を販売して来た小売業もネット通販に取り組んでいますが、一部の企業を除けばEC化率は低いです。ネット通販の売上高を伸ばしている企業には、ニトリホールディングス、良品計画、ファーストリテイリング、ビックカメラ、あさひなどがあります。これらの企業は若い世代のお客さんが多く、ネット通販の強化に積極的に取り組んでいます。一方、中高年のお客さんが多い企業は実店舗の売上が堅調なため、ネット通販の強化に消極的です。中高年のお客さんは実店舗で買い物をしてくれるありがたい存在ですが、若い世代のお客さんの取り込みが進んでいない企業は問題を抱えていると言えます。

実店舗での買い物を続けてくれる中高年のお客さんと比較すると、若い世代のお客さんへの対応は難しいです。昔と現在の若い世代を比較すると、ライフスタイル、考え方、買い物方法など、多くの点で違いがあります。現在の若い世代は10代の頃からネット通販で買い物をしており、昔の若い世代のように買い物場所が実店舗だけではありません。小売業は店舗で待っていればお客さんが買い物に来てくれると考えていますが、若い世代のお客さんは実店舗で買い物をするとは限りません。小売業は若い世代のお客さんが好む買い物体験を研究して、若い世代のお客さんが買い物しやすい店舗にしなければなりません。

中高年の人口は若い世代の人口よりも多いため、小売業の売上に対する貢献も大きいです。小売業は既存の中高年のお客さんの買い物体験を損なうことなく、若い世代のお客さんが買い物しやすい店舗へと変化する必要があります。例えば、若い世代のお客さんはセルフレジを好む人が多いですが、中高年のお客さんはセルフレジを嫌う人が多いです。また、若い世代のお客さんはスマートフォンを使った買い物を好む人が多いですが、中高年のお客さんはそれほどではありません。中高年、若い世代のお客さんが希望する買い物体験を対立させることなく、共存させることが小売業に求められています。

現在、日本では東京オリンピック、ラグビーワールドカップの開催に向けて、政府と企業が一緒になってキャッシュレスを推進しています。しかし、中高年のお客さんは現金での買い物を続けることを希望していて、高齢者のお客さんからキャッシュレスに対する不安の声が出ています。人間は年齢を重ねるほど保守的になり、変化を嫌うため、高齢者のお客さんがキャッシュレスで買い物をするのは大きな負担です。キャッシュレスは若い世代のお客さんが希望する買い物体験の一つであり、小売業はどのように中高年のお客さんにキャッシュレスを受け入れてもらうかというのは、今後の店舗作りにおいて重要です。

小売業のデジタル化への投資には積極性に差があり、小売業の買い物体験には大きな違いが出ると予想しています。中高年のお客さんはこれまで通り実店舗での買い物を続けてくれますが、若い世代のお客さんは優れた買い物体験を提供する実店舗に集中するのではないかと思います。例えば、在庫の検索ができる店舗があれば、在庫の検索ができない店舗に行く理由はありません。お客さんは店舗に行く前に商品を確保できるので、店舗に行ってから在庫がないというような無駄がなくなります。こうした機能は中高年のお客さんからのニーズはあまりなくても、若い世代のお客さんには不可欠なものです。