小売業はチャットシステムを導入することで買い物体験・収益性を改善できる

小売業はチャットシステムを導入することで買い物体験・収益性を改善できる

企業のビジネスに役立つITシステムが次々に登場していますが、チャットシステムは小売業にとって価値のあるITシステムです。ネット通販サイトを運営するアスクル、楽天はチャットシステムを導入していて、アスクルでは問い合わせ業務のコスト削減、楽天では受注率の増加、客単価の増加といった効果が得られています。特に期待されているのがAI(人工知能)を搭載したチャットボットで、お客さんからの問い合わせに対して自動で回答します。回答内容が決まっている定型的な質問は、チャットボットで対応することにより、人件費を削減して、人的リソースを重要な業務に割り当てることができます。

小売業の店員はお客さんからの店舗への問い合わせ電話に回答する作業、店内でお客さんを売り場まで案内する作業に多くの時間を費やしています。お客さんからの問い合わせは商品に関するものがほとんどで、商品の取り扱いの有無、価格、在庫の有無、店内の売り場を回答しています。お客さんの質問に答えることは店員の重要な業務であり、これらの業務のコストを削減するといった考えはこれまでありませんでした。小売業は店舗への問い合わせ電話、店内での質問をチャットボットで回答するようにすれば、お客さんは店員に質問をする必要がなくなり、小売業は人的リソースを節約することができます。

お客さんの問い合わせ業務にチャットを導入する企業が増える

チャットとはコンピューターネットワークにおいて、リアルタイムに複数の人がテキストを入力して、コミュニケーションを行うことです。インターネットの登場とともに人気になり、不特定多数の知らない人と会話を楽しむことができます。チャットはビジネスではあまり使われて来ませんでしたが、最近はチャットがビジネスツールとして注目されるようになっています。チャットは人間同士が行うものですが、AI(人工知能)を活用したチャットボットも登場しています。チャットボットは人間が入力した内容(お客さんから企業への問い合わせ)に対して、適切な回答を選んで、自動で相手に返信するシステムです。

AI(人工知能)を活用したチャットボットにはビジネス上のメリットが多数あり、業種を問わず、様々な企業が導入を始めています。チャットボットのメリットの一つは、お客さんからの問い合わせ業務において、人的リソースの節約、コストの削減ができることです。人間が対応する電話、メールでは、内容が重要か重要でないかにかかわらず、必ず人件費が発生します。一方、チャットボットは主に重要ではない内容の問い合わせに自動で回答をしており、人的リソースの節約、コストの削減の効果があります。ネット企業はお客さんからの問い合わせが多いため、チャットボットを積極的に導入しています。

アスクルが運営しているネット通販サイト「LOHACO」では、「マナミさん」という女性キャラクターのチャットボットが2014年9月から運用されています。LOHACOのお問い合わせページを開くと、チャット形式の問い合わせシステムが表示されます。チャットのテキストボックスに質問を入力すると、「マナミさん」が自動で回答してくれたり、参考となるWEBページへのリンクを紹介してくれます。アスクルがLOHACOにチャットボットを導入した目的は、問い合わせ業務の効率を改善するためです。アスクルのデータによると、チャットボットは月間で人間6.5人分の業務量をこなしているとのことです。

ネットモールの楽天は2018年9月、楽天市場に出店しているすべての店舗にチャットシステムを導入しています。楽天市場の出店者がお客さんからの問い合わせに回答する有人チャットシステムで、実店舗と同じような丁寧な接客を行うためのものです。チャットシステムを全店に導入する前に実施したテストでは、転換率(受注率)の増加、客単価の増加といったポジティブな結果も出ているとのことです。さらに、2018年11月には、楽天市場に出店するすべての店舗にチャットボットを導入しています。チャットボットはお客さんからの定型的な問い合わせに自動で返信することで、店舗の業務量を減らします。

お客さんから企業への問い合わせは電話で行われることが多く、高齢者のお客さんが電話以外の方法で問い合わせをすることはほとんどありません。メールはインターネットとともに普及したコミュニケーションツールで、ビジネス、プライベートの両方で使われています。メールが電話よりも優れている点は、相手の都合を考える必要がなく、好きなタイミングで情報のやり取りできることです。チャットは電話、メールに続く新しいコミュニケーションツールで、今後、利用する機会が増えると思います。問い合わせをするお客さんの立場では、電話、メール、チャットと、問い合わせ方法を選べることは便利です。

コミュニケーションツールとしてチャットが注目を集める背景には、スマートフォンの普及があります。Twitter、LINEのようなスマートフォンアプリを多くの人が利用していて、家族、友人、知らない人とテキストのやり取りでコミュニケーションをしています。テキストを使ったコミュニケーションに慣れた人が増えていることもあり、企業は問い合わせ方法の一つとしてチャットの導入を進めています。スマートフォンネイティブと呼ばれる若い世代のお客さんは、従来の問い合わせ方法である電話、メールよりも、素早く、簡単に情報がやり取りできるチャットを好むのではないでしょうか。

チャットボットはインターネットの顧客接点として価値がある

インターネットが普及したことにより、お客さんの消費行動はインターネットで検索することからスタートします。例えば、何か商品を買おうとする場合、インターネットを検索して、どんな商品があるのか、価格はどれくらいか、よく売れている商品はどれか、商品レビューはどうかといった情報を得ます。インターネットで商品情報の収集が終わると、ネット通販か実店舗の都合のよい店舗で買い物をします。インターネットがない時代は、お客さんはぶらりと実店舗へ買い物に行くことが普通でした。しかし、インターネットが普及したため、購入する商品の情報収集を行なってから、実店舗に行きます。

ネット通販では豊富な品揃え、適切な価格、有用な商品レビュー、適切な配送オプションを持つ店舗がお客さんの注文を多く集めています。インターネットでの商品検索と注文はほとんどシームレスになっているため、Amazonで商品を検索して、そのままAmazonで注文をするといった買い物行動が起こりやすいです。お客さんは便利に満足度の高い買い物ができ、ネット通販は売上高が増えるので、両者ともに好ましい関係にあります。実店舗で商品を販売して来た従来の小売業の立場では、ネット通販にお客さんを奪われる形になるので、お客さんを失わないための対策が必要になっています。

実店舗で商品を販売して来た従来の小売業が、ネット通販へのお客さんの流出を防ぐためには、インターネットにお客さんとの接点を増やさなければなりません。ネットショップ、ショッピングアプリを持つ小売業が増えていますが、ネットショップ、ショッピングアプリはインターネットの重要な顧客接点です。従来の小売業がインターネットの買い物体験でネット企業と競うことは難しいですが、どんな形であっても、顧客接点が増えることには価値があります。小売業はインターネットに顧客接点を持たなければ、お客さんはネット通販で買い物を続け、実店舗で買い物をする機会は減少して行きます。

チャットボットはネットショップ、ショッピングアプリと同じように、インターネットの顧客接点として機能します。ネットショップ、ショッピングアプリと比較すると、チャットボットは実店舗への顧客誘導の点で優れています。実店舗へのお客さんからの電話問い合わせで多いのは、商品の品揃え、価格、在庫に関するものです。こうした問い合わせをチャットボットで受けるようにすれば、実店舗への集客になり、店員の電話業務を削減する効果もあります。チャットボットで実店舗の商品情報を提供できれば、ネット通販ですぐに買い物をせず、後日実店舗で買おうと考えるお客さんも出て来るはずです。

現在、少子高齢化によって様々な問題が出始めていて、小売業では高齢者と若者の買い物行動の違いへの対応が課題になっています。高齢者のお客さんは人口構成比が大きいため、小売業の売上高への貢献は大きく、相対的に人口の少ない若い世代のお客さんは売上高への貢献が小さいです。高齢者のお客さんは新しいテクノロジーを好まず、実店舗で買い物を続けてくれますが、若い世代のお客さんは新しいテクノロジーを好み、小売業の店舗がデジタル化することを期待しています。小売業の将来を考えると、店舗のデジタル化を求める若い世代のお客さんのニーズに対応しなければ、客離れが起こってしまいます。

チャットボットは新しいテクノロジーの一つですが、小売業が投資、運営しやすいものではないかと思います。チャットボットは使いたいお客さんだけが使えばよいので、使いたくないお客さんに強制することはありません。若い世代のお客さんがチャットボットを利用して、自分で問題を解決してくれれば、小売業は人的リソースを節約することができます。小売業にとっては高齢者のお客さんの売上高は大事ですから、人的リソースは高齢者のお客さんに割り当てたいところです。若い世代のお客さんにチャットボットを使ってもらえれば、高齢者のお客さん、若い世代のお客さん、小売業、すべてに好都合です。

チャットボットには人件費削減と集客力アップの効果がある

小売業の店舗には毎日お客さんからの問い合わせ電話が掛かっていて、電話対応は小売業の店員の重要な業務の一つです。お客さんからの問い合わせのほとんどは商品に関するもので、自分が探している商品を取り扱っているのか、価格はどれくらいなのか、在庫はあるのかといった内容です。店員はお客さんからの問い合わせ電話を受けると、陳列棚の在庫を確認して、在庫の有無を回答します。お客さんからの電話は売上に繋がるありがたいものですが、店員は電話のたびに作業を中断しています。チャットボットが登場したことで、店舗へのお客さんからの問い合わせを電話を減らせる可能性があります。

店舗に買い物に来たお客さんは、自分が探している商品が見つからない場合、店員にどこの売り場に商品があるのかを質問します。店員はお客さんから質問を受けると、それまでしていた作業を中断して、お客さんを売り場まで案内します。お客さんを売り場に案内することは、店員の重要な業務の一つではありますが、単調な繰り返し作業です。店内でお客さんを案内する業務も、お客さんからの電話対応業務と同様に、チャットボットを使うことで人的リソースを節約できます。電話対応と売り場案内の二つの業務で店員の負担を軽減できれば、店員の作業効率は高まり、作業に集中することができます。

電話対応と売り場案内の二つの作業の負担を軽減するにあたって、チャットボットは大きな効果があるのではないかと思います。お客さんからの商品に関する質問に対して、チャットボットが商品の価格、在庫の有無、店内の商品棚の位置を自動で返信します。このような仕組みがあれば、お客さんは店舗に電話をする必要がなくなり、店内でも店員に質問する必要がなくなります。店員は単調な繰り返し業務が減り、お客さんは店員と話すことなく快適に買い物ができます。お客さんは自分が探している商品を確実に見つけることができるため、小売業はこれまで逃していた売上を獲得することができます。

先進的な小売業のネットショップでは、商品ページに実店舗の在庫の有無を表示しているところがあります。ネットショップの商品情報を見ただけでは購入の決断ができないお客さんを実店舗に誘導して、実際に商品を体験してもらい、納得してから購入してもらおうという狙いです。先進的な小売業は実店舗とネットショップが融合したオムニチャネルの構築を進めていて、将来的には実店舗とネットショップのあらゆるデータが統合されて行きます。実店舗とネットショップのデータが統合されれば、チャットボットが商品の価格、在庫の有無、店内の商品棚の位置を自動で返信することも可能になります。

業種の垣根を超えた競争、ネット通販の拡大、少子高齢化による人口減少など、小売業の競争環境は厳しく、多くの企業の収益性は悪化しています。一方、セルフレジ、スマートフォン決済、無人レジなどの新しいテクノロジーが登場していて、店舗をデジタル化することで、収益性を改善するチャンスもあります。チャットボットは数あるテクノロジーの中の一つで、小売業の収益性を改善する効果を期待できます。チャットボットはお客さんからの問い合わせに自動で回答するため、人件費削減の効果があり、お客さんの問い合わせに的確に回答できれば、店舗へとお客さんを集客する効果もあります。

小売業にとってネット通販は不可欠な販売チャンネルですが、ネット通販の人件費が増える、お客さん宅への配送料が発生するなど、追加の費用が発生します。チャットボットが優れている点は、商品をネット通販で販売するのではなく、実店舗で販売する点です。実店舗の家賃、光熱費、人件費は固定費なので、チャットボットが店舗へ送客しても、実店舗で発生する追加の費用は小さいです。チャットボットは実店舗の集客力を高めることで、実店舗の収益性を高めることができます。チャットボットは費用対効果に優れたテクノロジーで、すべての小売業でポジティブな結果が得られるのではないかと思います。

チャットシステムの会話内容のデータは提案力の強化に活用できる

有人チャット、チャットボットを導入すれば、お客さんとやり取りした会話内容をデータとして蓄積することができます。小売業におけるお客さんとのやり取りは、店舗への問い合わせ電話、店内での店員との会話がメインですが、こうしたお客さんとのやり取りをデータとして蓄積している企業は少ないのではないかと思います。お客さんとのやり取りをデータとして蓄積することも、小売業のデジタル化の一つだと言えます。少子高齢化の進行により、毎年人口が減少しています。人口が減少するなか、お客さん一人一人の価値は高まっていて、お客さんとやり取りした会話内容には大きな価値があります。

Amazon、楽天のようなネット通販サイトは、お客さんに優れた買い物体験を提供しています。ネット通販サイトが優れた買い物体験が生まれる背景には、時間を掛けて蓄積して来たデータがあります。お客さん一人一人の検索履歴、商品ページ閲覧履歴、購入履歴を分析して、お客さんが興味を持つであろう商品のレコメンドを行なったり、広告を表示しています。従来の小売業はネット通販に対抗するためにも、顧客データの蓄積に取り組みたいです。小売業はネットショップ、ショッピングアプリと徐々にデジタル化を進めていて、チャットボットも顧客接点の増加、顧客データの蓄積のために必要なものです。

時間経過とともにお客さんとの会話内容のデータが蓄積していけば、データを分析することで、商品が売れる確率が高い接客方法が分かります。例えば、お客さんからの問い合わせに対して、チャットで商品を案内した会話内容のデータがあるとします。お客さんの問い合わせ内容、案内した商品、実際に売れた数量を分析すれば、どの商品がお客さんのニーズに最も適していたかが分かります。AI(人工知能)を搭載したチャットボットは、データを学習することで精度を向上させて行きます。チャットシステムの会話内容のデータを蓄積することは、商品の提案力を磨くことに繋がるため、お客さんにも喜ばれます。

将来的にチャットシステムが目指すものは、お客さん一人一人に対して、最適化された接客を実施するというものではないかと思います。お客さん一人一人に対して最適化された接客とはどのようなものかと考えると、お客さんが困っていること・望んでいることを漏れなく聞き取り、それに対してベストなソリューション(商品)を提案することです。多くのお客さんで混雑している店舗では、時間を掛けて丁寧に接客することが難しいこともあります。価格の安い商品は接客無しで販売されることが多いため、チャットボットが人間に代わって接客すれば、お客さんは自分に適した商品を選ぶことができます。

各店舗が専用の有人チャット、チャットボットを導入して、地域のお客さんとコミュニケーションを取るやり方はうまく機能しそうです。お客さんは店員の仕事の邪魔をしたくないので、忙しそうな店員を避けたり、質問があっても遠慮することがあります。各店舗に専用の有人チャット、チャットボットがあれば、お客さんは遠慮することなく、些細な内容であっても気軽に質問することができます。小売業の立場では、お客さんに質問してもらえないことは機会損失だと言えます。お客さんに質問してもらい、適切な商品を提案することで、顧客満足度が高まり、小売業は売上を伸ばせます。

ショッピングアプリを導入する小売業が増えていますが、チャット機能はショッピングアプリの中に含まれるのが理想的です。小売業がショッピングアプリを導入する目的は、お客さんのデータを蓄積して、お客さん一人一人に最適なチラシ、クーポンを提供するためです。ショッピングアプリでお客さんに一人一人に最適なチラシ、クーポンを受け取ってもらい、さらにチャットでコミュニケーションを取ってくれれば、小売業はお客さんとの関係を強化できます。店舗と気軽にコミュニケーションを取れる環境があれば、お客さんは店舗に対して積極的に意見を言ってくれるのではないでしょうか。