三越伊勢丹HDはIT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店」を目指す

三越伊勢丹HDはIT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店」を目指す

三越伊勢丹ホールディングスは2018年11月7日に行われた第二四半期決算説会の中で、持続的な成長に向けた新しい事業戦略を発表しています。三越伊勢丹ホールディングスの新しい事業戦略は、IT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店(プラットフォーマー)」を目指すというものです。「新時代の百貨店(プラットフォーマー)」を目指すための施策として、オンラインでもオフラインでも「最高の顧客体験」を提供、グループの強みにデジタルを加えた「新しい顧客体験」を提供、不動産事業による「顧客接点の拡大」の三つが挙げられていて、デジタル領域への投資が計画されています。

百貨店業界の主力商品は衣料品ですが、専門店やネット通販の拡大により、衣料品の売上は減少傾向にあります。ネット通販の拡大により、実店舗で買い物をする回数が減少するため、多くの小売業の実店舗は収益性が悪化しています。三越伊勢丹ホールディングスは自社でネットビジネスを拡大して行くとともに、収益性が悪化する実店舗の改革にも取り組みます。ネット企業はオンラインで既にプラットフォームを構築しており、三越伊勢丹ホールディングスは追いかける形になります。三越伊勢丹ホールディングスはネット企業にはない、店舗と人を有効に活用することで、独自性を発揮したいところです。

オンラインでもオフラインでも「最高の顧客体験」を提供する

三越伊勢丹ホールディングスの成長戦略の一つ目は、オンラインでもオフラインでも「最高の顧客体験」を提供するというものです。三越伊勢丹ホールディングスは取引先と商品情報、在庫情報を共有して、データベース化を進める計画です。商品情報、在庫情報のデータベース化を行い、三越伊勢丹ホールディングスのすべての商品をECで購入できるようにすることを目指しています。商品をECで販売するためには、ささげ業務(撮影、採寸、原稿作成)が必要です。三越伊勢丹ホールディングスは膨大な商品のささげ業務を行うために、閉店した店舗の人員を割り当て、撮影スタジオも新設する予定です。

三越伊勢丹ホールディングスは売上高が減少傾向にありますが、都市部にある基幹店は好調、地方にある店舗は不調と、都市部と地方の差が大きくなっています。売上が好調な基幹店の商品をECで販売することは、ECの売上を伸ばすだけではなく、地方の店舗の売上を伸ばす効果も期待されています。基幹店と比べて地方の店舗は売り場面積が小さく、品揃えも少ないため、売上を伸ばすことが難しいです。地方の店舗では店員がタブレットを使って接客をすることで、ECの商品を紹介することができます。お客さんを実店舗からECへとうまく誘導できれば、地方の店舗の売上を伸ばせる可能性があります。

三越伊勢丹は多くの人が知っている有名な百貨店ですが、店舗は人口の多い都市部にあり、誰もが簡単に買い物に行けるわけではありません。三越伊勢丹で買い物をしたいけど、近くに店舗がないので行けないといったお客さんも存在しています。近くに三越伊勢丹の店舗がないお客さんは、ECがあれば買い物をしたいはずです。ネット通販で衣料品を買うお客さんが増えていますが、近くに気に入った店舗がないことは、ネット通販で買い物をする理由の一つです。三越伊勢丹は衣料品、化粧品、食品などの商品で優れたブランドイメージがあるため、ECの品揃えを充実させることで、売上を増やせると思います。

三越伊勢丹の店舗は都市部にあるため、お客さんは電車、バスなどの交通機関を使って、遠方から来店することが多いです。交通費と時間を掛けて三越伊勢丹の店舗に買い物に来たお客さんは、手ぶらでは帰れないというプレッシャーがあります。一方、三越伊勢丹が販売している商品は高額なものが多く、その場で即決することの負担は大きいです。三越伊勢丹で買い物をするお客さんは、手ぶらでは帰りたくないものの、即決は難しく、ストレスを感じています。実店舗で即決しなくても、後日、実店舗で見た商品をECでも購入できるようになれば、お客さんはストレスを感じずに買い物ができます。

三越伊勢丹ホールディングスはECの強化に取り組む計画ですが、EC単体の売上が伸びるだけではなく、地方の店舗の売上も伸びるかというのは注目です。地方の店舗の売上が不調な中で、お客さんを実店舗からECへと誘導して、商品を販売するスタイルを確立したいところです。タブレットを利用した接客は店員にとって初めてのことなので、最初はスムーズに行かないかもしれません。また、タブレットでECの商品を紹介されるお客さんも、どのように反応していいのか分かりません。店員にもお客さんにも初めての試みではありますが、地方の店舗の売上を増やすためには重要なポイントです。

タブレットを使った接客を行い、お客さんを実店舗からECへと誘導して、商品を販売することに成功すれば、ショールームタイプの小型店で売上を伸ばすチャンスが出てきます。大きな店舗は多くの商品を品揃えできるので、多くの売上を獲得することができます。しかし、競争の激化、ネット通販の拡大、少子高齢化による人口減少などにより、大きな店舗のリスクは高まっています。ショールームタイプの小型店で接客を行い、ECと連携して商品を販売できればリスクは小さいです。三越伊勢丹ホールディングスは豊富な品揃えと丁寧な接客に強みがあり、実店舗とECの連携には成長の可能性があります。

グループの強みにデジタルを加えた「新しい顧客体験」を提供する

三越伊勢丹ホールディングスの成長戦略の二つ目は、グループの強みにデジタルを加えた「新しい顧客体験」を提供するというものです。オンラインの新規事業として計画されているのは、「パーソナルスタイリング」、「シェアリング」、「オンラインSPA」、「統合コスメ」、「定期宅配事業」、「eギフト」、「カスタムオーダー」の7つの事業です。三越伊勢丹は百貨店の店舗でお客さんに商品を販売してきましたが、新規事業では、オンラインでお客さんに商品を販売するものが多いです。三越伊勢丹のグループが保有する経営資源を活かして、これらの新規事業に取り組んでいくことになります。

「パーソナルスタイリング」、「シェアリング」、「オンラインSPA」、「統合コスメ」、「定期宅配事業」、「eギフト」、「カスタムオーダー」の7つの事業を見ると、「シェアリング」以外の事業はイメージがしやすいです。三越伊勢丹グループが保有している、衣料品、化粧品、食品などの商品をオンラインで販売することで、新しい顧客体験を生み出そうとしています。「シェアリング」については、具体的な事業の説明はありませんが、特に重要であるとのことです。三越伊勢丹グループには実店舗、豊富な商品があるため、外部の企業やお客さんとシェアすれば、新しいビジネスが生まれそうです。

「パーソナルスタイリング」、「シェアリング」、「オンラインSPA」、「統合コスメ」、「定期宅配事業」、「eギフト」、「カスタムオーダー」の7つの事業は、今後の市場拡大が見込まれている革新的なサービスです。新しいサービスを積極的に利用するのは、好奇心旺盛な一部の先進心的な人たちです。多くの人はサービスそのものを知らない、関心がない、関心よりも不安が大きいといった理由で利用を控えています。現在の市場規模が小さいとしても、これらの新規事業は将来有望です。また、三越伊勢丹グループが保有する商品とも相性が良いため、新規顧客を獲得できるのではないかと思います。

三越伊勢丹ホールディングスが「パーソナルスタイリング」、「シェアリング」、「オンラインSPA」、「統合コスメ」、「定期宅配事業」、「eギフト」、「カスタムオーダー」の7つの事業を行うにあたって、これまで培ってきた信頼、丁寧な接客ができる店員、お客さんと対面で接触できる実店舗は強みになります。7つの新規事業では、ベンチャー企業が市場を開拓していますが、知名度が低いため新規顧客の獲得スピードは遅いです。三越伊勢丹ホールディングスは実店舗でお客さんと接触して、店員が丁寧にサービスを説明できるため、先行するベンチャー企業よりも新規顧客を獲得しやすいです。

「パーソナルスタイリング」、「シェアリング」、「オンラインSPA」、「統合コスメ」、「定期宅配事業」、「eギフト」、「カスタムオーダー」の7つの事業の中で、最も有望なのは「統合コスメ」ではないかと思います。化粧品はネット通販の市場規模が急拡大していて、アジア向けの越境ECにも大きなチャンスがあります。三越伊勢丹ホールディングスは2019年春頃に、約180ブランドを取り扱う化粧品ECサイトをオープンする計画です。三越伊勢丹ホールディングスの化粧品ECサイトが成功するのはほぼ確実で、実店舗がない地域で新規顧客を獲得することで、売上を大きく増やしたいところです。

「パーソナルスタイリング」、「オンラインSPA」、「カスタムオーダー」は、三越伊勢丹グループの主力商品である衣料品に関連するものです。これらの事業ではZOZOが先行していて、パーソナルスタイリングサービス「おまかせ定期便」、採寸ボディースーツ「ZOZOSUIT」、プライベートブランド「ZOZO」など、次々に新サービスを提供しています。多くの衣料品小売業がZOZOと同じ方向を目指していて、衣料品ビジネスの競争は激しいです。三越伊勢丹ホールディングスは衣料品の販売で実績がありますが、衣料品関連の新記事業では、若い世代のお客さんの支持を得ることが重要になりそうです。

不動産事業による「顧客接点の拡大」と実店舗の収益性の改善

三越伊勢丹ホールディングスの成長戦略の三つ目は、不動産事業による「顧客接点の拡大」です。不動産事業の取り組みは大きく三つで、国内保有不動産の再開発、商業リーシングの強化、保有不動産のバリューアップです。具体的にどのような施策を実施するのか詳しい説明はありませんが、百貨店業界では小売事業で利益を稼ぐことが難しくなっているため、不動産事業の利益を伸ばすことが重要だと考えられています。2019年3月期の第二四半期決算によると、不動産事業のセグメント利益は3,009百万円(前期比12.8%減)で、百貨店事業のセグメント利益5,317百万円(前期比55.0%増)の約6割ほどです。

三越伊勢丹ホールディングスは丸井グループ、高島屋といった競合と比較して、不動産事業の利益の構成比が小さいです。丸井グループは従来の商品を仕入れて販売する百貨店型のビジネスモデルから、定期借家契約により家賃を得るSC(ショッピングセンター)型商業施設へと転換するSC・定借化を進めています。百貨店業界は衣料品を中心に物販の売上が減少していることもあり、不動産事業で利益を稼ぐ方向へと転換する動きが活発になっています。三越伊勢丹ホールディングスの不動産事業は、競合他社と比較すると遅れていると言われていますが、それだけ成長の余地が大きいと見ることもできます。

ネット通販の市場規模は拡大を続けていて、今後も緩やかに成長して行くと予想されています。ネット通販で買い物をする回数が増えれば、実店舗で買い物をする回数は減って行くことになります。実店舗で買い物をする回数が減少すれば、実店舗の売上が減少するため、実店舗で商品を販売してきた従来の小売業の収益性は悪化します。従来の小売業の立場としては、収益性が悪化することは残念ですが、ネット通販の拡大はお客さんが望んでいるものです。実店舗で買い物をする回数が減る事実を受け止め、お客さんに喜ばれる買い物体験を作り出し、これまでとは異なる方法で利益を確保しなければなりません。

三越伊勢丹ホールディングスは、「パーソナルスタイリング」、「シェアリング」、「オンラインSPA」、「統合コスメ」、「定期宅配事業」、「eギフト」、「カスタムオーダー」の7つの新規事業を計画しています。これらの事業はオンラインで行われるものが多く、新規事業が成功すれば、お客さんが実店舗で買い物をする回数の減少に繋がります。収益性が悪化した実店舗をどのように有効活用するかというのは、不動産事業の領域になります。お客さんの消費行動がオンラインへと移行することは止められない変化で、実店舗の収益性が悪化する問題は小売業全体に共通するものでもあります。

ネット通販で買い物をするお客さんが増えることは確実で、基本的には実店舗の価値は小さくなって行きます。しかし、自動車を運転しない若者、高齢者が増えているため、アクセスの良い都市部の店舗の価値が大きくなっています。自動車を運転しない訪日外国人(インバウンド)の消費行動を見ても、アクセスの良い都市部の店舗で多くの買い物をしています。三越伊勢丹の百貨店はアクセスの良い都市部にあるため、ネット通販が拡大する中でも、実店舗の活用方法はあります。多くの消費が見込める若い世代で自動車を運転しない人が増えていることは、三越伊勢丹にとってチャンスだと言えます。

三越伊勢丹ホールディングスの不動産事業でチャンスがありそうなのは、ネットビジネス向けに百貨店のスペースを貸すことです。ネットビジネスにはローコスト、高収益といった強みがありますが、お客さんとリアルで接触できないことは弱点です。アメリカのAmazonは様々なタイプの実店舗の実証実験を行なったり、食品スーパーのホールフーズ・マーケットを買収して、お客さんとリアルで接触できるポイントを増やそうとしています。リアルでお客さんと接触したいと考えているネットビジネスに対して、百貨店のスペースを提供するのは良いビジネスで、大きな需要があるのではないかと思います。

三越伊勢丹ホールディングスが目指すプラットフォームの役割

三越伊勢丹ホールディングスが目指している姿は、IT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店(プラットフォーマー)」です。「新時代の百貨店(プラットフォーマー)」を目指すための施策として、オンラインでもオフラインでも「最高の顧客体験」を提供、グループの強みにデジタルを加えた「新しい顧客体験」を提供、不動産事業による「顧客接点の拡大」の三つが挙げられています。従来の物販で利益を稼ぐことが難しくなっているため、プラットフォームビジネスで利益を稼ごうとしています。店舗・人については既にある経営資源ですが、ITはこれから強化して行くことになります。

三越伊勢丹ホールディングスが「新時代の百貨店(プラットフォーマー)」を目指すにあたって、巨大な顧客基盤、お客さんとの信頼関係が活かせます。「新時代の百貨店(プラットフォーマー)」が意味しているものは、三越伊勢丹ホールディングスが保有している巨大な顧客基盤と、外部の企業や商品をプラットフォーム(実店舗・オンライン)でマッチングさせることです。三越伊勢丹ホールディングスの顧客基盤は巨大なだけではなく、高齢者・高所得のお客さんも多数含まれています。三越伊勢丹ホールディングスの顧客と接触したい、商品を販売したいと考えている企業は多数存在していると思います。

プラットフォームという言葉を聞くと、オンラインビジネスをイメージします。Amazon、楽天、ヤフーなどの大手ネット企業は、オンライン上で様々なビジネスを運営していて、企業とお客さんがマッチングするプラットフォームになっています。また、LINE、メルカリなどの新興企業もプラットフォームになることを目指していて、企業・お客さん・商品がマッチングするサービスを次々に開始しています。インターネットが普及したことで、企業・お客さん・商品がマッチングしやすい環境が整い、プラットフォームの構築に成功した企業は、大きな利益を安定的に稼ぐことができます。

三越伊勢丹ホールディングスは、Amazon、楽天、ヤフーなどの大手ネット企業、LINE、メルカリなどの新興企業を追いかけることになります。三越伊勢丹ホールディングスはアクセスの良い好立地にある店舗、丁寧な接客ができる店員を保有しており、店舗と人はネット企業にはない強みです。一方、ITではネット企業に遅れを取っており、外部のIT企業と連携したり、優秀なエンジニアの採用が必要です。三越伊勢丹ホールディングスが技術力でネット企業に劣っている点は仕方がないことで、強みである店舗と人を活用することで、先行するネット企業とは異なるプラットフォームになれる可能性があります。

ネット通販の拡大によって、従来の小売業はお客さんを奪われ始めていて、百貨店は業績が不調な業種として話題になることが多いです。業種を超えた競争の激化、ネット通販の拡大、少子高齢化による人口減少などの社会変化を考えると、百貨店を含め、多くの小売業の売上が減少するのは自然な流れです。百貨店業界は売上の減少が長く続いていますが、売上規模は大きく、多くのお客さんが百貨店で買い物をしています。百貨店が販売する商品、丁寧な接客には充分な価値があります。売上が減少する中で、どうやって利益を確保するかというのが、百貨店にとっては最も重要な課題だと思います。

ネット通販が拡大すれば、実店舗が縮小して行くことになりますが、実店舗が完全になくなることはありません。買い物に関するアンケート調査を見ると、お客さんは実店舗に商品を体験すること、商品の説明を受けることを期待しています。ネット通販は百貨店の売上を減らしている一方、百貨店が持っている強みを際立たせている側面もあります。お客さんは小売業のどの店舗で商品を体験したいか、商品の説明を受けたいかと考えると、百貨店の店舗は人気の上位に来るはずです。三越伊勢丹ホールディングスはリアルとネットを繋ぐプラットフォームとして、お客さんに貢献できるのではないでしょうか。