JR東日本とサインポストが赤羽駅で無人レジ「スーパーワンダーレジ」の実証実験

JR東日本とサインポストが赤羽駅で無人レジ「スーパーワンダーレジ」の実証実験

2018年10月17日より、JR東日本とサインポストは赤羽駅に設置した店舗において、AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」の実証実験を開始しています。JR東日本とサインポストが「スーパーワンダーレジ」の実証実験を行うのは、2017年11月に続いて2回目となり、前回の実証実験から様々な点が改善されています。前回は大宮駅のイベントスペースに設置した店舗で行われましたが、今回は赤羽駅のホームに設置した店舗で行われています。JR東日本はキオスク(駅の売店)の収益性の悪化、人手不足の問題を抱えていて、無人レジを導入することで、こうした問題を解決しようとしています。

無人レジの開発はアメリカ、中国など、世界的に行われていて、小売業は無人レジを導入することで、収益性を高められるのではないかと注目されています。小売業が無人レジを導入する場合、問題になるのは技術的、コスト的なものではなく、新しい買い物体験をお客さんに受け入れてもらえるかどうかになると思います。日本ではセルフレジを導入する小売業が増えていますが、アンケート調査などを見ても、セルフレジを積極的に使いたいと考える人は少ないです。お客さんは買い物体験の変化を嫌うため、無人レジの導入においても、できるだけお客さんの負担を小さくするような工夫が必要になります。

「スーパーワンダーレジ」は2017年11月の実証実験から改善

JR東日本の赤羽駅の特設店舗で実証実験が行われるシステムは、サインポストが開発している、AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」です。「スーパーワンダーレジ」には、サインポストが独自開発する人工知能「SPAI」による画像認識技術、物体追跡技術が使用されています。「スーパーワンダーレジ」は店内に設置しているカメラとAI(人工知能)を用いて、入店したお客さんを追跡して、手に取った商品を認識、購入金額の計算、決済までを一貫して行います。カメラとAI(人工知能)で、店内のすべてのお客さんの買い物行動を正しく認識できるかというのが、店舗を無人化するうえで重要なポイントです。

「スーパーワンダーレジ」の実証実験が行われる店舗の概要は、期間は2018年10月17日から2ヶ月程度、店舗の営業時間は10:00~20:00(平日のみ、土日祝日はお休み)、場所はJR東日本の赤羽駅5・6番線ホーム上に設置された特設店舗、店舗面積は約21平方メートル、販売する商品は飲料、ベーカリー、菓子など約140種類となっています。JR東日本とサインポストが「スーパーワンダーレジ」の実証実験を行うのは、2017年11月に大宮駅で行われたものに続いて2回目です。大宮駅ではイベントスペースに店舗を設置しましたが、今回の赤羽駅ではより実践に近い、駅のホームに店舗を設置しています。

赤羽駅の特設店舗で買い物をするお客さんは、店舗の入口に設置されているカードリーダーにSuicaなどの交通系電子マネーをかざして入店します。店内では自分が欲しい商品を手に取り、商品が取り終わったら出口へと向かいます。商品を手にした時点でシステムが記録するため、商品をカバンやポケットに入れても問題はなく、商品を棚に戻すと購入リストから取り消されます。出口にはディスプレイが設置されていて、お客さんが決済ゾーンに立つと、ディスプレイに手に取った商品と購入金額が表示されます。商品と購入金額を確認して、交通系電子マネーで決済を済ませると、出口のゲートが開きます。

AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」には、お客さん側、小売業側の双方にメリットがあります。お客さんは従来の店舗のようにレジに並ぶ必要がなくなり、買い物に掛かる負担・ストレスが軽減されます。小売業はレジ業務を行う従業員を雇う必要がなくなるため、人件費の削減、店舗の生産性・収益性アップの効果が得られます。お客さんのレジの待ち時間がなくなることは、単にお客さんが快適に買い物ができるだけでなく、長期的には店舗の売上アップにも貢献します。お客さんは快適に買い物ができる店舗を好むので、小売業はレジの待ち時間を無くすことで、リピーターを育てやすくなります。

JR東日本とサインポストが「スーパーワンダーレジ」の実証実験を行うのは、2017年11月に続いて2回目で、前回から改善されている点がいくつかあります。前回は同時に入店できる人数は1人だけでしたが、今回は3人まで増えていて、システム的には3人以上でも対応できるとのことです。前回は一度手に取った商品を棚に戻すと認識できていませんでしたが、今回は2つ以上の商品を同時に手に取ったり、商品を棚に戻したり、商品を棚の奥から取り出しても認識できるようになっています。また、出口の決済画面には修正機能が付いていて、詳細は分かりませんが、お客さんが買い物内容を修正できます。

前回の実証実験の結果を踏まえ、約1年間の間に、「スーパーワンダーレジ」の機能は改善されています。実証実験は客数・商品数が少ない小型店舗で行われていますが、将来的には小型店でも大型店でも、無人レジのニーズが高まります。客数・商品数が増えると、お客さんの買い物行動の認識が難しくなるというのは、システムの専門家でなくても想像できます。「スーパーワンダーレジ」はカメラとAI(人工知能)を使ってお客さんの買い物行動を認識していて、客数・商品数が増えると、お客さんや商品の写真を正確に写せなかったり、お客さんや商品を間違って認識するといった問題が起こりやすくなります。

JR東日本は「スーパーワンダーレジ」でキオスクを改革したい

JR東日本はキオスク(駅の売店)を運営していますが、キオスクの売上が減り、収益性が悪化する問題を抱えています。キオスクの定番商品は新聞・雑誌・タバコですが、社会環境の変化によって、これらの商品が売れなくなっているとのことです。新聞・雑誌はインターネットで情報収集をする人が増え、タバコは健康志向の高まりで非喫煙者が増えています。中高年のお客さんは新聞・雑誌・タバコを買い続けてくれる可能性が高いものの、若い世代のお客さんの購入は期待できません。キオスクの定番商品である、新聞・雑誌・タバコは、今後、売上が大きく伸びることは期待できない状況になっています。

大手コンビニチェーンの店舗が増えていることも、キオスクの収益性が悪化する要因の一つです。駅周辺、エキナカにも大手コンビニチェーンの店舗があるため、お客さんは電車に乗る前、電車から降りた後に、大手コンビニチェーンの店舗で買い物をすることができます。キオスクと大手コンビニチェーンの品揃え、クオリティを比較すると、大手コンビニチェーンでの買い物を好む人が多いのではないでしょうか。キオスクの優位性は急いでいる中でも素早く買い物ができることでしたが、大手コンビニチェーンの店舗の増加により、利便性の優位性が薄れ、品揃え、クオリティの不利が目立つようになっています。

JR東日本はキオスクの売上が減り、収益性が悪化する中で、サインポストの「スーパーワンダーレジ」に店舗の改革を期待しています。定番商品の新聞・雑誌・タバコの売上が減り、大手コンビニチェーンにお客さんを奪われると、キオスクの店舗を維持することが難しくなります。「スーパーワンダーレジ」がうまく機能すれば、レジ業務をなくすことができるので、人件費が減り、店舗の収益性が改善されます。無人レジは全世界の小売業で注目が高まっているソリューションですが、JR東日本はキオスクの店舗運営が難しくなっていることもあり、無人レジの実証実験に積極的に取り組んでいる印象です。

人手不足でアルバイト・パートの採用が難しくなっていることも、JR東日本が無人レジの実証実験に取り組む理由の一つです。小売業・飲食業・サービス業は低賃金のアルバイト・パートを大量に雇用することで、ローコストオペレーションを実現してきました。しかし、アルバイト・パートの採用競争が激しくなったことで、アルバイト・パートの時給は上昇が続いています。アルバイト・パートの採用そのものが難しく、さらに時給も上昇傾向にある、厳しい状況だと言えます。「スーパーワンダーレジ」がうまく機能すれば、店舗運営に必要な人員を減らせるため、アルバイト・パート採用の負担も軽減されます。

JR東日本とサインポストの「スーパーワンダーレジ」の実証実験は、レジ待ちをなくしてお客さんに素晴らしい買い物体験を提供すること、少ない人員での店舗オペレーションを実現することが目的です。買い物体験の改善、人件費の削減の効果は大きいですが、買い物体験の改善により、店舗の売上が増える効果もあると思います。駅の売店の中には非常に混雑している店舗もあり、大きな機会損失が発生していると考えられます。駅の売店で買い物をするお客さんは、忙しいスケジュールの中で立ち寄っています。こうしたお客さんは店舗が混雑しているのを見ると、買い物をせずに店舗を素通りします。

「スーパーワンダーレジ」がうまく機能すれば、店舗の混雑が緩和されるため、これまで逃していたお客さんを取り込むことができます。新聞・雑誌・タバコの需要は縮小していきますし、品揃え、クオリティは大手コンビニチェーンに優位性があります。しかし、キオスクの収益性が改善されれば、マーチャンダイジングも刷新できるのではないかと思います。キオスクの立地はキオスクだけしか持っていない特別なものであり、キオスクだからこそ売れる商品があるかも知れません。キオスクの店舗をローコストで運営できるようになれば、新しいマーチャンダイジングに挑戦する余力を持てるようになります。

無人レジの開発は日本だけではなく世界的なトレンドになっている

アメリカではオンライン小売業のAmazonが2018年1月に、無人コンビニ「Amazon Go」を実験的に出店しています。「Amazon Go」の店舗で買い物をするお客さんは、事前にスマートフォンに「Amazon Go」専用アプリをインストールしておく必要があります。お客さんは店舗の入口に設置されているゲートのカードリーダーに、専用アプリに表示されたバーコードを読み込ませて入店します。お客さんは店内で自分が欲しい商品を手に取り、そのままゲートを通って外に出ます。手にした商品の代金は専用アプリを通じてAmazonアカウントに課金されるため、出口で物理的な決済をすることはありません。

Amazonはネットショップで商品を販売するオンライン小売業で、従来の小売業のように実店舗を持っているわけではありません。JR東日本は既存店舗の収益性を改善するため、「スーパーワンダーレジ」の実証実験を行っていますが、Amazonが「Amazon Go」を運営する目的はJR東日本とは異なります。Amazonが「Amazon Go」を運営する目的は、リアルでのお客さんの購買データを取得するためだと言われています。Amazonは既に保有するネットでの購買データだけではなく、リアルでの購買データを保有することにより、小売、広告、金融などの領域で、ビジネスを優位に進めることができます。

日本ではディスカウントストアを運営するトライアルカンパニーが、店舗のデジタル化に取り組んでいます。トライアルカンパニーが2018年2月13日にオープンした「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」では、スマートレジカート(タブレット付き)・スマートカメラが導入されています。お客さんは買い物の開始時にスマートレジカートに専用のプリペイドカードを読み込ませ、購入する商品をスマートレジカートでスキャンしながら買い物をします。買い物終了後は専用の決済レーンへ移動、スマートレジカートを操作して決済を行う仕組みで、お客さんはレジで待たされることはありません。

トライアルカンパニーがスマートレジカート(タブレット付き)を導入する目的は、お客さんのレジ待ちの解消、人手不足へ対応するためのレジ業務の削減です。トライアルカンパニーが運営するディスカウントストア「スーパーセンタートライアル」は、取扱商品数が多く、お客さんの購入点数も多いです。お客さん一人あたりに掛かるレジの時間は他の小売業の店舗よりも長くなるため、お客さんが感じる混雑の度合いも大きいです。無人レジをうまく運用することができれば、お客さんのレジ待ちを解消できますが、トライアルカンパニーのように取扱商品数が多い店舗ほど、無人レジの効果も大きくなります。

無人レジの開発はアメリカ、中国などでも行われていて、店舗のデジタル化はネット通販と同様に、小売業の世界的なトレンドだと言えます。世界の小売業が無人レジの開発に取り組む理由は、インターネット、スマートフォン、タブレット、カメラ、AI(人工知能)など、テクノロジーが進化したためです。日本ではお客さんのレジの待ち時間は、特に問題視されてきませんでしたが、海外では解決しなければならない重要な問題だと考えられてきました。テクノロジーの進化によって無人レジの開発が可能になり、お客さんのレジ待ちの解消が実現可能になったことで、全世界の小売業が無人レジに注目しています。

レジの待ち時間が長い店舗は、お客さんにとっては不便な店舗、買い物がしにくい店舗だと言えます。お客さんに不便な店舗、買い物がしにくい店舗だと認識されてしまうと、競合店やネット通販にお客さんを奪われてしまう可能性があります。小売業はお客さんに悪いイメージを持ってもらいたくはありませんから、無人レジの導入でレジ待ちを解消できるのであれば、ほとんどの小売業が導入するはずです。無人レジには人件費削減効果が期待されていますが、売上アップの効果も見込めます。買い物がしやすい店舗では、良い意味でお客さんの滞在時間が長くなるため、購入点数が増え、客単価も伸びます。

無人レジの問題は新しい買い物体験を受け入れてもらえるかどうか

日本、アメリカ、中国の無人レジに関するニュースを見ると、技術的、コスト的な問題は大きくはないようです。無人レジに使用されているテクノロジーは、インターネット、スマートフォン、タブレット、カメラ、AI(人工知能)などですが、AI(人工知能)以外は馴染みのあるものです。トライアルカンパニーの実証実験店舗「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」では、700台のカメラが設置されていて、これらのカメラにはスマートフォンのカメラを使用しています。多店舗に無人レジを導入する場合、多くのハードウェアが必要になりますが、コストの負担はそれほど大きくはならない見込みです。

小売業が無人レジを店舗に導入する上で問題になるのは、技術的、コスト的なものではなく、無人レジを導入した店舗の買い物体験が、お客さんに受け入れてもらえるかどうかだと思います。小売業はレジの待ち時間の短縮と人件費の削減のため、以前からセルフレジの導入に取り組んでいるものの、積極的にセルフレジを利用するお客さんは少ないです。セルフレジはレジの待ち時間が短いことが利点ですが、お客さんは従来の店員が会計を行う方法に大きな不満を持っているわけではありません。無人レジもセルフレジと同様に、従来の店舗での買い物方法を好むお客さんの方が多いのではないかと考えられます。

今後、小売業がどのように無人レジを導入していくのかを考えると、既存店に導入するよりも、無人レジの新店舗を作る方がやりやすいのではないかと思います。アメリカのAmazonが運営する「Amazon Go」、JR東日本とサインポストの実証実験店舗も、既存店ではなく新店舗です。無人レジの実証実験は最新のテクノロジーに関心を持つお客さんを集めて行なっていることもあり、大きな問題もなくスムーズに行われています。小売業の立場としては、無人レジに関心を持つお客さんだけに買い物をしてもらう方が、店舗の運営がしやすく、生産性アップ、人件費削減など、期待する効果が得られやすいです。

小売業ではありませんが、飲食チェーン店を運営するロイヤルホールディングスは、キャッシュレス店舗の取り組みを進めています。2017年11月には完全キャッシュレスの実証実験店舗「GATHERING TABLE PANTRY」をオープンし、2018年10月には完全キャッシュレスの天丼専門店「大江戸てんや」をオープンしています。「GATHERING TABLE PANTRY」では、店舗にやってきたお客さんに現金が使えないことを店頭で説明をして、納得したお客さんだけが利用できます。現金が使えないことにより、お客さんを失う機会損失も発生していますが、店舗運営に大きな混乱はないとのことです。

現在、Amazon、楽天などのネット通販で買い物をする人が増えていて、特に若い世代はネット通販で買い物をすることに抵抗がありません。一方、実店舗で買い物をしてくれているのは、若い世代ほど新しいテクノロジーに詳しくない中高年のお客さんで、実店舗の売上は中高年のお客さんに支えられています。小売業は無人レジなどのテクノロジーを活用することで、店舗の生産性を高めたいと考えていますが、中高年のお客さんの買い物体験を損ねてしまうリスクもあります。実店舗の売上を支えてくれている、中高年のお客さんを失うことは、厳しい競争環境にある小売業にとっては大きな痛手です。

無人レジを多くのお客さんに利用してもらうためには、個人認証と決済はスマートフォンよりも、電子マネー、プリペイドマネーの方が好ましいです。また、お客さんが購入した商品を自分でスキャンするやり方よりも、カメラやセンサーで自動で認識するやり方の方が好ましいです。実店舗で買い物をしているお客さんは中高年が多いため、スマートフォンを利用してもらうこと、自分で商品をスキャンしてもらうことは負担が大きいです。トライアルカンパニーが実証実験している、お客さんが自分で商品をスキャンするやり方がどのように評価されるかは、小売業が無人レジの導入を進める上で参考になります。