ファーストリテイリングはダイフクと提携して国内外で倉庫の自動化に取り組む

ファーストリテイリングはダイフクと提携して国内外で倉庫の自動化に取り組む

2018年10月9日、ユニクロ、GUを運営するファーストリテイリングは、マテリアルハンドリング(マテハン)システムで世界トップクラスのダイフクと、中長期的・包括的な物流に関するパートナーシップ合意書を締結したことを発表しています。ファーストリテイリングは有明倉庫の自動化をダイフクとともに実現していて、今後2~3年の間に、中国、タイ、オーストラリア、米国など、全世界の物流倉庫を自動化していく計画です。有明倉庫は自動化により、作業員を10分の1に削減、入庫作業・出庫作業の生産性のアップ、保管効率のアップ、検品精度100%など、物流の生産性を改善することに成功しています。

ファーストリテイリングはこれまでの製造小売業から、情報を活用する「情報製造小売業」へと変化を進めています。ファーストリテイリングは実店舗で商品を販売してきましたが、ECサイトやショッピングアプリも強化していて、実店舗とテクノロジーを活用した新しい買い物体験を生み出そうとしています。ファーストリテイリングが「情報製造小売業」へと変化していくと、実店舗の役割が小さくなって行くような感じもあります。お客さんとの接点が実店舗からネットショップ、ショッピングアプリへと移りつつある中で、ファーストリテイリングが実店舗をどのように活かすのかも注目ポイントです。

RFIDを活用した倉庫の自動化により物流業務の生産性を改善

2018年10月9日、ユニクロ、GUを運営するファーストリテイリングは、物流システム・マテハン機器の世界トップメーカーであるダイフクと戦略的パートナーシップを構築することを発表しています。ファーストリテイリングは製造小売業として成長を続けていますが、「情報製造小売業」へと変化するため、外部の企業と様々なアライアンスを組んでいます。2018年9月19日には、GoogleとAI(人工知能)や機械学習などの先端技術の業務活用に向けて協業すると発表しています。今回のダイフクとの提携は、ファーストリテイリングの物流部門のパートナーとして、ダイフクが選ばれたと見ることができます。

小売業界ではダイフクはあまり知られていませんが、工場や倉庫向け搬送システム(マテリアルハンドリング)で世界的な企業であるとのことです。ダイフクは日本で初めて自動車生産ラインを構築したことで知られていて、自動車メーカーのグローバル化に合わせて事業を拡大化させ、グローバルにビジネスを展開しています。自動車メーカーで培われたダイフクのシステム・ノウハウが、製造小売業であるファーストリテイリングに導入されます。小売業においては、製造業ほど物流や在庫管理は重要ではないというイメージもありますが、今回の提携を見ると、小売業でも物流の重要性が増していると言えます。

ファーストリテイリングは店舗向け、EC向けの物流を強化するため、2016年より有明倉庫を稼働させています。しかし、当初想定していたような物流の改善効果が得られず、不要な在庫が物流倉庫に滞留したり、ECの商品の発送が遅延するといったトラブルを抱える状況に陥ったとのことです。こうした有明倉庫が抱えていた問題の解決に、ダイフクとともに取り組み、生産性の高い物流倉庫の自動化に成功しています。今後、ファーストリテイリングは中国、タイ、オーストラリア、米国など、世界にある物流倉庫も2~3年の間に自動化していく計画で、総投資額は1,000億円を超える見込みになっています。

有明倉庫では商品の管理にRFIDが導入されていて、商品の入庫、保管、仕分け、検品などの業務が自動化されています。人間が行う業務は商品を箱に詰めるピッキング作業のみで、倉庫の自動化によって、物流業務の生産性が大幅に改善されています。有明倉庫の自動化による具体的な効果には、作業員は10分の1に削減、教育コストは8割削減、入庫生産性は80倍、出庫生産性は19倍、保管効率は3倍、検品精度は100%などがあります。また、お客さんの注文から商品の出荷までの所要時間も大幅に短縮されていて、従来は8~16時間掛かっていたものが、15分~1時間で出荷できるようになっています。

有明倉庫の自動化に活用されているRFIDは注目のソリューションの一つで、小売業の在庫管理業務の生産性を劇的に改善する効果が期待されています。有明倉庫はファーストリテイリングのサプライチェーンの一つのポイントで、RFIDの効果は有明倉庫だけではなく、サプライチェーン全体で出てくるのではないかと思います。例えば、実店舗では頻繁にバックヤードに在庫確認に行きますが、各商品にRFIDタグが付いていれば、バックヤードの在庫数を瞬時に把握することが可能になります。店員の在庫確認時間の短縮は、お客さんの待ち時間の短縮でもあるので、お客さんの買い物体験の改善効果があります。

ファーストリテイリングが運営するGUの横浜港北ノースポート・モール店では、商品の管理にRFIDを導入していて、セルフレジが10台設置されています。お客さんはセルフレジに付属しているボックスの中に買い物カゴを投入すると、瞬時に買い物カゴの商品が認識され、そのまま会計が行える仕組みになっています。お客さんの多い人気の店舗ではレジが混雑しますが、レジの混雑は客離れや機会損失などの問題を引き起こしています。RFIDを活用したセルフレジを導入することにより、レジの人件費削減、お客さんの街時間短縮、客離れや機会損失の解消といった、様々なメリットが得られます。

ECサイトの売上高が拡大すると物流に問題を抱えることになる

現在の小売業が抱えている課題の一つは、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピング、ZOZOTOWNといった、優れた買い物体験を提供するECサイトの脅威に対抗することです。ECサイトはこれまでの買い物場所であった実店舗からお客さんを奪っていて、従来の小売業はお客さんの流出を食い止めなければなりません。実店舗で商品を販売してきた従来の小売業も、ECサイトを持つようになり、実店舗だけではなくECサイトの売上も伸ばそうとしています。従来の小売業の立場としては、ECサイトではなく実店舗で買い物を続けてもらいたいですが、ECサイトを好むお客さんを引き止めることはできません。

ファーストリテイリングもECサイトの販売を強化していて、従来の小売業の中でもECサイトを上手に運営している企業の一つです。ファーストリテイリングの2018年8月期の決算発表によると、国内ユニクロ事業におけるEC売上高は630億円(前期比29.4%増)、EC化率は7.3%(前期は6.0%)となっています。2018年8月期の国内ユニクロ事業の売上収益は8,647億円(前期比6.7%増)ですから、EC売上高の成長率は国内ユニクロ事業の成長率を大きく上回っています。ECサイトの売上規模は実店舗と比較すると小さいものの、ECサイトには実店舗にはない大きな成長の余地があることが分かります。

ファーストリテイリングがダイフクと提携して、物流倉庫の自動化に取り組むきっかけは、不要な商品の滞留、配送の遅延といった混乱が物流部門で発生したためです。物流部門の混乱の原因として、ECには特に言及はありませんが、ECの売上高拡大も関係しているのではないかと思います。ファーストリテイリングは、ユニクロとGUの実店舗で事業を拡大してきましたが、店舗数の増加により物流が混乱したといった話はありませんでした。新しい販売チャンネルであるECの売上高が増え、お客さんの自宅への商品発送業務が増えたことにより、実店舗を含め、全体の物流部門が混乱したのではないでしょうか。

ネットだけで商品を販売しているオンライン小売業と比較すると、実店舗とネットの両方で商品を販売する従来の小売業は在庫の管理が難しいです。従来の小売業はECサイトの品揃えがなかなか増えませんが、ECサイト専用に在庫を多く割り当てることにはリスクがあります。ECサイトの在庫が売れ残ってしまうと、実店舗に割り当てればよかったという後悔が大きくなります。ファーストリテイリングが実店舗とECサイトの在庫をどのように管理しているのか情報はありませんが、ECサイトの発送が遅れるトラブルも過去にあったため、ECサイトの在庫管理に問題を抱えていたのではないかと推測できます。

ファーストリテイリングとダイフクの提携、自動倉庫の注目度は高く、多くのニュース記事が出ています。ファーストリテイリングのサプライチェーン担当者のインタビュー記事の中に、「ファーストリテイリングは物流の後進企業」だったという話がありました。ファーストリテイリングは商品の企画・製造・物流・販売を自社で行う製造小売業で、売上高の規模は大きく、営業利益率は高く、日本の小売業を代表する優良企業です。ファーストリテイリングのような優れた企業であっても、ECの拡大により物流に問題を抱えていて、従来の小売業がECを拡大することがいかに難しいかを示す事例になっています。

実店舗で商品を販売してきた従来の小売業は、ECサイトでも商品を販売しようと取り組んでいますが、順調に売上を伸ばしている企業は少ないです。従来の小売業がECサイトで苦戦する理由は様々あり、優れたエンジニアの採用が難しいことは大きな問題です。優れたエンジニアを採用することができないため、優れたECサイトを構築することができず、ECサイトの売上を伸ばすことができません。ファーストリテイリングの物流の問題は、人材の問題を乗り越えた先にあるものです。ECサイトの売上を伸ばしたい従来の小売業の立場では、将来ぶつかるであろう問題を見せられ、先行きが不安になります。

ファーストリテイリングは「情報製造小売業」へと変化を進める

ファーストリテイリングが運営するユニクロ、GUは人気の衣料品店で、多くの人がよく知っている店舗です。ファーストリテイリングへの消費者の関心は高く、新聞、雑誌、ネットなど、様々なメディアでファーストリテイリングの柳井社長のインタビューを目にします。柳井社長のインタビュー記事でよく言及されるのが、「情報製造小売業」という新しい言葉で、これは製造小売業という昔からある言葉の頭に「情報」を加えた新しい言葉です。ファーストリテイリングは衣料品の製造小売業として成功を収めてきましたが、今後は「情報」を活用することにより、小売業の形を変化させていくと考えられます。

柳井社長のインタビュー記事をいくつか読むと、ファーストリテイリングが目指す「情報製造小売業」の形を推測することができます。ファーストリテイリングはお客さんが必要とする商品を、お客さんが必要とするタイミング、お客さんが必要とする方法で提供しようとしています。衣料品はメーカーがS・M・L・LLとサイズを規定することが当たり前でしたが、これからはお客さん一人一人の体型にカスタマイズされた商品が出てくるかもしれません。また、買い物場所も実店舗だけではなくネットショップ、ショッピングアプリがあり、商品の受け取りも自宅への宅配便以外の方法が登場しています。

インターネットが普及して、多くの人がスマートフォンを持つようになったことで、情報化社会が進んでいます。情報化社会が進んだことにより、小売業のビジネスでもこれまでは当たり前であったことが、お客さんのニーズに合わなくなってしまったり、非効率になってしまったりする部分が出てきます。小売業は需要を予測して在庫を持ち、実店舗でお客さんの来店を待っていますが、この販売方法には在庫リスクがあります。また、メーカーはお客さんをセグメントとして考え、セグメント向けに商品を開発していますが、情報化社会においては、お客さん一人一人にカスタマイズした商品の開発も可能です。

多くの商品がネットショップで買えるようになっていますが、ネットショップでは商品をカスタマイズして販売する店舗があります。カスタマイズの代表的な商品はパソコンで、お客さんはCPU、メモリ、ハードディスクなど、自分のニーズに合ったパーツを選ぶことで、自分にピッタリのパソコンを注文できます。従来の実店舗ではこうした販売方法は難しかったですが、情報のやり取りが簡単なネットショップではカスタマイズ販売が可能です。衣料品においても商品をカスタマイズする動きが出てきていて、ZOZOはお客さんの体型データを活用することで、カスタマイズした衣料品を販売しています。

ZOZOはお客さんに体型を計測する「ZOZOSUIT」を配布して、計測した体型データを活用することで、お客さんにピッタリのプライベートブランドの開発・販売を行っています。ファーストリテイリングが「情報製造小売業」として目指すものは、ZOZOがやっていることと同じものではないかと思います。ZOZOのプライベートブランドの優れている点は、お客さんに最高の商品を提供することができ、注文を受けてから商品を製造するため在庫リスクもありません。衣料品は売れ残り・値下げ販売が多い商品ですから、ファーストリテイリングは常に在庫リスクを軽減したいと考えているはずです。

ファーストリテイリングが「情報製造小売業」へと変化が進んでいけば、実店舗の存在はどうなるのかというのは興味があるところです。ファーストリテイリングが目指すものがZOZOと同じものであるとした場合、重要なのは「体型の計測」と「商品の受け渡し」の二点です。ZOZOは実店舗を持たずに両方を行っているため、実店舗は必ずしも必要ではありません。ファーストリテイリングは実店舗がある分だけ、実店舗でも「体型の測定」や「商品の受け渡し」ができることは強みです。しかし、実店舗とネットショップの両方を運営することはコストの負担もあり、収益性を悪化させる可能性もあります。

ファーストリテイリングは自社ECだけで成長を続けられるのか

多くの商品がネットショッピングで購入されるようになっていますが、衣料品はネットショッピングで人気の商品の一つです。経済産業省が発表している「電子商取引に関する市場調査」によると、2017年の日本国内のBtoC-EC市場のEC化率は5.79%(前年比0.36ポイント増)です。衣類、服装雑貨等のEC化率は11.54%(前年比0.61ポイント増)となっていて、日本国内のBtoC-EC市場のEC化率よりも高くなっています。ファッション通販サイトZOZOTOWNを運営するZOZOの業績は拡大を続けていて、2018年3月期の商品取扱高2,705億円(前期比27.6%増)の増加率は高く、毎年過去最高を更新しています。

お客さんの立場からすると、ファッション通販サイトZOZOTOWNは魅力的な店舗です。複数のブランドの商品が探しやすく、注文した商品は一度の配達でまとめて届くので、便利に買い物をすることができます。ファッションブランドは駅前の百貨店・商業施設に店舗を持っていますが、遠方に買い物に行くことが難しい人はたくさんいます。近くの店舗で好きな洋服を購入できない人たちが、ZOZOTOWNで買い物をしていると考えられます。ZOZOTOWNOのお客さんが増えれば、出店を希望するファッションブランドも増え、ZOZOTOWNはお客さんとファッションブランドを巻き込んで成長しています。

ZOZO、ロコンドなどのファッション通販サイトが商品取扱高を順調に拡大する中で、ファーストリテイリングもEC売上高を増やしています。ファーストリテイリングの2018年8月期の決算発表によると、国内ユニクロ事業におけるEC売上高は630億円(前期比29.4%増)、EC化率は7.3%(前期は6.0%)です。ファーストリテイリングは優秀なエンジニアを採用して、自社で物流倉庫も運営しているため、外部のネットモールに出店しなくてもEC売上高を増やすことができています。お客さんはファーストリテイリングの実店舗で買い物をした経験があるので、ECサイトでも不安なく買い物をすることができます。

現在、ファーストリテイリングは外部のネットモールに出店していませんが、今後も自社単独のECサイトで売上を伸ばしていけるかどうかは気になるところです。ZOZOTOWNは毎年出店ショップ数を増やしていて、お客さんは幅広いカテゴリーの商品が購入できるようになっています。さらに、ZOZOが自社で販売するプライベートブランドもあるので、低価格のベーシックアイテムもZOZOTOWNで購入することができます。ファーストリテイリングは価値がある商品を持っていますが、買い物の利便性を重視するお客さんは、すべてのファッションアイテムをZOZOTOWNでまとめて注文するかもしれません。

ファーストリテイリングはECサイトで自社の商品を販売するだけでなく、他社の商品も販売するネットモールを運営するという選択肢もあります。他社の商品も取り扱うようになれば、お客さんは幅広い商品を購入できるようになるので、ファーストリテイリングのECサイトの集客力を高める効果があります。また、他社の商品の販売データも取得することができるため、ファーストリテイリングが目指す「情報製造小売業」の路線とも合致します。ZOZOとファーストリテイリングを比較する見方も出てきていますが、ファーストリテイリングがネットモールを運営することは、ZOZOへの対抗策にもなります。

ファーストリテイリングはダイフクと提携することで、倉庫の自動化を実現して、物流の生産性を大幅に高めています。倉庫の自動化が実現できた理由の一つとして、すべての商品が自社のプライベートブランドであるため、サイズ・梱包などの規格の統一が可能だった点が挙げられています。逆に言えば、ファーストリテイリングが様々なサイズ・梱包を扱うネットモールを運営するようになれば、物流の生産性が悪化する可能性が高いということになります。ファーストリテイリングは自社ECだけを運営するのか、ネットモールを運営するようになるのかは、ファッション業界に大きな影響を与えると思います。