ヤフーとソフトバンクのスマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」

ヤフーとソフトバンクのスマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」

2018年10月5日より、ヤフーとソフトバンクの合弁会社が提供するスマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」のサービスが始まっています。スマートフォン決済サービスには、「楽天ペイ」、「LINE Pay」、「Origami Pay」などがありますが、インターネット大手ヤフーが提供する「PayPay(ペイペイ)」の注目度は高いです。ヤフーはネットからリアルへの進出を掲げていて、「PayPay(ペイペイ)」はリアルでのデータを収集するサービスでもあります。「PayPay(ペイペイ)」のサービス開始時点では、飲食チェーン店、小売チェーン店、タクシー会社などで支払いができるようになっています。

日本では政府・企業がキャッシュレスを推し進めていて、小売チェーン店、飲食チェーン店でもキャッシュレスが拡大しています。飲食チェーン店ではロイヤルホールディングスが完全キャッシュレス店舗の実証実験を行っていて、キャッシュレスを導入することで、現金管理業務の時間を大幅に削減できることが分かっています。小売チェーン店では、「楽天ペイ」、「LINE Pay」、「Origami Pay」が利用できる店舗が増えています。小売業では人口の減少、業態を超えた競争の激化により、お客さんの奪い合いが激しくなっているため、豊富な支払い方法を用意することで集客力を高めようとしています。

スマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の概要

2018年10月5日、ソフトバンク株式会社とヤフー株式会社の合弁会社であるPayPay株式会社は、実店舗でのスマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の提供を開始しています。「PayPay(ペイペイ)」はインド最大の決済サービス事業者である「Paytm(ペイティーエム)」の技術を活用していて、短期間で加盟店を増やすことが期待されています。「PayPay(ペイペイ)」の利用者は、あらかじめ銀行口座からチャージした電子マネー(「PayPay(ペイペイ)電子マネー」または「Yahoo!マネー」)による支払い方法と、クレジットカードによる支払い方法の2種類から選択することができます。

「PayPay(ペイペイ)」が利用できる店舗、将来的に利用できる予定の店舗には、飲食チェーン店、小売チェーン店が多数あります。飲食チェーン店では、モンテローザとワタミが参加していて、モンテローザとワタミの様々な業態の店舗で「PayPay(ペイペイ)」が利用できます。小売チェーン店では、メガネドラッグ、ジーンズメイト、メガネスーパー、マックハウス、ドラッグ新生堂などが参加しています。現在、日本全体でキャッシュレスへの取り組みが進んでいますが、「PayPay(ペイペイ)」に積極的に参加している飲食チェーン店、小売チェーン店は、キャッシュレスへの意欲が強いと評価できます。

「PayPay(ペイペイ)」の利用者が実際に店頭で決済を行う方法には、「ユーザースキャン」と「ストアスキャン」の2種類があります。「ユーザースキャン」での支払いの流れは、スマートフォンでお店のQRコードを読み取る、お会計金額を入力する、お店の人が画面を確認してお会計が完了するというものです。「ストアスキャン」での支払の流れは、お店の人にバーコードを提示、お店の人がバーコードを読み取る、お会計が完了というものです。「ユーザースキャン」での決済の場合、2021年9月末まで加盟店の決済手数料が無料となっていて、「PayPay(ペイペイ)」は「ユーザースキャン」を推しています。

スマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の目標は、日本全国どこでも、キャッシュレスで買い物・サービスの利用ができるようにすることです。「PayPay(ペイペイ)」を導入する加盟店の立場では、「ユーザースキャン」の場合、QRコードを店頭に用意するだけで大きな投資は不要です。「ユーザースキャン」はキャッシュレスが進んでいる中国で広く採用されている方法で、小規模の事業者もローコストでキャッシュレスの環境を作ることができます。「PayPay(ペイペイ)」は「ユーザースキャン」の決済手数料を期間限定で無料にすることで、短期間で加盟店を増やそうとしています。

スマートフォン決済サービスが次々に登場していますが、「PayPay(ペイペイ)」の強みになるのが、中国のスマートフォン決済サービス「Alipay(アリペイ)」との連携です。中国からの訪日観光客(インバウンド)が年々増加していて、大手の飲食チェーン店、小売チェーン店は「Alipay(アリペイ)」、「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」の導入を進めています。これまでは、中小の事業者は中国のスマートフォン決済サービスを導入することが困難でしたが、「PayPay(ペイペイ)」を導入することで「Alipay(アリペイ)」も同時に使えるようになれば、中国人のお客さんからの売上を伸ばせる可能性があります。

QRコードを利用したスマートフォン決済サービスには、「楽天ペイ」、「LINE Pay」、「Origami Pay」などがあります。スマートフォン決済サービス提供事業者は加盟店の開拓に取り組んでいますが、小規模の飲食店、小売店はスマートフォン決済の導入に消極的です。小規模の飲食店、小売店がスマートフォン決済の導入に消極的な理由には、コストの負担、オペレーションの負担、教育の負担など複数あります。こうした状況の中、「PayPay(ペイペイ)」には「Alipay(アリペイ)」に対応している強みがあり、中国人のお客さんが多い店舗は「PayPay(ペイペイ)」に興味を持つかもしれません。

店舗とお客さんはスマートフォン決済の利用に積極的ではない

現在、世界的にキャッシュレスを推し進める機運が高まっていて、日本でもキャッシュレスに関連するニュースを見ることが増えています。日本にはクレジットカードや電子マネーなど現金以外の支払い方法が多数あり、現金以外の支払い方法が多すぎることが、日本でキャッシュレスが進まない理由の一つだとされています。スマートフォン決済サービス「PayPay(ペイペイ)」は、2018年10月5日に開始したばかりの新サービスですが、同様のスマートフォン決済サービスは多数あります。「楽天ペイ」、「LINE Pay」、「Origami Pay」も積極的に事業を展開していて、利用可能な店舗数を増やしています。

スマートフォン決済サービスを提供する企業は、ネット企業が多いことが特徴です。ネット企業がスマートフォン決済サービスを提供する目的は、人々のリアルでの消費活動にも関わることで、リアルでのデータを獲得するためです。「PayPay(ペイペイ)」はヤフー、「楽天ペイ」は楽天、「LINE Pay」はLINEが提供するスマートフォン決済サービスですが、各社ともに既存のインターネット事業で膨大な会員数を保有しています。保有している会員にスマートフォン決済を利用してもらうことで、インターネット上のアクティビティだけでなく、リアルでのアクティビティでも顧客データを蓄積できます。

スマートフォン決済サービス提供事業者は、店舗とお客さんにスマートフォン決済をどんどん使ってもらいたいですが、利用が急拡大しているとは言えない状況です。キャッシュレスが進むためには、まずは店舗がスマートフォン決済を導入してくれなければなりませんが、店舗はスマートフォン決済の導入に消極的です。店舗がスマートフォン決済の導入に消極的な理由は、3.5~5%程度の決済手数料の負担が大きいことです。お客さんがスマートフォン決済を利用した場合、従来の現金の支払いの時よりも利益が3.5~5%程度減少してしまうため、スマートフォン決済は利益を減らしてしまうイメージです。

決済手数料の負担が大きいこと以外にも、新たな投資が必要になる、店舗オペレーションの変更が必要になる、従業員の教育が必要になるといった負担も発生します。これらの負担は店舗にとって対応が難しいものですが、特に従業員が高齢化している店舗は、こうした変化を従業員が嫌がるという問題があります。人手不足でアルバイト・パートの採用が難しい状況を考えると、スマートフォン決済導入による労働環境の大きな変化は経営リスクでもあります。スマートフォン決済サービス提供事業者が加盟店を増やすためには、決済手数料の軽減だけではなく、それ以外にも様々なサポートが必要です。

店舗がスマートフォン決済の導入に消極的なことは、キャッシュレスが進まない要因の一つですが、お客さんも店舗と同様にスマートフォン決済の利用に積極的ではありません。スマートフォン決済サービス提供事業者だけが盛り上がっていて、実際の利用者である店舗とお客さんの関心が低いことは対照的です。キャッシュレスに関するアンケート調査は頻繁に行われていて、お客さんの意見で多いのは、従来の現金の支払い方法で問題がないというものです。日本は高齢化社会が進んでいるため、社会が全体的に変化を嫌うようになっていますが、若い世代でも現金の支払いを好むという意見が多いです。

スマートフォン決済サービス提供事業者はお客さんに利用してもらうため、様々なインセンティブを用意しています。例えば、「PayPay(ペイペイ)」はサービス開始にあたり、新規利用登録したすべてのユーザーに500円相当の「PayPay(ペイペイ)電子マネー」を付与しています。また、「LINE Pay」では買い物でポイントが貯まったり、買い物金額の一部が還元されるキャンペーンも行われています。ITリテラシーの高い少数のお客さんは、スマートフォン決済は便利で、お金の節約もできるものだと高く評価していますが、多数のお客さんの関心は低く、各種インセンティブよりも複雑な仕組みに抵抗があります。

ロイヤルホールディングスは完全キャッシュレス店舗を検証中

大手飲食チェーン店は現金以外の支払い方法を多数用意していて、キャッシュレスを進める取り組みを積極的に行っています。飲食チェーン店の中でも特にキャッシュレスに意欲的なのが、ファミリーレストランのロイヤルホスト、天丼のてんやなどを運営しているロイヤルホールディングスです。ロイヤルホールディングスは2017年11月に、現金が使用できない完全キャッシュレス店舗「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」をオープンしています。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は次世代店舗を研究開発していくための実証実験を行う店舗で、キャッシュレスは様々な取り組みの中の一つです。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」では、お客さんは座席にあるタブレットを操作してメニューを注文します。食事が終わったら再びタブレットを操作して店員を呼び、店員が持っている端末を使って支払いをする流れになっています。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は現金が使えないキャッシュレス店舗ですから、お客さんは対応しているクレジットカード、電子マネーを使って支払いを行います。現金が使えないことでお客さんからクレームが来たり、店内でトラブルが起きるなどが考えられますが、店員が入店前に説明することで、クレーム・トラブルは回避できているとのことです。

「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」はオープンから1年近くが経ち、キャッシュレスによって店舗オペレーションがどのように変わったのか情報が出てきています。ロイヤルホールディングスによると、従来はレジ締めに40分程度掛かっていたものが、「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」では数秒で済むとのことです。また、店長が行う業務時間全体に占める管理・事務作業は19.0%から5.6%へ、開店・閉店作業は7.5%から2.5%へと減少しています。現金関連の業務時間が減ったことで、接客、調理、会議など、店舗のクオリティに直結する業務に時間を使えるようになっています。

従来は40分掛かっていたレジ締めが数秒で済むこと、現金関連業務の時間が減ることは、キャッシュレスの大きなメリットだと言えます。毎日40分のレジ締めの時間は1年間では14,600分になり、それが店舗数分だけ発生していると考えると、レジ締めの業務に膨大な時間を費やしていることになります。レジ締めが数秒で終われば、店長は早く帰宅できるようになるため、従業員の労働環境を改善する効果もあります。これまではレジ締めは店舗運営に不可欠な作業で、何かを変えるような考えもありませんでしたが、キャッシュレスで劇的に作業時間を減らせるのであれば、大きな無駄だと感じてしまいます。

ロイヤルホールディングスのキャッシュレス店舗「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は、多くの飲食チェーン店に影響を与えるはずです。飲食チェーン店がキャッシュレスを推し進めるにあたって問題になるのは、既存店をキャッシュレス店舗へと転換することが難しい点です。「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」はキャッシュレスで成果を挙げていますが、新店であり、お店側がお客さんにキャッシュレスを強制する形になっています。既存店にはキャッシュレスを好まないお客さんも多くいるため、現金以外の支払い方法を増やしても、キャッシュレスのメリットを最大限得ることができません。

ロイヤルホールディングスは「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」に続いて、キャッシュレス店舗「大江戸てんや 浅草雷門店」を2018年10月2日にオープンしています。「大江戸てんや 浅草雷門店」は訪日外国人(インバウンド)のお客さんが9割を占める既存店の「天丼てんや 浅草雷門店」を、キャッシュレス店舗にリニューアルしたものです。今後、飲食チェーン店がどのようにして既存店のキャッシュレス化を進めて行くのか、そのやり方にも注目です。新店では完全キャッシュレス店舗を増やし、不調の既存店を閉店することで、全店舗に占めるキャッシュレス店舗の比率を高めることができます。

リアルのデータを活用することでYahoo!ショッピングを改善

小売業でもキャッシュレスを推し進める動きは活発で、多くの小売チェーン店が現金以外の支払い方法を増やしています。「楽天ペイ」が利用できる小売チェーン店には、ローソン、AOKI、ライトオン、メガネスーパー、マックハウス、ドラッグ新生堂、ANAPなどがあります。また、「LINE Pay」が利用できる小売チェーン店には、ゲオ、ココカラファイン、セカンドストリート、ツルハ、メガネスーパー、ローソン、ロフトなどがあります。メガネスーパーは「PayPay(ペイペイ)」のサービス開始時点で利用できる店舗にも名を連ねていて、キャッシュレスへの意欲が非常に高い小売チェーン店だと言えます。

小売チェーン店が現金以外の支払い方法を用意する理由は、現金以外の支払い方法が多数あった方が、お客さんに買い物をしてもらえる確率が高くなるからです。クレジットカードや電子マネーの支払いには、ポイントが付く、買い物が記録できるなどのメリットがあり、現金以外の支払い方法を好むお客さんもいます。こうしたお客さんは豊富な支払い方法がある店舗で買い物をするため、小売チェーン店は競合店対策として、現金以外の支払い方法を増やさなければなりません。また、人口減少でお客さんの奪い合いが激しくなっていることも、小売チェーン店がお客さんが好む支払い方法を増やしている理由です。

小売チェーン店にとって、スマートフォン決済サービス提供事業者は、お客さんの買い物の利便性を高め、店舗の売上を伸ばしてくれるありがたい存在です。しかし、「楽天ペイ」を運営している楽天、「PayPay(ペイペイ)」を運営しているヤフーは、それぞれ楽天市場、Yahoo!ショッピングを運営しています。楽天とヤフーはスマートフォン決済を小売チェーン店に提供することで、インターネットからリアルへと進出していることになります。小売チェーン店はスマートフォン決済を導入することで、ネット企業に顧客データを得る機会を与えていて、このことが将来にどう影響するかは気になるところです。

ヤフーが「PayPay(ペイペイ)」を開始するにあたって、社長や担当者のインタビュー記事がたくさん出ています。インタビュー記事の中で頻繁に言及されているのが、「ネットからリアルへの進出」で、リアルで顧客との接点を持つことに大きな価値を見出しています。ヤフーはネット上では膨大なデータを持つネット企業ですが、リアルのデータも取得して、ネットとリアルのデータを融合することで、さらに収益性を高められると考えています。小売チェーン店がネット企業が提供するスマートフォン決済サービスを問題視しているような感じはありませんが、ネット企業がリアルのデータも持つことは確実です。

ヤフーがネットとリアルのデータを持つようになれば、ネットとリアルのデータを活用して、Yahoo!ショッピングの売上を伸ばせると思います。お客さんのYahoo!ショッピングの買い物履歴と実店舗での「PayPay(ペイペイ)」の利用履歴を統合すれば、それぞれのお客さんにとって、Yahoo!ショッピングの品揃えの弱点が分かります。リアルの小売チェーン店で「PayPay(ペイペイ)」を使って買い物をしているお客さんは、Yahoo!ショッピングへ取り込める潜在顧客です。それぞれのお客さんに適切に商品の紹介、クーポンの配布を行えば、Yahoo!ショッピングで買い物をしてくれるお客さんを増やせます。

Yahoo!ショッピングのようなネットショップは、インターネット上のお客さんの買い物履歴、商品閲覧履歴、検索履歴をもとに、商品・クーポンを提案してきました。この方法は優れていますが、リアルの買い物データも活用することで、より精度の高い提案を行うことが可能になります。お客さんは仕事や家庭で忙しく、買い物に掛けられる時間はますます減少しています。お客さんの買い物時間が少なくなれば、お客さんがチェックする商品の数も少なくなります。ヤフーはリアルのデータを活用して、精度の高い提案をできれば、売上アップだけでなく、買い物体験の向上の点でも価値があります。