小売業が若者にとって魅力ある就職先になるために改善したい労働環境の問題点

小売業が若者にとって魅力ある就職先になるために改善したい労働環境の問題点

日本では少子高齢化が進行しているため、若い世代の人口は高齢者世代の人口よりも少なく、定年退職の人員減を新規採用の人員増で賄うことが難しくなっています。若者は自分が希望する業界、企業で働きやすくなる一方、若者を採用する側の企業は採用競争が激化していて、若者が希望するワークライフバランスにあった労働環境の構築に取り組んでいます。小売業は昔から若者の人気の就職先ではありませんが、積極的に労働環境を改善しなければ、今までよりもさらに若者の採用が難しくなります。

小売業が若者から就職先として避けられる要因には、給料が安いこと、転勤が多いこと、単調な作業が多いこと、悪質なクレームが多いことなどが考えられます。これらの要素は小売業が昔から持ち続けているものではありますが、ネットショップ、ショッピングアプリ、店内カメラ、モバイルペイメントとなど、新しいテクノロジーの活用で状況を改善できます。小売業の店舗では、お客さん、従業員ともに減少していくことは確実ですが、一方で、生産性の改善で高収益の店舗へと生まれ変わるチャンスを迎えています。

小売業の給与は安いが収益性を改善して給与を増やすことができる

小売業は他の業種と比較して給与が安く、給与が安いことは小売業が就職先として不人気な理由の一つで、最も影響が大きい要因でもあります。東京商工リサーチが2017年8月に発表したデータによると、2016年度の上場小売業277社の平均年間給与は503万6,000円(中央値485万6,000円)となり、前年度より0.9%(4万7,000円)増加しています。小売業の給与が増加傾向にあることは好ましいことですが、調査対象となった全10業種の中では最下位で、小売業は就職先として給与をアピールすることは難しいです。

小売業を取り巻く競争環境には、少子高齢化の進行、ネット通販の拡大といったものがあり、小売業の実店舗は潰れてしまうのではないかという意見も出てきています。若者はネットショップでの買い物を好んでいる人が多く、小売業の実店舗は不要だと考える人もいて、小売業に就職することにネガティブなイメージもあるかもしれません。小売業の給与はこれまでずっと低い状況で、これから短期間で大きく増やすことは簡単ではありませんが、給与の原資となる売上高、営業利益を増やせる可能性は充分にあります。

小売業が売上高、営業利益を増やすために強化したいのがプライベートブランドで、売上総利益率の改善、購入点数の増加など、売上高、営業利益の増加に直接的な効果があります。少子高齢化によって人口が減少していくため、小売業が商品の販売数量を増やして、売上高を伸ばすことはますます難しくなるので、売上総利益率の改善は営業利益を増やすために効果的です。小売業のロゴが付いたプライベートブランドが売り場に綺麗に並べば、店舗全体の信頼性が高まり、商品の購入点数の増加も期待できます。

小売業の中には決算資料でプライベートブランド比率を公表している企業がいくつかあり、ホームセンター大手のDCMホールディングスは、プライベートブランドの拡大で売上総利益率を改善しています。DCMホールディングスの2014年2月期の売上総利益率は29.7%(プライベートブランド比率7.1%)でしたが、2018年2月期は32.9%(プライベートブランド比率16.7%)まで改善されています。プライベートブランド比率を高めることができれば、売上総利益率の改善にも繋がり、営業利益を押し上げる効果があります。

プライベートブランドの拡大とともに取り組みたいのが、実店舗、ネットショップ、ショッピングアプリを連携させ、お客さんに優れた買い物体験を提供するオムニチャネルです。ネットショップで商品を検索をして実店舗で購入するウェブルーミング、実店舗で商品を確認してネットショップで購入するショールーミングは、小売業が売上を伸ばすチャンスです。お客さんに実店舗とネットショップの両方を使って、便利に買い物をしてもらえれば、商品を購入してもらえる確率が高まり、売上も増えることになります。

実店舗とネット通販の両方で売上高を伸ばしている企業には、ファーストリテイリング、ニトリホールディングス、良品計画があります。ファーストリテイリング、ニトリホールディングス、良品計画は、付加価値の高いプライベートブランドを販売しており、実店舗とネットショップを連携させ、買い物がしやすい環境を作ることで、売上高を伸ばしています。人気の専門店はリピーターのお客さんをたくさん抱えていて、リピーターのお客さんは、実店舗とネットショップの両方を使って買い物をしてくれます。

小売業は転勤が多いが既存店の強化によって転勤の機会は減る

小売業では新規出店や不振店の閉店により、短期間で転勤を繰り返すことも多いですが、転勤が多いことは小売業が就職先として不人気な理由の一つです。現在は、少子高齢化による人口の減少、ネット通販の拡大による客数の減少のため、新規出店は停滞しているものの、不振による店舗の閉店が増えていて、やはり転勤は少なくはありません。給与の安さ、転勤の多さがセットになると大きなインパクトがあり、小売業で働くことを希望している意欲的な人であっても、小売業に就職することを躊躇してしまいます。

若者のワークライフバランスに関する各種調査を見ると、仕事よりもプライベート・家族を大事にするといった意見が増えていて、地元で働きたいと考える人も多いです。転勤の多さは、結婚・出産にもネガティブな影響を与えるので、結婚・出産を将来的に希望している人は、転勤の多い企業を避けるようになります。若い世代は中高年の世代と比較して相対的に人口が少ないため、人材の採用競争が激しいですが、小売業は転勤の影響を小さくすることで、若者が希望するワークライフバランスに近付きたいところです。

少子高齢化の進行、ネット通販の拡大といった小売業の外部環境を考えると、小売業の成長戦略は新規出店だけではなく、既存店の強化、テクノロジーの活用も重要になります。少子高齢化の影響は、既存店の客数の減少、人手不足によるアルバイト・パートの時給の上昇の形で現れていて、小売業の店舗運営はますます難しくなっています。小売業では新規出店よりも既存店の強化に投資をする企業が増えていて、これまでより新規出店の数が減少すれば、小売業の従業員が転勤する機会も減少することになります。

新規出店による規模の拡大は小売業には不可欠なものですが、最新のテクノロジーを活用することによって、既存店の収益性を改善することが可能になっています。小売業の各店舗の売上は売り場面積である程度決まっていましたが、実店舗とネットショップ、ショッピングアプリを活用すれば、売り場面積以上の売上を獲得することもできます。テクノロジーを活用して既存店の収益性を改善できれば、店舗はより長く存続することができるので、不振店の閉店による従業員の転勤を減らすことにも繋がります。

小売業は特定の地域に集中的に出店するドミナント出店を行ってきましたが、外部環境の変化によって、今後は今まで以上にドミナント出店が重要になると考えられます。自動車を運転しない若者、高齢者が増加していて、お客さんの買い物範囲は徐々に小さくなることが予想されているため、小売業の店舗はお客さんに物理的に近く、密集しているほど好ましいです。また、人出不足により物流コストが上昇しているため、ドミナント出店で各店舗が近接していれば、物流コストの上昇を抑制する効果もあります。

今後、小売業がドミナント出店を強化するようになれば、狭い地域の中で店舗数が増えることになるので、小売業の従業員が転勤する範囲は狭くなり、負担の大きな遠方への転勤も減ります。現在、子どもの貧困の問題、災害への対応といった社会問題が大きくなっていて、小売業の店舗には地域のコミュニティの役割も求められています。従業員が同じ店舗で長く働ければ、従業員のワークライフバランスの改善、地域のニーズに対応した店作りが実現できるので、小売業が従業員の転勤の負担を減らすことには意義があります。

小売業の仕事は単調だが店舗のデジタル化で仕事は楽しくなる

小売業の主な業務は接客、商品の発注、商品の補充になりますが、これらの業務は単純作業の繰り返しでつまらないと考える人もいて、小売業が就職先として不人気な理由の一つです。小売業の店舗で買い物をしている時に、店員の仕事を観察していると、やはり商品の補充は誰にでもできる単純作業であり、重労働だと感じることもあります。また、小売業の接客では一部の高額商品を除けば、専門的な知識を必要とせず、実際に専門的な知識のない店員に接客をされてしまうと、小売業の仕事のイメージは悪くなります。

接客、商品の発注、商品の補充は単調な作業ではありますが、店舗を運営する上で不可欠な作業でもあるため、これらの作業すべてが店舗からなくなるということはなさそうです。接客、商品の発注、商品の補充は単調な作業なので、小売業で働きたくないと考える人については、別のやりがい、楽しさ、面白さといったものでアピールしたいところです。接客、商品の発注、商品の補充、作業そのものはなくなりませんが、作業の生産性を高めたり、エンターテイメント性を持たせたりすることはできます。

小売業はデジタルマーケティングへの投資を拡大していて、今後、小売業の店舗はデジタル化していき、小売業の店舗内の作業にも新しい変化が出てきます。小売業ではPOSデータを活用して、売り場の品揃え、商品の発注を行っていますが、POSデータは何が売れたかの最終結果は分かっても、購入に至るまでの過程は分からないという問題があります。現在、最終結果のPOSデータだけではなく、お客さんの購買活動のデータを記録するソリューションが登場していて、小売業はより多くのデータを活用するようになります。

お客さんのデータを記録するソリューションには、ネットショップ、チャットボット、ショッピングアプリ、店内カメラ、モバイルペイメントなどがあります。お客さんは来店する前にネットショップを検索していて、店内ではショッピングアプリを使って買い物をしますが、お客さんの買い物行動全体のデータを統合する環境が整いつつあります。小売業の店舗運営は専らこれまでの経験と勘に頼ったものでしたが、店舗運営にデータを活用するようになれば、店舗の生産性は大きく改善すると期待されています。

小売業の店舗がデジタル化されれば、小売業はデータを活用して機会損失を解消することができ、各店舗の売上高は増える可能性が高いです。小売業はお客さんがどのような商品を探しているのか、具体的に知る方法を持っていませんでしたが、ネットショップ、ショッピングアプリの閲覧履歴、検索履歴を分析すれば、お客さんがどのような商品を探しているのかが分かります。お客さんのニーズに最適化した品揃え、在庫管理を行えば、商品が売れる確率が高まり、在庫切れによる機会損失の件数も減らせます。

小売業の接客、商品の発注、商品の補充といった単純作業も、店舗のデジタル化が進めば、今までとは違った楽しさ、面白さを持つようになります。商品の発注、商品の補充の作業そのものは依然として単調ですが、豊富なデータを分析して、様々な仮説を持って作業を行い、実際に店舗の売上が増えれば、今まで以上に仕事の楽しさを感じられるはずです。各店舗の売上が増えれば、従業員の給与などの労働環境の改善にも繋がるので、デジタルマーケティングへの投資により、小売業の仕事はもっと楽しくなると言えます。

小売業には悪質なクレームが多いが店員の心理的負担は小さくなる

接客は小売業の重要な業務ですが、店舗の店員がお客さんからクレームを受ける機会が増えていて、接客業務の大変さは小売業が就職先として不人気な理由の一つです。「キレる高齢者」という言葉があるように、高齢者からのクレームが増えていることは特徴的で、定年退職した高齢者の人口が多いので、高齢者からのクレームが目立つようになっています。また、女性の社会進出、長時間労働によって、忙しい人が増えているため、小売業のミス、不便に対して、厳しい態度を取る人が増えているとも考えられます。

UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)が、2017年10月に発行した「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査結果・速報版」では、店舗で働く店員が受けているクレームが明らかになっています。UAゼンセンは2017年6~7月に、流通サービス業の組合に加盟する、販売、レジ業務、クレーム対応のスタッフ約5万人を対象に、業務中に来店客から暴言や暴力などの悪質なクレームを受けたことがあるかを調査したところ、調査対象者の73.9%にあたる約36,000人が「ある」と回答しています。

接客業務の大変さは小売業が就職先として不人気な理由の一つではありますが、ネットショップで買い物をする機会が増えていくので、店員が店舗で接客する機会は減少していきます。お客さんが知りたい情報がネットショップ、ショッピングアプリを使って得られるようになれば、お客さんは店員に質問をする必要がなくなります。また、AI(人工知能)を使ったチャットボットの開発が進んでいて、チャットボットがお客さんの問い合わせに対応するようになれば、店員が店舗で接客をする機会は減ることになります。

店員が店舗で接客をする機会が減ることは、店員の作業の負担軽減になり、店員は別の業務に集中することによって、店舗の生産性を高める効果もあります。小売業の店員が行う接客業務の多くは、電話で商品の有無を回答すること、店内で商品の陳列場所を案内することですが、こうした業務は人間が行う必要はなく、店舗の生産性を低下させる要因にもなっています。ネットショップ、ショッピングアプリでこれらの情報を得られるようにして、価値のない接客を減らすことは、お客さん、店員の両方に意味があるものです。

従来の小売業はネットショップにお客さんを奪われるようになっているため、実店舗はネットショップとは異なる買い物体験を求められるようになっています。具体的には、実店舗で商品を見たい、触りたい、使いたい、店員にベストな商品を紹介してもらいたいといったもので、お客さんは以前よりもこうした買い物体験を実店舗に強く求めています。商品の有無、陳列場所を聞くような接客は無駄なもので、無駄な接客を減らして、お客さんにとって価値のある接客を増やすことは、実店舗の生産性を高めることにもなります。

価値のない接客が減り、価値のある接客が増えれば、小売業の接客に対するイメージも変わり、よりやりがいのある仕事として評価されるようになるのではないでしょうか。悪質なクレームの件数は減らないとは思いますが、無駄な接客を減らすことによって、店員は悪質なクレームに余裕を持って対応することができます。悪質なクレームが増えていることは、小売業の採用にネガティブな影響を与えているものの、長期的に見れば、小売業の店員の心理的負担は小さくなっていく可能性が高いです。