ライフスタイル・価値観の変化は小売業のビジネスにどのような影響を与えるか

ライフスタイル・価値観の変化は小売業のビジネスにどのような影響を与えるか

小売業のビジネス環境は変化していて、現在では、少子高齢化の進行による人口の減少、ネット通販の拡大の影響が特に大きくなっています。お客さんでもあり労働者でもある「人」の変化を考えると、雇用形態、所得、世帯構成、結婚の有無、子供の有無などでライフスタイルは多様化していて、ライフスタイルと同様に価値観も多様化しています。小売業は消費者を一つの大きなセグメントとして捉え、大型店で商品を販売してきましたが、ライフスタイル・価値観の多様化により、店舗運営にも変化が求められています。

小売業に大きな影響を及ぼすものとして、婚姻数の減少と少子化、女性・高齢者の就業者数の増加、シェアリングエコノミーの普及、若者のワークライフバランスの変化の4つについて考えてみました。全体的に小売業のビジネスを難しくするものが多いですが、困難な状況により変化を迫られることで、小売業のビジネスが今まで以上に高収益になる可能性は十分にあると思います。低賃金の労働者に依存した小売業のビジネスは、生産性の低い作業も多く、店舗の生産性・収益性を高める余地はたくさんあります。

婚姻数の減少と少子化でファミリー向けの店作りからの転換が必要

2018年6月に発表された人口動態統計月報年計(概数)によると、2017年の出生数は946,060人で、明治32年の調査開始以来過去最少の人数となっています。第2次ベビーブーム(昭和46~49年)以降、出生数は右肩下がりで減少が続いていますが、ここ数年で出生数の減少は日本の大きな社会問題として認識されるようになりました。過去の出生数を見てみると、20年前の1997年は1,191,665人、40年前の1977年は1,755,100人、60年前の1957年は1,566,713人で、年代によって出生数に数十万人の差があります。

少子化の原因は婚姻数が減少したことによるものですが、景気の停滞で所得が増えないこと、長時間労働で恋愛に時間を取れないことの影響はあると思います。また、女性の社会進出が進んだことで、正社員で働いている女性も増えているため、結婚・出産で正社員の仕事を失いたくない女性は、結婚・出産に対して消極的になってしまいます。少子化の流れを食い止めて出生数を増やすためには、所得を増やすこと、労働時間を減らすこと、女性が結婚・出産をしても、正社員の仕事を続けられる労働環境を作ることが必要です。

小売業の多くは生活用品を販売していて、ファミリーを前提にした店作りを行ってきましたが、少子化が進むとファミリーを前提にした店舗運営がうまく行かなくなります。現在、小売業では百貨店と総合スーパーの収益性が悪化していますが、百貨店と総合スーパーにはファミリーを前提とした要素が多くあります。例えば、百貨店ではお中元・お歳暮などの贈答品を贈る機会が減っていて、総合スーパーでは休日に家族連れで買い物をする機会が減っていて、どちらも婚姻数の減少、少子化の影響によるものです。

婚姻数が減少すると単身者が増加することになるので、小売業はファミリー前提の店作りから、ファミリーと単身者の両方に対応できる店作りへと転換しなければなりません。食品スーパー、コンビニでは単身者のお客さん向けに、1人分の容量に小分けした、生鮮食品、惣菜、食パンなどの品揃えが増えています。これまでのようにファミリーを前提にした品揃えを続けると、販売数の減少により売り場の効率が悪化してしまうため、ファミリーと単身者の割合を分析して、単身者向けの売り場を増やしていくことになります。

婚姻数の減少、少子化の進行により人口が減少していくと、店舗で買い物をするお客さんが減り、店舗で働く従業員も減るので、店舗そのものが縮小していきます。お客さんと従業員が減少すると、これまでのように大型店を運営することが難しくなるため、小売業は大型店の出店を控えて、小型店の出店を増やす方向へと出店戦略を変えます。小型店の出店を増やしている企業には、ニトリホールディングス、日本トイザらス、大塚家具などがありますが、これらの企業はファミリー向けの商品を多く販売しています。

婚姻数の減少、少子化の影響はすべての日本人、すべての日本企業が受けるものですが、人口の減少により世の中の何もかもが縮小していくので、非常にネガティブなものです。小売業は非正規の女性を多く雇用しているため、婚姻数の減少、少子化の進行に小売業も関わっていて、結果として小売業の売上高が減少する悪循環に陥っています。小売業はネットショップ、AI(人工知能)、ビッグデータなどのテクノロジーの活用で、収益性を高められるので、女性が正社員で働ける環境の構築にも力を入れたいところです。

仕事を持つ人が増え無駄の少ない優れた買い物体験が求められる

少子化の進行により若い世代ほど人口が少ないため、定年退職による従業員の減少を新入社員で補うことができなくなり、人手不足の企業が増加しています。人手不足を補う形で女性、高齢者の就業者数が増加していて、総務省が発表した2018年7月の労働力調査によると、15~64歳の女性に占める就業者の割合は69.9%で、比較可能な1968年以降で最高の数字になっています。小売業では賃金の安い非正規の女性の従業員を多数雇用してきましたが、最近は高齢者の従業員が多く働いている店舗も増えています。

女性と高齢者の就業者数は増加していますが、厚生労働省が発表した2018年7月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.01ポイント上昇の1.63倍で、依然として人手不足の状況が続いています。人手が不足しているため従業員の労働環境は厳しいですが、一方で、働き方改革で生産性を高めようとする機運も高まっていて、これからの労働環境の改善が期待できます。小売業においても、宅配の再配達を減らす、キャッシュレスを推進する取り組みが進んでいて、労働時間の短縮と収益性の改善を実現したいです。

仕事を持つ女性、高齢者が増えたことで、買い物に掛けられる時間や労力が減るため、お客さんはより便利、快適、簡単に買い物ができる店舗を選択するようになります。ネットショップは好きな時間に買い物ができて、店舗に行く必要はなく、重い商品も自宅に届くので、忙しい人が増えるほどネットショップを利用する人も増えます。高齢者のネットショップの利用率は低いですが、スマートフォンを持ち、ソーシャルメディアを利用する高齢者が増えていて、今後は、ネットショップの利用率も高くなっていくはずです。

Amazonのような大手ECサイトでは、複数のカテゴリーの商品をまとめて注文して、受け取ることができるので、お客さんは幅広いカテゴリーの商品を注文するようになります。Amazonで書籍を購入していたお客さんは、書籍だけでなく家電も購入するようになり、食品、日用品、衣料品と購入する商品が増えても、商品はまとめて受け取ることができます。Amazonがお客さんに提供している買い物体験は優れていますが、従来の小売業が真似をすることは難しいため、Amazonの売上高は増え続けています。

人手不足による女性、高齢者の就業者数の増加は、ネットショップの利用者の増加に繋がり、実店舗で買い物をするお客さんの減少へと繋がることになります。自動車を運転しない若者、高齢者が増えていることで、遠方にある大型店では集客が難しくなっていますが、女性、高齢者の就業者数の増加で、さらに集客が難しくなることが予想されます。これからの小売業の出店戦略では、お客さんと店舗の物理的な距離が近いことが重要になり、人口の減少スピードが遅い都市部に小型店の出店が増えてくると思います。

仕事を持つ人が増えていること、自動車を運転しない人が増えていること、ネット通販が拡大していることを考慮すると、実店舗には高いレベルの店舗運営を求められます。時間を掛けて買い物にきたのに、店員に専門知識がない、欲しい商品の在庫がないといったトラブルが続くと、実店舗ではなくネットショップで買い物をするようになります。スマートフォンを使って簡単にネットショップを検索できるので、適切に在庫を保持しなければ、実店舗はネットショップのためのショールームになってしまいます。

シェアリングエコノミーの普及で商品の販売個数は減少していく

モノ、サービス、スペースなどを多くの人が共有して、効率よく使用するシェアリングエコノミーが世界的に広がっていて、シェアリングエコノミーの普及は小売業にも大きな影響を与えます。シェアリングエコノミーの代表的なサービスには、宿泊施設をシェアする「Airbnb(エアビーアンドビー)」、自動車をシェアする「Uber(ウーバー)」があります。モノ、サービス、スペースを貸し出す側は、資産を有効活用してお金を稼ぐことができ、借りる側は必要なときに必要な分だけを効率よく利用することができます。

シェアリングエコノミーでは、モノ、サービス、スペースを共有して、効率よく使用するため、社会全体で無駄がなくなり、必要となるリソースは減少します。宿泊施設をシェアする「Airbnb(エアビーアンドビー)」の利用者が増えれば、ホテル・旅館の利用者が減り、自動車をシェアする「Uber(ウーバー)」の利用者が増えれば、自動車の購入者、タクシーの利用者、駐車場の契約者が減ります。今後、モノのシェアリングサービスが多くなれば、小売業が販売する商品の販売個数も減少することになります。

モノのシェアリングサービスでは、ファッションアイテムのレンタルサービスが増えていて、インターネット上では「airCloset(エアークローゼット)」の情報が多いです。「airCloset(エアークローゼット)」は月額定額料金で洋服をレンタルするサービスで、気になる洋服をまずはレンタルをしてみて、気に入れば購入することもできます。買ったけど気に入らなかった、思ったよりも着る機会がなかったというような無駄がなくなるため、優れたサービスではありますが、小売業が販売する洋服の数は減少します。

フリマアプリ「メルカリ」はCtoCのシェアリングサービスで、個人間で様々なカテゴリーの中古品の売買を行うプラットフォームを提供しています。出品者は中古品を出品することでお金を得ることができ、購入者は新品よりも安い価格で中古品を購入することができるので、出品者、購入者ともに金銭的な利益を得ていて、中古品は捨てられることなく有効活用されています。中古品が有効活用されることは良いことですが、フリマアプリ「メルカリ」で個人間の取引が増えれば、小売業が販売する商品の数は減少します。

少子高齢化の進行によって、小売業が販売する商品の数は減少してきますが、少子高齢化の進行び加え、シェアリングエコノミーが普及することで、さらに減少スピードが加速します。今後、販売数量の増加は期待できないので、小売業が売上高を伸ばしていくためには、高価格でも購入してもらえる付加価値の高い商品を開発しなければなりません。小売業ではプライベートブランドを増やして、売上総利益率の改善に取り組んでいる企業が多いですが、プライベートブランドの拡大がますます重要になっています。

一般的に、小売業が販売するプライベートブランドには低価格が求められていますが、お客さんの信頼が得られれば、高付加価値の商品も販売できるのではないかと思います。最近ではドン・キホーテの低価格の4K液晶テレビがヒット商品になりましたが、家電量販店でなくてもテレビのプライベートブランドが売れる時代になっていて、将来的には高価格のテレビも販売できる可能性もあります。プライベートブランドの拡大のためにも、店舗の専門性を高め、お客さんに信頼される店舗運営を行いたいところです。

ワークライフバランスを重視する若者の増加で採用が難しくなる

内閣府が2018年6月19日に発表した、16~29歳の男女1万人を対象にした「仕事に対する意識調査」によると、仕事より家庭やプライベートを優先する人が増えています。「仕事よりも家庭・プライベートを優先する」と回答した人は63.7%で、6年前より10ポイント増加していて、「家庭・プライベートよりも仕事を優先する」と回答した人は12.7%、「どちらともいえない」は23.6%です。若い世代は少子化により人口が減少しているだけでなく、仕事に対する考え方も変化していて、企業の人事戦略にも影響してきます。

最近の若者はやる気がないという意見を中高年から聞くことが増えていますが、働き方改革を行い、企業の生産性を改善するチャンスを迎えているとも言えます。小売業は低賃金の非正規労働者が多いため、安い人件費をあてにした生産性の低い業務も多数あり、テクノロジーの導入や作業の見直しで、生産性を大きく改善できるのではないかと思います。ワークライフバランスは従業員本人だけではなく、子育て、家族の介護などとも密接に関係しているので、働き方改革はすべての人に価値があるものです。

小売業はもともと人気の就職先ではありませんが、少子化の進行による人口の減少、仕事より家庭やプライベートを優先する意識の変化により、正社員の採用は今まで以上に難しくなりそうです。人手不足が続いていることで、若者は自分が希望する仕事に就きやすくなっていて、他の業種に就職できなかったので小売業へやってくるといったケースも減ります。小売業にとって、正社員の採用が難しくなることは危機ではあるものの、少ない人員で運営できる店舗オペレーションを構築できれば、収益性を高めることができます。

小売業が就職先として不人気になる大きな要因は、転勤が多いこと、給料が安いことの2つで、この2つは恋愛・結婚といったライフイベントに非常にネガティブなインパクトがあります。少子高齢化の進行、ネット通販の拡大によって、小売業の新規出店のペースは落ちていますが、不振店の閉店は増えていて、依然として転勤は少なくないと考えられます。また、小売業の成長には規模の拡大が不可欠ですが、一部の好調な企業を除けば店舗の増加数も停滞しているため、正社員の給料は大きな増加は期待できない状況です。

転勤の多さ、給料の低さは、小売業が就職先として不人気の要因ですが、一つの店舗で長く働いて、今よりも多くの給料をもらえるようになることは、実現可能ではないかと思います。店舗の売上高は店舗の売り場面積に依存していましたが、実店舗とネットショップを連携すれば、売り場面積以上の売上高も獲得することがでます。また、自動車を運転しない人の増加、ネット通販の拡大により、効率の良いドミナント出店の重要性が高まっているため、転勤の範囲は以前よりも小さくなっていくはずです。

小売業の店舗は生活に必要な商品を購入する場所ですが、様々な社会問題がある現代においては、地域のコミュニティとしての役割も期待されるようになっています。お客さんは頻繁に店員が入れ替わる店舗よりも、見たことのある店員が多い店舗の方が買い物がしやすいですし、従業員は恋愛・結婚といった人生設計がやりやすくなります。転勤が少ないことは、従業員、お客さんの両方から求められているものであり、小売業は新規出店による規模の拡大だけではなく、既存店の価値を高める方向性でも成長できます。