青山商事がネットと実店舗が融合した「デジタル・ラボ」を出店

青山商事がネットと実店舗が融合した「デジタル・ラボ」を出店

紳士服量販店の青山商事が、ネットと実店舗が融合した次世代型店舗「デジタル・ラボ」を2店舗出店するというニュースがあります。昨年の10月に秋葉原に第1号店を出店しており、さらなる成功を求めて追加の出店になります。

お客さんに洋服をネットショップで選んでもらい、試着と採寸を実店舗で行うことで、店舗の小型化と在庫の削減を目指すものです。お客さんに優れた買い物体験を提供することが一番の目的ですが、人件費を含めた店舗運営コストの削減、ビッグデータの収集などのメリットも期待できます。

実店舗とネットショップを融合させた新しいコンセプトストア

紳士服を販売している青山商事は、ネットと実店舗が融合した新しい買い物体験を提供する「デジタル・ラボ」という名前の次世代店舗を出店しています。実店舗とネットを融合させるオムニチャネルの取組みは小売業全体で行われていますが、EC化率の高いファッションでは特にスピード感があります。

「デジタル・ラボ」の1号店は2016年10月6日に秋葉原にオープンしていて、従来の店舗よりも売り場面積が小さいことが特徴の一つです。2号店は「東急プラザ蒲田店」、3号店は「島忠ホームズ仙川店」で、商業施設やホームセンターの中に出店します。

「デジタル・ラボ」の買い物方法は、在庫の制約がないネットショップで商品を選んでもらい、試着や採寸は実店舗で店員とともに行うというものです。ネットショップの1,000万点以上の豊富な商品から選んでもらえるとともに、実店舗の在庫を減らすことができるため、売り場面積の小さな店舗、ローコスト運営の店舗が実現できます。

購入した商品は最短2日で自宅に配達されるため、お客さんは買い物した後は手ぶらで帰ることができます。お客さんの自宅に配送するコストがお店側には発生しますが、その負担よりも大きなメリットを見込んでいるということになります。

昨年の10月にオープンした秋葉原店の実績では、ネットショップを利用して買い物をしたお客さんの割合が2割を超えているとのことです。2号店、3号店ではネットショップ経由の購入割合をさらに高めようとしており、この販売方法の方がより多くの利益が確保できると考えて良さそうです。

お客さんはネットショップで事前にお気に入りの商品を選んでいるため、実店舗でスムーズに購入してもらえる可能性が高いです。「このスーツは良さそうだね」という期待感を持って来店して、実際の試着後に「思っていた通り良いスーツだな」となると、そのまま購入しない理由はありません。

コンセプトストアに期待される販売効率と集客問題の解決

紳士服量販店が抱えている問題の一つは、多くの在庫を抱えなければならないため、売り場面積が大きなお店が多いことです。高齢化社会の進行、ネットショップへのお客さんの流出が続く中で、大型店の販売効率の悪化は小売業全体の問題です。

お客さんの立場からすると、紳士服は購入頻度が低く、商品の価格も高く、着心地も重要であるなど、買い物をするのが難しい商品です。お客さんは多くの商品を見て、試着して購入したいため、紳士服量販店に大型店が多いことは仕方がないことです。

紳士服量販店のお店は郊外にあることが多く、大型道路沿いにポツンとお店があるようなケースもあります。大きな売り場面積に大きな駐車場を持っていて、商圏は広く、お客さんが遠方から自動車で買い物に来てくれることを想定しています。

以前であれば自動車で遠方に買い物に出かけることも当たり前のことでしたが、最近ではお客さんに遠出を期待するこが期待しにくくなっています。お客さんの高齢化による体力の低下、若者の自動車離れ、自宅から買い物ができるネットショップの登場など、郊外の大型店の集客が難しくなっています。

青山商事が開発している新しいコンセプトのお店は、紳士服量販店が抱える問題の解決を目指しているものです。新しいコンセプトのお店は従来のお店と比較して相対的に売り場面積が小さく、集客力のある駅の近く、他の商業施設内に出店しています。

実店舗とネットの融合によりローコストで商品が販売できるようになれば、従来の店舗よりも高い利益率が期待できます。また、お店が小さければ正社員、パート、アルバイトの人数も少人数で済むため、人件費の抑制の点でも効果があります。

店舗の小型化による出店戦略・スクラップアンドビルドの柔軟性

お店が小さくなることによって運営コストが下がる効果に加え、企業の出店戦略が柔軟になるメリットもあります。多くの小売業では特定の店舗フォーマットを持っていて、同じ形の店舗をたくさん作ることでコスト削減効果を得てきました。

しかし、商圏の変化、お客さんのニーズの多様化、人口の移動などにより、特定の店舗フォーマットだけで店舗数を増やし続けることが難しくなっています。これまで郊外に大きめのお店を出店してきた小売業が、小さな店舗フォーマットで都市部の駅周辺や商業施設内に出店するケースが増えて来ています。

家具販売のニトリはこれまでは郊外を中心に出店していましたが、ここ数年は小型店舗フォーマットのニトリデコホームの出店が増えています。売り場面積の小さい小型店では品揃えが制限されるデメリットはあるものの、集客力のある立地、集客力のある商業施設内にも出店することができます。

例えば、売り場には1種類の見本商品を陳列して、色違いの商品はネットショップで購入してもらうようにすれば、売り場面積の小ささを補うことができます。お客さんは手ぶらで帰ることができるので、その後、映画に行く、食事に行く、友人に会いに行くにしても、購入した荷物を持ち歩く煩わしさから解放されます。

店舗が小型化することによって、店舗のスクラップアンドビルドの損失が抑えられるメリットも考えられます。小売業を取り巻く環境が厳しくなっている中で、出店が可能なエリアが広がる、失敗した時の損失が小さくて済むことは強みになります。

日本の人口は東京、大阪、福岡などの都市部に集中する動きがあるため、そうしたエリアで生き残れる店舗フォーマットが必要になります。集客力のある都市部、ローコスト運営の小型店、実店舗とネットショップが連携したオムニチャネル、こうしたキーワードが次世代の高収益店舗ではないかと思います。

便利な買い物体験によるお客さんの囲い込みと買い物データの収集

青山商事の新コンセプト店「デジタル・ラボ」の買い物方法は、お客さんを囲い込むことができる優れたものだと思います。幅広い品揃えの中から選びたいというお客さんのニーズを、売り場面積の制約がないネットショップを活用することで満たしたまま、店舗の小型化と在庫の削減ができています。

紳士服はお客さんにとって買い物が難しい商品ですから、商品の品質や価格の満足度に加えて、お店の信頼も重要なポイントになってきます。商品に不満がなく、買い物方法が便利であれば、お客さんは同じお店で長く買い物を続けてくれます。

実店舗とネットショップが融合した買い物方法を用いることで、お客さんの買い物プロセスを記録できるようになります。ネットショップでどんなキーワードで検索を行ったのか、どんな商品を見たのか、どれを選んでどれを選ばなかったのかというデータです。

実店舗では店員がお客さんといろいろな会話をするものの、その会話の内容を顧客データとして記録することが難しいです。顧客データが記録できない点は実店舗の弱点だったのですが、実店舗とネットショップを組み合わせた買い物方法によって、この弱点を補うことができます。

買い物に関連したアンケートを見ていると、「個人個人の好みに合った商品・サービスの提案」を求める意見が多くなっています。こうしたパーソナルマーケティングでは、ビッグデータを持つオンライン小売業が強みを発揮する一方、データが足りない従来の小売業はお客さんの期待に充分に応えることができていません。

従来の小売業がパーソナルマーケティングを強化するためにも、実店舗とネットショップの融合が必要になります。「デジタル・ラボ」1号店の秋葉原電気街口店のネットショップ購入率は2割程度となっていますが、この割合を増やして行くことで、パーソナルマーケティングの精度も高まります。