小売業が必要としている人材は店長や店員ではなくエンジニア

小売業が必要としている人材は店長や店員ではなくエンジニア

アメリカのニュース記事で見たのですが、優秀なエンジニアを採用できない小売業は生き残ることができないという意見がありました。小売業は店舗を増やして規模を拡大することで成長して来ましたが、ネットショップが台頭して来たことによって、店舗を増やすことが難しくなっています。

ネットショップの脅威が強まる中で、小売業の次の成長戦略はネットショップ、ショッピングアプリ、ビッグデータなどのテクノロジーの活用です。社会全体でテクノロジーの活用が増えていく中で、小売業もエンジニアを採用してテクノロジーを強化していくことになります。

アメリカの小売業ではIT部門を統率するCTOの争奪戦が起こる

日本の小売業はアメリカの小売業を参考にして来たため、アメリカで成功したやり方が時間差で日本にも導入されることが多いです。日本ではネットショップのAmazonが従来の小売業にとって脅威になっていますが、アメリカでは日本以上にAmazonが脅威になっています。

アメリカには世界最大の小売業であるウォルマートがありますが、実店舗のウォルマート対ネットショップのAmazonの構図になっています。ウォルマートがAmazonに対してどのような戦略を採るのかが、今後の日本の小売業がネットショップに対してどう対抗して行くか、戦略のベースになるのではないかと考えています。

ウォルマートはネットショップへの投資を行っており、Amazonがやって来たことを真似するような形になっています。お客さん個別に商品を提案するレコメンド、商品がすぐに届く当日配達はAmazonの強みですが、ウォルマートも同様にレコメンドや当日配達を強化しています。

Amazonと同じことをして同質化すれば、Amazonの強みを打ち消すことができます。AmazonはAmazonでしか買えないオリジナル商品を持っているわけではありませんから、買い物の利便性と価格の2つで大きく負けない状況へ持って行くことが対Amazonの最優先の戦略になっています。

アメリカの小売業はAmazonの脅威が大きくなる中で、実店舗ではなく、ネットショップやショッピングアプリへの投資を重視しているそうです。テクノロジーの開発のために研究所を設立したり、有名なテクノロジー企業からエンジニアを採用しています。

テクノロジー部門を統括する優秀なCTOを採用できなければ、生き残ることができないという意見もありました。多くの小売業が優秀なエンジニアを欲しがるため採用競争が激しくなり、エンジニアを確保できない企業はテクノロジー競争で後れを取ってしまうことになります。

新しいお店を作って売上規模を拡大することが難しくなっている

日本の小売業はアメリカの小売業を参考にして、チェーンシステムを取り入れ、規模を拡大することによって安売りを行って来ました。小売業が規模を拡大するほどメーカーに対する交渉力が強まり、安く商品を仕入れて安く販売できるというロジックです。

自社で商品を製造販売する製造小売業の場合も、商品が売れるほど1個あたりの原価が下がるのでやはり規模が不可欠です。しかし、小売業を取り巻く社会環境が変化したことで、お店を増やして規模を拡大することが徐々に難しくなっています。

規模の拡大が難しい理由の一つは、すべての小売業で品揃えの拡大が行われていて競争が激しくなっていることです。例えば、ドラッグストアは現在好調の小売業ですが、コンビニ、ディスカウントストア、ホームセンターと品揃えが重なります。

少子高齢化社会で人口が減って行きますから、売上を増やすためにはお客さんの来店回数、購入点数を増やす必要があります。多くのお店で似たような商品が売られるようになれば価格競争が激しくなりますから、利益を確保することが難しくなります。

もう一つはAmazonや楽天などのネットショップの登場で、ここ数年間で一気にその影響力が目に見えるようになりました。家電量販店の既存店は売上が減って利益率が低下していますが、こうした厳しい状態で新規出店を増やすことは難しいです。

現在はネットショップの影響が小さい業種も、将来のリスクを考えると新規出店に慎重にならざるをえません。ユニクロやニトリなどの製造小売業の商品は競争力がありますが、日本全国のネットショップの商品と比較されると厳しいです。

実店舗への投資よりもネットショップへの投資が効率が良い

新規にお店を増やして規模を拡大するやり方が難しくなる中で、小売業では既存店の売上を底上げすることが堅実な戦略になっています。2000年代は多くの専門店が郊外に出店しましたが、新規出店がうまく行っている時は既存店は重視されませんでした。

既存店の売上が少々落ち込んだとしても、新規出店で落ち込みをカバーして、全体で売上と利益が伸びていればよしという感じでした。しかし、新規出店で売上を増やすことが難しくなれば、これまで重視していなかった既存店の売上を増やさなければいけません。

実店舗とネットショップを統合したオムニチャネルが注目されていますが、既存店に新しい役割を持たせられる点が特に素晴らしいことです。アメリカでも日本でも先行する企業がオムニチャネルに取り組んでいますが、お客さんの購入回数、購入金額ともに増えているとの報告があります。

オムニチャネルによるお客さんとの接触機会、接触時間は増えれば、それに合わせて注文をもらえるチャンスが増え、売上も増えます。また、自社との接触時間が増えれば、他社との接触時間を減らすことができるので、他社の売上を奪っていることにもなります。

小売業の将来の見通しが不確実になる中で、実店舗よりもネットショップ(オムニチャネル)へ投資する方がリスクが小さいです。セブン&アイ・ホールディングスやユニクロは現在も好調の小売業ですが、オムニチャネルへ投資することを表明しています。

ウォルマートなどのアメリカの小売業トップ企業がネットショップを強化するということは、グローバルな視点からも、これが今後の小売業の方向性だと言えます。Amazonのプレッシャーが大きい日本の家電量販店では、ヨドバシカメラがネットショップへの投資を行い、Amazonと同質化することを目指しています。

エンジニアを採用できる企業とできない企業の差が拡大する

小売業がテクノロジーへ投資しなければならない理由は、お客さんが毎日の生活でテクノロジーを使うようになっているからです。例えば、実店舗で気になる商品があれば、その価格が妥当なのかどうかスマートフォンからネットの価格比較サイトを見ます。

「お客様、申し訳ありません、私どもの店舗ではスマートフォンの使用をご遠慮いただいています」と言いたいところですが、言ってしまえばすぐにお客さんを失います。こうした社会のIT化の流れに反することをやってしまうと、時代遅れのお店だと評価されてしまいます。

お客さんは積極的にテクノロジーへと投資を行い、買い物がしやすいお店になろうと努力しているお店を利用するようになります。Amazonでは値段も納期も分かる、実店舗では値段も在庫も分からないとなれば、実店舗には行かずにAmazonで買ってしまおうかとなります。

「うちは他の企業よりも優れたオリジナル商品があるからテクノロジーがなくても大丈夫」と言いたいところですが、これも危ないのではないかと考えています。優れた商品でもネットショップには類似品があり、テクノロジーを軽視しているとネットショップで買われてしまいます。

エンジニアは常に人材不足の職種ですが、情報化社会ではあらゆる産業でエンジニアが必要なので当然のことです。大手小売業は有名なインターネット企業の優秀なエンジニアを採用して、ショッピングアプリやネットショップを内製化しようとします。

エンジニアの確保にお金を使うことが難しい中小規模の小売業は、テクノロジーに勝る大企業に売上を取られてしまう可能性が高いです。コンビニ業界では既にIT投資の差が業績の差になっていますが、こうした傾向が小売業のすべての業種で起こると思います。