小売業のビジネスに影響を与えるお客さんのライフスタイルの変化

小売業のビジネスに影響を与えるお客さんのライフスタイルの変化

日本人の働き方、暮らし方、考え方が多様化していることで、買い物、飲食などの消費行動についても多様化することになります。これまではお客さんのニーズを考えるときに、性別、年齢などで一塊にしてみることが多く、このやり方で十分に対応することができていました。

しかし、近年はお客さんのライフスタイルも多様化していて、ライフスタイルごとに小さなお客さんの塊ができています。一つの商品、サービスで多くのお客さんに対応することは難しく、小売業もお客さんに合わせて商品・サービスの多様化が求められます。

正社員と非正規社員の間には賃金・消費の差が生まれている

日本のは失われた20年を過ごして来た言われていて、ここ20年の間に非正規社員が急増しています。飲食業、小売業、サービス業などでは非正規社員の増加が顕著で、賃金が相対的に安い非正規社員なしではもはやビジネスが成り立たないほどです。

難しい仕事をする人に多くの報酬が支払われるようになり、簡単な仕事ではスキルアップをすることもできずに給料が増えません。人材不足が言われていて、労働者の賃金が上がる可能性があることは良い傾向ですが、どれくらい上昇するのかはとても重要です。

これからはロボットが重要な役割を果たすと言われていて、ロボットの導入により人間の仕事にも変化が出ます。ロボットは物流倉庫で荷物を運んだり、店頭で接客を行うなどが想定されているため、これらの仕事をしている人は仕事を奪われるかもしれません。

一方、ロボットのプログラミングをしたりメンテナンスの仕事をする、専門性を持つ人材は、給料が増えて待遇が良くなります。ロボットが人間の仕事を奪う、奪わない、いろいろな意見がありますが、賃金格差が生まれれば消費活動にはマイナスです。

生活必需品を中心に販売している小売業の立場からすると、多くの人がそこそこの給料をもらう均等な社会のほうがビジネスがしやすいです。均等な社会ほど均等なニーズが生まれるため、規模の拡大が図りやすく、大量生産・大量販売ができるので儲かります。

しかし、現在のように格差社会が進行するようであれば、お客さんのニーズを見極めて対応しなければいけません。イオンは誰もが必要とする食品や生活用品を販売する企業ですが、富裕層と一般層と分けて対応するとの経営者の発言を読んだことがあります。

お金の節約のために一人暮らしをせず実家で暮らす人が増えている

昔から両親と同居して暮らす若い独身者が一定数いて、パラサイトシングルと呼ばれて少しお金持ちのイメージがありました。実家で暮らすことで一人暮らしをするための生活費を節約して、その代わりに自分の趣味にお金を使うことで人生を楽しむ考え方です。

小売業にとっても特に大きな問題ではなく、パラサイトシングルがビジネス的に大事であるとか問題であるなどの認識はありませんでした。普通のお客さんとはお金の使い方が少し異なりますが、割合が大きくはないので特別視する必要はありませんでした。

パラサイトシングルの話題を見かけることがありますが、現在のものは主に経済的な理由によるものです。お金がない、あるいはお金があるけど節約したいなどの理由によって、一人暮らしをすることに消極的になり、両親と同居する人が増えているそうです。

詳しいデータは失念したのですが、30歳以下の独身者の20-30%くらいが家族と同居しているとの統計を見たことがあります。日本全国で空き家が増えているとの報告もあり、世帯数が増えなくなることで小売業にも影響が出てくるのではないかと考えています。

実家で生活する人が増えると、家具、家電などの住宅関連商品は家族で共有するので売れなくなり、水道や光熱費なども効率よく消費されます。基本的にお金を節約するために実家で暮らしていますから、消費行動全体が消極的になってしまいます。

節約志向の若者たちは難しいお客さんだと言うことができ、どうやって商品を販売するのか戦略が必要になります。一方で、最近はプチリッチと呼ばれる少し高めの商品が売れることもあり、こうした現象は実家で暮らす若者のものではないかと考えています。

恋愛・結婚に対する価値観が変化して独身の人が増えている

結婚をする年齢がどんどん遅くなっていて、最近では30代で結婚をしてない人もたくさんいるようになっています。お金がないのか、お金がもったいないのか、他に大事なものがあるのか、いろいろな理由がありますが結婚をする人が減ることは事実です。

高齢化社会ばかりが注目を集めているのですが、「配偶者がいない消費者」のライフスタイルにも注目です。結婚している世帯と比較すると、少しはお金に余裕があるのではないかとと推測できますが、だからと言って買い物をバンバンするとは限りません。

結婚をしない人は新婚生活、子育てがないので、結婚をする人とは消費活動がまったく異なったものになります。子育は20-30年近く続くことになりますが、その間には家具、家電、洋服、食品、旅行など、様々な商品を買わなければいけません。

20-30年で見るとおそらく数千万円の支出になりますから、結婚をしない人が増えることが小売業に与える影響は甚大です。物を買わないお客さんが増えることになれば、物販だけではなくサービスを提供してお金を稼ぐなど発想の転換が必要になります。

男性、女性ともに独身者が増えれば、パートナーの不在を補うような商品・サービスが売れる可能性があります。例えば、独身の男性向けのものとしては、簡単に調理できる料理キット、家事全般の知識を教える教室、家事代行サービス、これらは有望な商品です。

独身の女性向けに売れるものとしては、家具や家電の設置サービス、買い物が大変な生活用品のネットショップなどが有望です。これまでは基本的には中高年は結婚しているものとして考えてきましたが、結婚をしない人が増えれば対応も異なって来ます。

消費を避ける・物を持たない暮らしを希望する人も出てくる

20年近くデフレが続いていますが、小売業には何よりも安さが求められ、そこそこの品質の商品がよく売れて来ました。衣料品ではユニクロやしまむら、家具ではニトリ、靴ではABCマート、100円ショップ、ディスカウントストアなどの存在感が大きいです。

お客さんは高品質の商品、高価格の商品には興味がなく、低価格で買えるそこそこの商品を強く求めて来ました。ユニクロの商品は他の人と被るのでダサいなどと言われたこともありましたが、低価格の商品を求めるお客さんに売れ続けて業績を伸ばして来ました。

現在でも低価格商品が売れ続けているのですが、物を持たない生活、捨てる技術というようなテーマの本が出ています。これまでは低価格とそこそこの品質があれば商品が売れていましたが、これからはこうした売れてきた商品も売れなくなる可能性があります。

低価格の商品も買うことが難しくなった、あるいは、低価格の商品に魅力を感じなくなった、このどちらも当てはまると思います。その他、インターネットを通じてたくさんの広告、商品を見せられるので、もう買い物自体が嫌になったというのもありそうです。

お店に商品を並べて待っていればお客さんが勝手に買い物にやって来る、こうした古い時代の小売業の考え方は完全に時代遅れになっています。お客さんはなぜその商品を買わなければいけないのか、買えばどう生活が変わるのか、商品を売るためにはストーリーが重要です。

少し前にダイエーが「商品は多いが欲しいものがない」と悪口を言われましたが、これが多くのお店で言われるようになります。高齢化社会を迎えて消費全体が縮小することに加えて、商品開発競争も成熟して、商品を買ってもらうことが難しくなっています。