小売業の店舗で働いている店員に簿記の資格を勧める理由

小売業の店舗で働いている店員に簿記の資格を勧める理由

私は小売業で働き始めてすぐに簿記2級の資格を取ったのですが、この資格を勉強していて良かったと思うことが多いです。企業やお店におけるお金の動きを理解すると、売上や利益を増やすためにやらなければならないことが理解できるようになります。

小売業では郊外に大型店を出店することが難しくなり、都市部に小型店を作ろうとする動きが出始めています。小さなお店を増やして一つ一つのお店を丁寧に管理するようになれば、お店の経営が理解できる簿記の資格の価値は高まると考えています。

簿記を学ぶことでお店が利益を確保する仕組みを理解できる

簿記の資格はそれほど難しくなく実用的なので、スキルアップの書籍やWEBサイトでよく紹介されています。昔は経理で仕事をする人が取る資格のイメージだったのですが、実際に勉強してみると、あらゆるビジネスパーソンにとって役立つ知識でした。

企業のお金の動きを記録する簿記の知識は、お店で働くすべての人が知っておいて無駄ではありません。企業はどのようにしてお金を調達するのか、商品を仕入れるのか、企業の運営にはどのような費用が掛かっているのか、企業活動の流れが理解できます。

店員の立場から在庫を見ると、在庫切れをしてお客さんに怒られる、在庫が溢れてバックルームが満杯になるというイメージです。在庫はお金そのものであると言われるのですが、自分のお金で仕入れているわけではないのでこの考え方はなかなか浸透しません。

在庫を破損させてしまうと損失として認識できるのですが、売り場に並んでいて売れ残っている在庫は損失とは認識されにくいです。売れない在庫が残っていると売り場の鮮度が落ち、次の商品を陳列できないのですが、こうした機会損失にも気が付きません。

お店は売上を得るためにあらかじめ在庫を持っていますが、これは在庫に投資をしていると考えることができます。お店に掛かる費用と聞くと、家賃、人件費、光熱費などはイメージしやすいですが、在庫にもお金が掛かっていると考える人は少ないです。

簿記を勉強した後で小売業の本質を考えると、在庫というお金をいかに効率よく回転させるかだと思うようになりました。すべての店員が在庫=お金だと考えるようになれば、商品の扱い方も変わりますし、売れないことを機会損失だと感じるようになります。

高齢化社会が進んで小商圏に対応した小型店の出店が増える

小売業は転換期を迎えていると考えていて、このことも簿記の知識があった方が良いと考える理由の一つです。商業統計によると小売業の売上高のピークは1995年くらいだとされていて、それ以降はお店の数は減って、売り場面積は増える傾向が続いています。

大企業が大型店を出店して売上を伸ばす一方で、中小店舗が閉店してしまうので、お店の数は減って売り場面積が増える結果になります。郊外に大型店を出店することが多くの小売業の戦略だったのですが、現在ではこの戦略も難しくなろうとしています。

小売業が大型店を出すことが難しくなる理由は大きく2つで、高齢化社会の到来とネットショップの登場です。高齢化社会が進むとお客さんの買い物の範囲が狭くなるうえに、単身世帯が増えると生活に必要な商品の需要が減ってしまいます。

ネットショップには複数のカテゴリをまとめる利便性があり、実店舗で時間と体力を使って買い物をする意義も小さくなります。こうした厳しい外部環境を考慮すると、これまで通り郊外に大型店を作るやり方のリスクは大きくなっていると言えます。

郊外に大型店を出すことが難しくなればどうするかというと、アクセスの良い都市部にリスクの小さい小型店を出店する小売業が増えます。イオンやイトーヨーカドーは小型店のフォーマットを開発して、都市部で小型店の出店を拡大しています。

コンビニとドラッグストアは小売業の中では好調な業種ですが、都市部に小型店という成功しやすいフォーマットを満たしています。お客さんが買い物に労力を使いたくないと考えているため、お客さんの近くに小型店を作らざるを得なくなると考えています。

大型店と小型店ではお店の運営に必要となるスキルが異なる

私は大型店でしか働いた経験がないのですが、大型店は人間のスキルではなく、規模の大きさを武器にして利益を確保しています。売り場面積が大きく、取り扱いアイテム数も多いですから、すべてを丁寧に管理することは不可能で、商品をドカッと発注してドカッと並べます。

発注や在庫管理のスキルが重要視されることはなく、商品の売れ残りや破損をたくさん目にしました。無駄や機会損失はたくさん発生しているのですが、売上と利益が順調に伸びていれば、費用面が軽視されてしまうのは仕方がないことでした。

一方、小型店の代表はコンビニですが、コンビニは売り場面積が小さいので商品の管理に力を入れています。天気や地域のイベントをチェックして、何が何個売れそうかを考えて数量を決めて発注をして、どれくらい売れたのか結果を検証して次の発注に活かします。

お店の規模が小さいので大型店よりも売上は小さくなるのですが、その分徹底的に管理をして、坪当たりの売上を究極的に高める工夫をしています。在庫管理や発注のスキルが重要視されていて、アルバイトやパートが各カテゴリを担当して管理しています。

お店が多すぎる、売り場面積が大きすぎる、小売業は飽和だともう20年近く言われて来ましたが、いよいよ飽和が現実的になっています。これから小型店を出店する小売業が増えて来ると、坪当たりの売上を重視するコンビニタイプの在庫管理が重要になります。

小売業が小さなお店を増やして、売上を積み上げていくようになれば、数字管理のスキルである簿記が役に立ちます。店員の仕事はスキルがいらない、商品を補充するだけの簡単な仕事だと考えられて来ましたが、小さなお店では店員のスキルで売上に差が出ます。

正社員が不足すればパート社員でも重要な仕事を任される

小売業は多くの非正規社員の存在で成り立っているビジネスですが、正社員と非正規社員では待遇の格差が大きいです。小売業においては労働者全員のスキルを活用するよりも、正社員を非正規社員の上に置いてヒエラルキーを構築する方が重要視されました。

家電量販店で値引き交渉をすると分かりますが、店員は決定権を持っていないことが多く、上司に聞きに行かなければいけません。値引きくらいマニュアルを作れば簡単に対応できるのですが、そうせずに正社員を特別扱いにして権限を集める企業が多いです。

少数の正社員にお店の権限が集中してしまうと、アルバイトやパート社員が意見することを控える空気ができてしまいます。アルバイトやパート社員の能力を埋もれさせてしまう状態ですが、大型店で売上と利益が伸びているうちは問題視されませんでした。

しかし、人材不足、小売業のブラック企業認定による不人気によって、少数の正社員を厚遇する小売業の人事システムも危機を迎えています。正社員の待遇はあまり変化がないと思いますが、アルバイトやパート社員の待遇は劇的に改善される可能性があります。

小型店が増えるとともに人材不足が深刻になれば、一つのお店で長く働いてくれるパート社員は大事に扱われるようになります。小売業にはパート社員として5年、10年と長く働いている人も多いのですが、長く働くのであれば簿記の資格はお勧めできるものです。

小売業では競争が厳しくなり、大型店の時代のように人材を無駄に遊ばせることはできず、パート社員にも重要な仕事が回って来ます。小売業各社のお店がコンビニのように厳しく数値管理されるようになれば、能力のある店員が自然と目立つようになります。